30幕 抜き打ちテスト
その日、漢字の抜き打ちテストがあった。満点が五十点の小さなテストだが、真面目に授業を受け、毎日コツコツ勉強していないと結構キツい。
教室にシャーペンを滑らせる音だけが響く。横目で太子を見る。何やらブツブツ言っているが、シャーペンすら持っていない。完全に解答を放棄してしまっている。僕はそんな彼をよそに問題へと戻った。
平仮名を漢字に直し、漢字を平仮名に直す。そんな問題を25問全て解く。時計を見ると、まだ5分程時間が余っている。テストに見向きもせずシャーペンを鼻に乗せて遊ぶ太子をよそに、僕はその最後の5分を見直しに使った。
「止め!」
そして、太宰治先生のその言葉でみんながシャーペンを離した。
「では、後ろから回してきたください。」
その言葉の後、みんなはその通りにし、やがて、自分の所に回って来た。僕はそこに自分のを重ね、前へ渡した。そうやって、前まで運ばれ、先生に渡された。
こうして、全員文のテスト用紙を集め終わった先生は、1つに束ね、チャイムが鳴ると教室を出ていった。
「『にんべん』忘れてたっー!」
「『さんずい』じゃなくて『にすい』だったかー!」
「横棒1つ多かったわー!」
そんな声が聞こえくる。
僕はそれは無視して、太子に言った。
「どうですか、太子?自己採点の方は...」
「50点!」
彼は言い終わる前にそう言い張った。
「嘘つけーい。」
僕はそう言ってやった。
そして、次の日の国語の授業。僕は44点。3問も間違ってしまった。僕は少し憂鬱な気分で太子に点数を聞いた。すると、
「50点!」
とドヤ顔でテストを押し付けてきた。あっ、ホントだ、50点...って...。
「5点だろ、これ。」
僕は言う。太子は
「ご...50点だよ。」
と少し焦った。
「5点。」
「50点。」
「5点。」
「50点。」
「5点。」
そんな馬鹿みたいな言い合いをしていると、後ろの方からイケメンの徳川慶喜の声がした。
「えっ!?慶喜また100点!?すげぇ!」
「でもでも、勉強なんてしてたか?結構遊んでばっかだった気がするが。」
「彼女とやったんだから、出来て当たり前さ。」
その言葉を皮切りに僕と太子の言い合いは止まった。ついでに、体も止まった。
同日、我が家にて。僕と太子は卓上にそれぞれのテストを置き、考えていた。なぜ、いかにも遊び人の慶喜がいつもあんな点数を取れるのかを。なんで、僕はあんなのに負けたのかを。
「結果は努力に比例する物では?」
「それを太子が言いますか。」
「私は何もかも捨てて、勉強に打ち込んできたと言うのに。」
「いえ、勉強もろとも捨ててますよ。」
「これが生まれもった才能の差と言う奴か!」
「太子には才能の欠片もありませんけどね。」
「さっきからうるさいぞ!妹子よ!」
出来るだけ自然に言ってきたつもりだったのだが、流石に頭に来たようだ。僕は一応しっかり謝っておいて、
「それにしても、慶喜って何なんですかねぇ。」
と言う。
「何処の誰かも分からない女と乳繰れあっているクソビッチ。故に残念なイケメン。」
太子が言う。たしかに、ある意味そうなのかもしれない。
「あの顔腹立つし、今度引き裂いて、納得のブスにしてやろうか!シャッー!」
猫の威嚇のようなポーズを取る太子。僕は、発言が暴力的になり始めた太子に、
「その変にしといてください。壁に耳あり障子に目ありって言いますから。」
と言った。
すると、太子の暴力的発言は止まった。だが、彼の体までが止まった。いや、少し震えている。
「妹子っー!妹子がそんな事言うから、怖くなってきたじゃないかっー!」
そう言って泣きついてくくる。僕はその顔を前へ押し込む。それても、彼は悶えながら、
「今日は一緒に寝てくれぇ!」
と懇願してくる。僕は折れることも無く、
「嫌ですよ、この野郎ぅ...。」
と彼を引き剥がし、自分の寝室に行った。
もちろんのこと、その日は扉の鍵を閉めて眠りに就いた。
「それにしても、太子の奴、ことわざも知らないなんて...。それで、文字通り受け取っちゃうとか、ホントバカなんですねぇ。」
と最後に陰口を言って。




