3幕 年号
「妹子、妹子!あれはなんだ!」
少し遅れて教室に戻ると、太子が血相を変えて、訴えかけてきた。僕は、彼の視線の先を見る...って!
「何だ、ただの縄文土器じゃないですかぁ。」
僕は、そうやって流そうとした。が、このバカ相手にそう上手くはいくはずがなかった。
「縄文土器ぃ!?妹子、今、縄文土器って言った?」
「言いましたけど?」
「ってことは、今って縄文時代?」
「違います。」
「にしては、竪穴住居が見えないな~?」
「だから、違いますって!」
「狩猟生活をしてる人もいないぞ~?」
「だから、縄文時代じゃないってんだろ!こんちきしょーが!」
怒り心頭で、つい、はしたない言葉が出てしまった。反省、反省(する気無いけどな)。
「じゃあ、弥生、古墳、飛鳥、奈良♪平安、鎌倉、南北朝♪室町、戦国、安土桃山、江戸♪明治、大正、それとも、昭和♪」
何か歌い始めたっぁぁぁ!しかも、センスなしぃぃぃ!そして、全部違ぇぇぇ!思ったことを全てこのバカ太子にぶつけてやりたかったが、何とか我慢して、
「違いますよ。平成です。」
と丁寧な言葉で教えてあげた。すると、彼は
「へーい、正解は平成ね~! 」
と言ったのだ。もう、我慢ならん。僕は堪忍袋の緒を切らして、
「一回で良いので、死んでください。」
と言った。それを、聞いた彼は
「妹子、最近、口悪くない?」
と言ってくるが知らんぷり。
「ねぇ、妹子ぉー!」
知らんぷり。
「もしもーし?いーもーこーさーん?」
知らんぷり。何を言われようと知らんぷり。
「知らんぷり太子無視する最上川。芭蕉、妹子による無視の一句。」
と、また、面倒臭そうな人が入ってきた。
「めんどいと妹子は思う最上川。芭蕉、妹子によるうんざりの一句。」
彼は不幸にも同じクラスになった、松尾芭蕉。自分が見たものを何でも川柳にしたがる、特殊性癖の持ち主。しかも、どんな句であろうと最後の五音は「最上川」。全く関係が無くても「最上川」。
「芭蕉君、やるねー!」
「誉められて心より笑う最上川。芭蕉、喜びの一句。」
しかも、2人は意気投合してしまっている。果たして、太子みたいなただのバカと芭蕉みたいな川柳フェチが合わさったらどれほど対処しにくくなってしまうのだろうか?考えるだけで、背筋が凍りそうなので、僕はその場から離れて、彼らのことを忘れることにした。