29幕 義朝と清盛
某日。僕と太子が一緒に歩き下校していると、ブロック塀の横で2人の男が何やら言い争っていた。僕たちはまだ時間に余裕があるのでしぼらく見ることにした。
だが、その言い争いはかなり痛ましく、話についていことが出来ない。さらに、意味の分からない言葉ばっかりで、話が読めすらしない。翻訳家、求む。まさに、そんな会話であった。
「我は東方の覇者にしての惟仁の末裔!神より授けられし我が刀は魔女も欲する。銘は髭切。征すは我が右手。そう!我が名は義朝!またの名を神器制御者!神の裁きを受けるがよい!」
「我は西方の覇者にして都督の末裔!神も恐れし我が刀はあまりの強大さ故、抜けば世界は深淵に呑み込まれよう。銘は小烏丸。征すは我が右手。そう!我が名は清盛!またの名を、暗黒剣士!恐怖に震え我が前にひれ伏せい!」
そう言って腰の刀を抜いた。と言っても、プラスチック性の玩具で斬ることなど不可能なのだが。それでも、その2人は
「シュキィィィィンッ...。」
「ブオォォォォォゥゥゥゥゥン...。」
と効果音を発し、激突した。
「バチバチバチッ!」
「キンッ!」
「ゴキンッ!」
2人は効果音を発しながら、玩具の刀同士ぶつけ合う。実際の音はカコン、カコンと言う淡い音なのだが、どうにも彼らは自分たちは本物の刀を持っているつもりのようである。その様子に、僕たちはしばし言葉を失った。
「で、あの人たち何してるんです?」
僕が聞くと、太子は
「中二病でしょ。どう考えても。」
と答える。さらに、
「どう見ても大人ですが?」
と言うと、
「うん。大丈夫?アレ。頭おかしくない?」
と返される。誰もがお前なんかに言われたいと思うだろうな。僕はその言葉をグッと堪えた。
「シュバッ!」
「くっ!」
清盛と名乗った男の効果音の後、義朝と名乗った男が片手で玩具の刀を持ち、左肩を押さえる。それでも、彼は自らの玩具の刀を振った。
「ギュゥゥゥンッ!」
「とっ!」
義朝の効果音の後に清盛は後ろへ飛び退く。さらに、清盛が刀を振る。
「ブゥゥゥンッ!」
効果音と共に、義朝は下がり、再び刀を振る。
そして、気付けば太子はいなくなっている。
「あれ、太子?」
と言って、周りをキョロキョロする。その中途、ふと後ろを見ると、
「うおぉぉぉりゃぁぁぁっっっ!」
と怒号を上げて、とてつもない速度で走ってくるのが見えた。
「うわぁぁぁぁぁっっっっっ!」
僕が叫ぶ。
「とうっ!とうっ!とりゃぁぁぁっ!」
太子はその勢いで3連飛び。その3回目で太子は「シライ3」を決め、まず2つの玩具刀を片足で吹っ飛ばす。それから、美しく着地をし、体を捻らせこちらを向く。さらに、もう一度「シライ3」を決める。そして、今度は両足で2人を吹っ飛ばした。人間離れした十七条の拳法である。
「勝利の漁夫の利!」
太子は言う。僕は目を細めて、
「ダサ...。」
と言う。すると、太子は僕の服を掴み、
「そんなこと言うなよ!」
と泣きついてきので、さすがに哀れだと思って、
「そうですね。かっこよかったです。」
「ドヤァ...。」
半ば適当だったのにも関わらず、太子はドヤ顔。腹立つ...!僕は拳を強く握りしめて、怒りを堪えた。
と、そこへ先程の男たちの声。
「是非、我を汝の弟子にしてくれたまえ!我が神の加護を授けようぞ!」
「是非、我も汝の弟子にしていただきたい!さすれば、我が魔が汝に大いなる力を与えるであろう!」
その2人はそう言って、太子に迫る。彼は困ると思ったのだが、杞憂であったようだ。満更でもない様子である。しかも、よりにもよって、調子に乗って彼はそれらを承諾してしまった。
この日から、太子の帰りは遅くなった。後日の下校後。僕は自分で入れた紅茶を飲みながら、
「ダメだ!太子の顔がどんどん広くなっていく!」
と灰となっていた。今まで人徳の少なかった太子は、中学に行っても顔が狭いと思っていたからである。




