26幕 太子との出会い
小学3年の夏。僕はクラブの帰り、芝生に設けられたテニスコートの前を通りかかった。そ子で、隣のクラスの聖徳太子が旧校舎に向かって壁打ちをしていた。
「はいぽん♪はいぽん♪はいぽんぽん♪」
その太子君は変な歌を歌って、ラケットでボールを打ち、跳ね返ったボールをまた打ち返す。
「おりゃぁぁぁぁぁ!」
時に思いっきり打つと、跳ね返ったボールで頭を強く打つ。そこには、一瞬でたんこぶが出来、太子はゴロゴロ転がる。
「あぁっ!いってぇ、クソいってぇ!」
転がりながらたんこぶの辺りを押さえている。
「こいつ...」
僕は唖然としながらも、囁く。
「絶対、バカだ。」
正門横の扉は軋むような音で開き、同じく軋むような音で閉じた。
そして、その次の日。また、同じ場所で太子は壁打ちをしていた。しかも、また
「はいぽん♪はいぽん♪はいぽんぽん♪」
歌を口ずさんでいる。さらに、昨日と同じ下りで頭を打つ。
「ほんっとバカだ、こいつ!」
そう言うと、そのバカと目が合った。
「と、隣のクラスの妹子。宜しく。」
僕は手を翳して、そう言う。すると、太子は目を細めて、
「ん~?こんな細い壁見たことないぞ?」
「いや、僕壁違うから!」
僕はそう言ってみせるのだが、
「ふあーい?」
とどう見ても、わざとらしい首を傾げる。
そして、何の躊躇も無く、僕に向かってボールを打ち始めた。しかも、器用にも鳩尾の辺りを狙ってくる。
「ぐはっ!?」
「ごふっ!?」
「げほっ!?」
ボールが当たって僕の口からそんな声が漏れる。
「いや、待てよ!」
僕は足下の地面を踏みつける。
「壁がしゃべった!?だ、大スクープだぁぁぁぁぁっっっっっ!!」
太子は吠える。
「そうじゃなくて!」
僕が否定するが、また僕に向かってボールを打ち始めた。
「おい、ナチュラルに再開すんなよ!」
僕はまた足下の地面を踏みつける。
「ワタシガイコクーンダカラ、ムズシイニホンゴワカラナーイデース!サイカイーッテナーンデスカ!」
そんな僕に、太子はわざとらしい片言でそう聞いくる。僕は彼を指差し、
「いや、あんた、今さっきまで流暢に日本語話してたでしょうが?」
と言うと、彼は
「ふわっつ?」
と言って、また首を傾げる。
「こいつ...!」
僕は歯軋りをする。
と、太子が
「で、再開って何?」
と真面目な声で聞いてきた。それマジだったのか!本当にバカだ、こいつ!僕はそう思いつつ、
「良いでしょう!そっちがその気なら勝負です、勝負!テニスのシングルス、3ゲームマッチで!」
そう言うと、グッドポーズをした。顔は嫌そうだが、真面目に戦ってくれるそうである。
それから、僕は太子と共にテニスコートに入り、彼から貰ったラケットの柄を強く握る。こうして、僕と彼の真剣勝負が始まった。




