#7 遊戯的な退化
明確な目標というものを見つけてからの月日はとても濃い物のように感じることが出来た。世界最強を卸すという曖昧な目標でやってきた六年間とは違い、この三年間は一瞬一瞬も自分の体を最適に動かすための方法と制約の中で動かすことができる程度、進化の実感をそれぞれ試すことに費やした。
結果として『七つの制約』の中の一つの制約『楽しい生活』というものは普段の生活でクリアされているようで、常時『遊神モード』が使える状態だということが分かった。その『遊神モード』という状態が『遊戯的な退化』を十分に発揮できる状態であるということも確認済みだ。
『遊戯的な退化』は自分に対してはもちろん、他人に対しても使うことができる物だということを確認した。確認の様子は大体こんな感じだった。
「フレア、ちょっといいか?」
「何!ついに私の物になってくれるの⁉」
「いやいやいや、俺が十歳になった時に二対一で戦って勝ったらって言っただろ?」
「そうだった!興奮のあまり忘れてたよ。昔からずっと一緒にいたはずのお兄ちゃんが死んじゃって、私達も寂しくて後を追って、そしたらクロノスとかいう人と会ったんだよね。そう、あの時お兄ちゃんが腹部を貫いたあの女。いい気味だったよ、本当に。私も瑞希もずっと上空で笑ってたもん」
やっぱりこの二人は俺の妹達だったようだ。道理で病んでる部分が前回と同じだと思った。見た目は可愛いのに、この病んでる部分がダメにする。まともであれば、俺も兄妹的な意味で好きになれたかもしれないのに。…まぁ、最近はドMと比べればヤンデレのほうがましかなって思い始めてるんだけどさ。
「やっぱりお前だったんだな。…はぁ」
「なんでため息をついたの?…そういえば、なんで私に声をかけたの?何か用事があったのかな?お兄ちゃん」
「あぁ、そうだった。陽奈多、お前が進化の力を持ってるんだっけ?」
「違うよ?私じゃなくて、瑞希だよ?呼ぼうか?」
「ん、頼むわ」
『血壊』状態になった陽菜多がどこかへと飛び去っていく様子を眺める。現状通常の状態である『遊神モード』で軽く地面を殴りつけるが、三年前にクロノスを殴った時に放った【不可逆のラグナロク】。それ以上のクレーターが地面にはできていた。一瞬一瞬進化を続けるがゆえに、一番弱いこの通常になりつつあるこの状態でも三年前の『壊神モード』と同等の火力が出るようになっていた。
こんな風に進化の力を感じられるようになっているのはとてもいいことに感じる。親父殿や母様も進化や退化の力が流れているのか、現状クロノスと俺を除く全ての存在には勝てるだろうくらい強くなっていることだろう。
「遊神モードって、本当なら一般にも溶け込めるようにってクロノスが用意したモードらしいんだけどな。もはや人外レベルにまで進化しているんだよな。グラムも弱っちく感じるようになったし、余計グロムとアイレの存在が…」
『ソーラ、それはひどすぎないか?さすがに俺も泣きそうなんだけど』
『…ソーラひどい。魔法も精霊の力も使わない、その上『血壊』も使わないで『壊神モード』と同等の火力だなんて。…私たち、必要?』
俺の目の前でそれぞれ泣き始めてしまう精霊二人。確かに既に過剰戦力じゃんと思い始めているものの、さすがに言葉に出すようなことはしなかった。しかし、この二人は薄々気付いていたようだった。…って、この流れ、俺、完全に悪い人じゃん。
「別に俺はお前らを必要ないって思ったことはないぞ。最初から俺と契約してくれた大切な家族だ。お前らが嫌がっても逃がさないから。お前らは俺にとって家族であり、大切な相棒たちだからな」
『な、そんなことを言われても嬉しくないんだからな』
『…これはこれで。私たちを必要としてくれてる。……それだけで、私は戦える』
先ほどの泣き顔とは一変し、嬉しそうな表情に変わっていた。うん、すっげえ可愛い。グロムも三年の間にわずかに成長し、首程度にしか伸びていなかった髪は腰まで伸び、釣り目だったその瞳は僅かに垂れていた。前よりも優し気な雰囲気になっていた。
一方アイレはあまり変わっていない。しいて変わっている部分を上げるとするのであれば、身長が伸びたくらいだろうか。これに関してはグロムにも言えることなのだが、身長が俺よりも高くなってるってことが問題だ。9歳の平均身長がどの程度なのかはよくわからないが、俺の身長は約125cmとなっている。そのため、身長が約155cmほどもある二人を見上げる形となっている。
しかも、何よりも大変なのが妹二名よりも身長が小さいことだ。前世から身長は小さかったが、ここまで受け継がれなくてもいいと思うんだよな。一度でもいいから人を見下ろしたかったんだけどな。
「あぁ、そっか。みんなを地面にめり込ませれば俺が見下ろすことができるようになるのか。…さて、手始めにそこらへんで酒を飲んでる親父殿とグラムから始めるとしようか」
『な、なあ、ソーラは何のためにここに来たんだ?いつもならこの森にいる神を殺しまわっているのにな』
「あ、すっかり忘れてた。フレアは一体、いつになったら戻ってくるんだ?」
「お兄ちゃんの声を聴いて戻ってきたよ」
「やっほー、久しぶりだねお兄ちゃん」
最近は弱い神を殺しまくっているせいで、まともに家にも帰っていなかった。そのため、こうしてアクアと会うのも三か月振りだった。アクアどころか、フレアと会うのも久しぶりだったんだよな。二人は全く成長してないな。うまく隠しているのかはわからないが、進化の具合も成長の様子もない。しいて上げるのであれば、跳躍力が上がっていたことくらいだろうか。
「お兄ちゃん、私に何か用なのかな?」
「ん?あぁ、俺の持つ『遊戯的な退化』は他人にも効果があるのかってことを調べてみたかったんだよな。ってわけで、実験台として進化の力の一部が流れ込んだアクアに協力してもらおうって思ったんだよ」
「いいよ。何をしたらいいの?」
「アクアはその場に立っているだけでいい。やるのは俺だからな。…堕落の意識、どこまでも落ちていくような、沈むのような感覚に身を任せて」
体の奥底に存在する退化という表に出ることのない力を強制的に表面に浮かび上がらせる。右手の甲には黒いジョーカーのようなイラストが、左手には赤いジョーカーのようなイラストが出現していた。
「『廃神モード』。……みんな、一緒に落ちるとこまで落ちようぜ?」
空中に黒い槍が二本精製される。禍々しいオーラを放つその槍をフレアとアクアに向かって放つ。純魔力で生成されたそれに攻撃力といったものは一切存在していない。純魔力に退化の力を詰め込んだそれは成長や進化した者の今まで経験をすべてリセットさせるものだ。
しかしそれはあくまでも本気で放った時のもので、今回はお試しということで消される範囲は今日分の進化や成長のみとなっている。副作用として一時的に髪が白くなるが、それこそきちんと退化が機能している証拠にもなる。
「退廃の槍。火力なんてものは一切ないけど、脅威でいうのであれば、今まで生きてきた年数が多ければ多いほどその効力は増す。…これをあのドMに使えばよかったな防御力も関係なく、塗りつぶせたのに」
その瞬間、黒いその槍は二人の胸を貫き、中へと入りこんでいく。白髪へと変わった二人は地面に崩れ落ちた。…無事に、力を発動させることができたようだった。いや、よかったよかった。これで、他人の力も退化させることができたと確認することができたな。
これが退化の力を他人にも使うことができたのかという確認の様子。ついでに『遊神モード』がどの程度に進化したのかという確認も同時に行うことができた機会だった。今も神殺しを続けた結果は次回にでも報告しようか。
とりあえず、現状言えるのは一番最弱の『遊神モード』が三年前の『壊神モード』レベルにまで進化することができたってことくらいかな。