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#3 狼と精霊

 目が覚める頃には家が消失していたという事件から早くも六年の月日が経過していた。当時は不思議に思っていた両手の甲にある陰陽太極図のような模様にもつい最近ようやく慣れ始めた。

 そしてね、ここで大事なお話があるんだよな。…なんと、俺に妹達ができました。とはいっても四年前にだけどな。名前はフレアとアクアって言って、なんやかんやで可愛いんだよなぁ、これが。前世の妹よりもまともな妹に育ってほしいって、つくづく思うね。

 前世の妹は一体どこで間違ったのか、ヤンデレに育ってしまった。本当に、ヤンデレにだけは育ってほしくないね。普通に育ってくれれば普通の感性を持つと思うだけどなぁ~。ヤンデレがかわいいって思ったのは二次元の中だけだな。他人事だからこそ可愛く感じるけど、実際にヤンデレがいると心に余裕がなくなるんだよな。

 こんな現実逃避は措いておいて、もうそろそろ現実を見るとしようか。


「…さて、どうしてこうなったのか」

『グルルルルルルルル』


 目の前に現れた巨大な猪が三匹、背後に妹が二人。その後ろにニヤニヤと笑みを浮かべる父クロゼと母イリヤ。本来であれば家族でこの森で遠足のようなものをするつもりだったのだが、この猪達が木々の隙間からノシノシと現れてきた。

 圧倒的存在感と、その獰猛な目で俺達を睨み付けてくる。その目に怯えて、フレアとアクアはクロゼ達のほうに行けばいいのに、わざわざ俺の後ろに隠れる。…はぁ、なぜ?


「…フレアにアクア、ちょっと離れててくれないかな?妹に言うのは心苦しいけど、…今は邪魔だから。クロゼ達のほうに行って」

「………え?」


 絶望した表情の妹達に少々心苦しく感じる。…だが、事実なので仕方がない。

 なかなか動こうとしないフレアを担ぎ、後ろにいるクロゼ達の方へと向かう。背中を向けた途端、恐ろしい速度で襲い掛かってくる。


「…やれやれ、ごみ処理は得意じゃないんだけどな。……いつもやりすぎてしまう」


 地面に落ちていた小石を手に取ると、襲い掛かるその巨体の脳天に『本気』で投げつける。俺の本気で投げられた小石は猪の脳天を貫くだけでは留まらず、猪の体を破裂させ、背後に存在した景色が消失した。

 あぁ、やはりやりすぎてしまった。…だが、少々やりすぎるくらいがちょうどいいだろう。


「なぁ、親父殿。本気出すから、逃げておけよ」

「ちょ、お前マジかよ。お前、俺を軽く捻ることができるのに『血壊』まで使うつもりかよ。…はぁ、俺の本気の封印も簡単に破ることができるって、マジで凹むわ」

「そんなことを言ってる場合じゃないでしょ!ソーラ、今日の夜ご飯はイノシシにするから、一匹は原型をとどめさせておいてね」

「了解。ヒヒッ、それじゃあ気晴らしの『獣神モード』。あくまでも俺の半身、獣人(ワービースト)の要素を極限まで高めただけのお遊びだ。いずれか神を卸すその時まで『本気』は出すけど、『全力』は出さないだろうね」


 どうせ言っても聞こえていないだろうけどさ、そんなことを呟く前に猪達は俺を殺そうと、突撃してくる。でも、遅いんだよな。殴るだけでは芸がない。いつもなら、殴るだけで済ませてしまうからこそ、たまには違う手段で殺したいと思うようになる。

 精霊と契約をしたことをよく忘れる。そのため、俺が戦うとき、必然的に肉弾戦になる。だが、今回は精霊の存在を思い出したということもあり、今日は精霊の力を使って倒すとしよう。

 肉弾戦よりも体を傷つけずに殺すことも出来るだろう。

 

「でも、二匹ぐらいはこの状態で殺さないと、このモードになった意味がないよな。いなくなったとしても、また探せばいいだけだしな」


 近くにいた一匹の猪に無音で近づくと、頭を軽く握る。既にこの段階で既に骨などが軋みを上げているようだったが、気にせずに握る力を強める。

 メキッ…ゴキッ…グチュッ。

 本来体からならないだろう音を立てながら、体の形が変わっていく。握る力が強くなっていくたびに、その体は小さくなっていた。最後には掌サイズにまで縮小されると、何のためらいもなく握りつぶす。


「あと一匹だぁ」


 この一匹を殺した段階で、俺の両手の甲に存在する陰陽太極図から黒い血管のような模様が伸び、両腕まで浸食していた。鏡等のものがないため額などはよくわからないが、目の紋章の上に、天秤座のシンボルマークが現れていることだろう。

 『無尽蔵の進化インフィニティ・エボリュート』によって六歳とは思えないほど、引きあがった身体能力になっている。それこそ、そこらへんに落ちている木の枝で山を斬ることができるほどには引きあがっている。

 だが、実際にはこの一瞬一瞬のうちにも進化しているため、今、この瞬間も身体能力が上がり続けている。と、同時に『血壊』の状態の力も上がり続けている。


「ていっ」

「GYAAAAAAAAA!!?」

「ん?軽くデコピンをしたつもりだったんだけど、空気鉄砲で死んじゃったねぇ」


 猪から20mほど離れた場所で行ったデコピン。中指に押された空気が不可視の軌道を描き、激しい音を立てて巨体を破裂させる。辺りが血で汚れてしまっていた。

 その血の匂いに誘われ、今度は巨大な狼が現れた。群れで現れたようで十匹の狼が俺の前には現れた。その十匹の中で、一回り大きな狼がのしのしと俺の目の前まで歩いてきた。


【お前、クロゼとイリヤの息子か】

「んぁ?親父殿を知ってるのか…。いやぁ、親父殿の知人を殺すのは心苦しいが…死ねぇ」

【待て待て待て。あの二人の息子なのに、戦闘狂かよ】

「戦闘狂ってわけじゃねえけどな。自分の力がどこまで通用するか確認ってのと、食糧確保が目的…って、あぁ!猪、破裂させて、原型をとどめているやつを持って帰んないといけないんだった!」


 あぁ、やばい。母様に怒られる。…母様が怒った時は全力を出しても勝てない気がするんだよな。威圧的な意味で。


【あぁ、確かにイリヤを怒らせるのはやばいよな。猪の原型をとどめたやつがほしいのか?なら、我らが持ってきてやろうか?】

「マジか⁉」

【だが…普通に持ってくるのもつまらないだろう?だから、我らに勝ったら持ってきてやろう】


 なるほど、戦って勝てば持ってきてくれるのか。…なら、久しぶりにあいつらを使うとするか。まぁ、運が良ければ死ななくて済むんじゃないか?こいつらを使って、戦ったことがないからわからないけどな。


「今日は久しぶりに出血大サービスだな。グロム、アイレ。本気で行くぜ。楽しく、盛大に、殺戮タイムだぜ」

『ソーラさ、俺たちの存在を忘れすぎだろ?それに封印魔法とかいうチート魔法も使えるし、それになんだよ。固有スキルを二つも持ってるって…頭おかしすぎるだろ』

『…ソーラ、私たちにも気を使うべき。私たちも寂しいんだよ?ソーラが一人で戦ってる姿を見ることしたできないんだから。一人で戦おうとしたら…オシオキしちゃうゾ?』


 怒ったようにいうのは契約している雷の精霊『グロム』。釣り目で金髪の少年のような姿をしていて、背中からは電気のようなものでできた羽が生えている。少年のような姿をしているとはいえ、精霊の性別は基本的には女だけのようで、グロムも例には漏れず女となっている。

 逆に寂しそうに、しかし、儚げな笑みを浮かべる風の精霊『アイレ』。狐耳のカチューシャをつけ、白いワンピースを身に纏い、その首には青色の蝶のアクセサリーが付いたチョーカーをつけている。性格は…うん。察してほしい。…どうしてこうなった。最近使っていなかったからなのか?いや、契約した当初からそうだったな。


「さて、用意はいいか」

『し、仕方ねえから、一緒に戦ってやるよ。べ、別にソーラのためなんかじゃないからな‼』

『…はい、思う存分泣かせてあげましょう』

「『混神モード』。今日はやけにモードの切り替えが多いな。それに、このモードになるのも一体、いつぶりなのやら」


 半身が電気に包まれ、半身が風に包まれ、右目は金色に、左目は緑色に変わる。この状態では『血壊』は発動することはできない。その代りに、精霊の力を十二分に発揮することができる。

 『獣神モード』が物理特化というであれば、この『混神モード』は特殊特化ということになるだろうか。

 さて、早速大技と行くか。


【先手は譲ろう。お前ら、初撃が来るまで待機だ】

「お、サンキュー。―――今は遥か遠き闇の空。永久の夜天に散りばめられた無尽蔵の星々」

『稲妻の精霊よ、我『グロム』の名において命ず。我がもとに集まりて、我が剣となれ』

『訪れるは終焉、導くは原点。解き放つは一閃の風の矢。我は弓兵、我は狙撃手。穿ち抉るは必中の矢』

「我に疾風迅雷の加護を。来れ我が雷の精霊グロム、我が風の精霊アイレ。我が雷は閃光となりて荒野を駆け、我が風は死牙となりて黄昏を走る。星屑を穿つ光となりて、敵を討て」


 長文詠唱。詠唱が長い代わりに強力な精霊の力等を使うことができる。精霊と契約している以上、使うことができるのは精霊の力と封印魔法しか使うことができない。この二つの魔法は基本的に詠唱は一節ですぐに発動できるものが多いのだが、この魔法は例外。

 詠唱は長ければ長いほど、完成までに集中力を保たせる必要がある。それに大量の魔力を使うことになるため、それを制御する必要がある。魔力を制御し、形を持たせるという意味でも詠唱は必要なため、結局一番大事なのは最後まで詠唱しきる集中力だろう。


「貫け、【インドラ・オブ・ゴートゲイル】」


 山羊の形をした雷が、風を纏った矢が、天高くまで登りあがると、無限に輝く星々の数だけ分裂し、地上へと雨のように振り注ぐ。雨のようにと入ったが、実際は当たる対象は狼たちと選択しているため、それ以外には一切当たることはないだろう。


「ふぅ、疲れた」

『はぁはぁはぁ…、っはぁ。疲れた』

『うふふ、まだまだ元気そう』

【おいおい、予想以上だな。チッ、まさかこんなに重傷を負うとはな。…あぁ、何もできずに負けるとは、あぁ、約束は守る。お前ら、飛び切りうまい猪を連れていくぞ。あぁ、何匹でも構わねえ。俺達もイリヤの飯を食いに行くぞ】

【おぉぉぉォォォォォォ】


 重傷で倒れていたとは思えないほどの俊敏さで狼たちは猪を狩りに行く。…さて、俺は一足先に帰っているか。

 

 狼たちが大量の猪を持ってきたことで、今夜の料理が豪華になったとだけは言っておこう。ちなみに、食後自分の部屋で寝ていたのだが、朝になるとハイライトのない目で妹達が俺を見ていたことに恐怖を覚えたことも言っておく。…前世の再来がないといいのだが……。 


 

 

 

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