#1 神の空間
紅の液体が俺を染め上げる。体が何かに食いちぎられたかのようにぽっかりと失ってしまった。腹に手を当てようとするが、腹と呼べる部分はすでにその場所には存在していなかった。
――――――あぁ、なるほど。俺はここで死ぬわけか。
突然起こった意味不明な事象。何かできるわけでもなく、気が付いたら起こっていた事象。周りの目にも気が付いたら俺の腹部がなくなっていないように見えたようで、写真で俺のことをとっている人すらもいた。
これはきっと明日のニュースにでも乗ることだろう。最後の最後に有名になるというのはなかなかできない体験だな。
あの時あんなことをしておけば、そんな後悔が次々と俺の胸に溢れてくる。でも、それは今言っても遅いことだ。俺は死んでしまうのだから。
意味不明な事象、そんな事象などを周知することができたのであれば、何かしら対策もできたのではないだろうか。
――――――もし、生まれ変われるのであれば、いろんな出来事にも対応できるようにしたいもんだな。
そんなフラグを立てながら、ゆっくりと意識の波にのまれていった。
俺、上地 宏斗は絶賛、意味不明な状況に陥っている。何を言ってるかわからないとは思うが、体験している俺ですら何が起こっているのかよくわかっていない。ただ、一つ言えるのは、流れ的に異世界に召喚されるようなパターンに入ったということだけだろうか。
【ようこそ、神の空間へ。私はこの神の空間の支配人のクロノスでございます】
うん、やっぱり異世界に転生、もしくは召喚されるような展開になるようだ。この神の空間と呼ばれる部屋の中には俺を含む五人の男女がいた。
全員が学生のようで、制服を着ていた。しかし、全員違う学校のようだった。
ちなみに、俺も高校生だが、学ランの下には何を着てもいいという校則があるため、黒色の学ランの下に紅いパーカーを着ている。ちなみに、季節が肌寒い春だったということもあり、紺色のマフラーを首には巻いている。
それにしても、ほかの制服を着た男女も同じ時間からこの場所に呼び出されていると思うのだが、ワイシャツにネクタイ程度で寒くはなかったのだろうか?俺の周りの奴らもマフラーをしている奴はいなかったが、ワイシャツ姿の奴もいなかったな。精々学ランを羽織っている程度で。俺ほど防寒対策をしている奴はいなかったな。
【あなた方は私共のミスで死んでしまいました。いえ、うち三人は巻き込まれて死んでしまった方ですね。…あぁ、死んでしまうとは情けない。上地さん、広瀬さん。あなた方には大変申し訳ないことをしてしまいましたね。如月さん、相馬さん、結城さん。あなた方は広瀬さんに巻き込まれてしまうとは運がないですね】
「ふざけんなよ、どこぞの誰とも知らねえ奴に巻き込まれるなんてよ!どうしてくれるんだ!!」
顔見知りでもないようだ。それに俺以外の四人は同タイミングで死んだらしい。知らない人に巻き込まれて死んでしまったのであれば、こう憤るのもわかるような気がしなくもない。しかし、俺は一人で死んだのか。それは、それで、悲しい気がするな。
それにしても、立てたフラグが回収されたな。この様子だと転生するという流れまでに行くことができるだろう。
【まずは先に一緒に死んでしまった四人のほうから転生させます。まずは広瀬さんと巻き込まれた三人から送ります】
「はぁ?転生させる?アニメか何かかよ」
【もちろん特典も用意しております。しかし、広瀬さんは私共のミスで死んでしまったので転生得点は二つです。ほかの御三方は一つですね】
「どういうことなんだよ。なんでこの女が二つで俺たちが一つなんだよ!」
如月と呼ばれた男が広瀬と呼ばれた女を指さしながら、クロノスを名乗るローブにそういう。…今の話の中にどれ一つとして正確な要素がないな。少し真面目に現在の様子を伝えることにしようか。誰に伝えようとしているのか、全くわからないけどな!
とりあえず、黒い柄のついた遮光カーテンのようなものがあたり一面に付けられた部屋、『神の空間』いた俺たち五人。クロノスと名乗るローブが俺と広瀬と呼ばれた女を間違って殺してしまったとのこと。広瀬が死んだとき、近くにいた如月、相馬、結城の三人の男女が巻き込まれたとのこと。
んで、本来死ぬはずじゃなかった者たちが死んだということで特典というものを選び、異世界に転生するらしい。
…正直、フラグが回収されることになるとは全く思わなかったな。転生フラグ、立てるんじゃなかった。
【広瀬さんと上地さんは私共が間違って殺してしまいましたが、御三方は巻き込まれただけ。そこの差ですね。広瀬さんはいったん後にしましょうか。先に邪魔…いえ、巻き込まれた御三方に特典を渡して転生してもらいます。転生場所は全員同じ世界ですが、どんな場所に行くか、年齢などはランダムです。現在の年齢より上になることはありませんよ】
「オイ、今邪魔者って言おうとしたよな?そうだよな!?」
【それでは御三方、その名前の書かれた看板の前に立ってください】
看板にはそれぞれの名前が書いてあり、その場所だけ床の色が変に色が薄かった。
『如月 晃大』
『相馬 臨也』
『結城 水樹』
このように書かれ、その名前に該当する場所にそれぞれは移動していた。
【それでは如月さんのほうから一つ特典を聞いていきます】
「俺は無限の魔力を所望するぜ」
【なるほど。では、あなたにはこの固有スキルを与えます。『無限に溢れ出る魔力』】
クロノスの手元から∞のマークの付いた白い光が現れると如月の胸元に吸い込まれていった。しかし、それ以外に変化は見られない。
【はい、次】
「僕は相手を即死させることができるほどの攻撃力が欲しい!」
【なるほど。では、あなたにはこの固有スキルを与えます。『即死の罠張り』】
次は髑髏のマークのついた黒い光が相馬の胸元に吸い込まれていった。だが、それ以上の変化は如月同様、見受けられない。
【はい、最後】
「私は魔法の全属性が使えるようになりたい!」
【なるほど。では、あなたにはこの固有スキルを与えます。『精霊の加護』】
最後は羽のマークの付いたいろんな色の混ざったような光が結城の胸元に吸い込まれていった。他とは違い、背中からわずかに六色の光が漏れ出していた。
【それでは最後に種族を決めてもらいます。選択することができるのは次の種族です。…選べるのはもちろん一つだけですからね】
空中に大まかな種族が四種類浮かび上がった。そこから枝分かれしているが、そこまで詳しく種族を選択するとなると特典として選ぶ必要があるようだった。浮かび上がった四種類の種族は次のような者たちだった。
【人間】:一番脆弱な種族。能力も基本的に平均的で、冒険者ギルドによって転職することによって、その職業ごとに特化した能力値を得ることができる。また、職業はレベルが上がるごとに増えていくため、レベルが上がるごとにどんどん人外じみていく。晩成型。
【天使】:あらゆる魔法に光属性が強制的に付与される。基本的な姿は人間とあまり変わらないが、ステータス面でみると、魔力と防御の二面が非常に高く、イメージよりも強固な防御力をしている。成長タイプとしては普通型。
【悪魔】:魔力と攻撃に特化している。戦闘面という意味ではどの種族よりも一番強力となっている。しかし、防御という面では弱いため、攻撃にあたってしまえばすぐにダウンする。成長タイプとしては主に早熟型だが、まれに普通型も存在する。
【獣人】:驚異的身体能力と引き換えに魔法の一切を使うことができないという特徴を持っている。しかし、精霊と契約することによってその契約した精霊の力を扱うことができる。また、稀に種族の身体能力の限界を超えた『血壊』という能力を使うことができる個体が存在する。
【はい、この中から選んでください】
「俺は悪魔にするぜ。攻撃特化…なかなかいいじゃねえか」
「僕も悪魔かな。即死の攻撃もあるし、なかなか相性がいいと思うんだ」
「私は天使にします。戦いとか、苦手なので」
【決まったようですね。それでは御三方は一足先に転生してもらいます。よき第二の人生をお楽しみください】
クロノスが天井から垂らされている紐を勢いよく引っ張ると、色の違った床がパカリと開き、三人は落ちていった。絶叫と憎悪の声は床が閉じると同時に消えるのだった。
【さて、次はキミたち二人の番だね】
今までかぶっていたローブを外しながら、クロノスはそういうのだった。…ってか、女かよ⁉