38 ビンボ嬢様 3
空には白い雲がゆっくりと流れていく。
「ひっぐ、ひっぐ」
湖の穏やかな波が釣り糸の先の浮きを上下に緩やかに揺らす。
「ぐす、ズズッ、ズズズ」
心地よい風と共に時間がゆったりとながれていく。
「ぶーーー。ん。んう、ぐす、ひっぐ、ひっぐ」
「あーーもう、うるさいわね。メリッサ。いい加減に泣き止んだらどう」
「だってだって虫、怖かったんだもん」
俺だってさ。俺だってさ。いい大人だけどさ。怖いもんは怖いもん。もうトラウマだよ。
「もう、しょうがないわね。ほら、私のとっておき上げるから泣き止みなさいな」
リタさんが懐から何かを棒に丸いものがついたものを取り出す。
「ペロペロキャンディーだ」
この世界にもあるんだ。いや、逆に元の世界でみる確率の方が低いか。
でも、この歳でペロペロキャンディーって。いやもらうけどもさ。
「ひっぐ、ひっぐ、ありがとうお母さん」
「メリッサあなたまで。誰がお母さんですか」
リタさんにいただいた飴を舐めてみる。砂糖のシンプルな甘味が口の中に広がる。そういえば、こちらの世界に来てから甘いものって食べてなかったな。
「美味しいでう」
「そう、それならよかった」
うわ、いい笑顔。りたさん、こんな顔で笑ったりするんだな。
「んっ私の顔に何かついてる?」
しまった見惚れてた。不覚にも十歳近く年下の女の子に少しドキッとしてしまった。
「いえ、なんでもないです」
「そう」
やばい、なんか、ちょっと顔赤くなってるかも。浮でもみて心を落ち着かせよう。
いや、だめだ落ち着かない。赤くなっている誤魔化すためにとりあえず何かはなそう。
「なかなか釣れないですね」
「釣れないも何もまだ始めたばかりじゃない。もしかしてメリッサもう飽きてるらっしゃる?」
「いえ、そんなことはないです」
体感的には十分くらいか。いや、さすがに飽きてはいないよ。釣りの経験が無いからなんともいえないけど、もっとこうパッと釣れるものだとは思っていたけども。
「そう、ならいいのだけれども。それよりも、メリッサ期待していいわよ。何日か前にアキムが湖で大量の魔力を爆発させたでしょう。あれから湖に魔力が充満しているよ。そのせいか魚が活発化してて大物が結構釣れるのよ」
それ爆発というか私がアキムさんに魔法を教わるときに私が石を撃ち込んだやつだけどね。
あのあと、あれだけの水しぶきを上げたのはそれなりに問題になりまして。
「あーあーあーありましたね、そんなこと」
アキムさんが魔法の実験に失敗したとかなんとかってふうに誤魔化してくれたんだけど、こういうふうに伝わってると、なんだかアキムさんに申し訳がなくなってくる。
「アキムの実験はいつもは迷惑だけど、こういうのだったら歓迎だわ」
ただアキムさんは、わりと常習犯らしく誰もこの嘘を疑う人物はいない。
「あはははは、そうですね」
それにしても、私の撃ち込んだ石が湖に魔力をみたすとか、それで魚を活発化させる効果があるとか、なんでだろう。
うすうすは感じていたけど私の魔力は普通よりすごいのだろか。
何にしてもこの話をこれ以上しても変なボロが出るといけないし、話題を変えた方がいいだろう。
「あのう、リタさんてこの仕事長いんですか?」
「そうね。お父様が亡くなってすぐだから、もう五年くらいかしら」
あ、まってこれ思ってたより重い話だ。
「ごめんなさい。変なこと聞いちゃいました。リタさん若いのにランク銀狼の冒険者なんて凄いなって思って」
冒険者はランク銅熊で一人前とされている。ランク銅熊で終わる冒険者も、少なくない。
「別にいいのわよ。そうね、わたしは腐ってもマイグレックヒェン家の人間だから、それにわたくしも必死でしたし」
「マイグレックヒェン家だと何かあるんですか?」
「はぁ〜。メリッサあなた本当に世間知らずね」
えっ、素朴な疑問をなんかすっごい呆れられた
「いいメリッサ。ほら、あそこの建物わかる?」
「はい、あの大きなお屋敷ですか?」
リタさんが指差す方向を見てみると海外セレブが住んでそうな豪邸がたっている。
どんな人が住んでいるのだろう。あんな場所に住める人間とは、庶民育ちの人間には想像も難しい。
「あれ、うちの家の別荘だったのよ」
「へえ、別荘ですか……えっ、別荘! あんな大きな建物がですが?」
「ええ。あれぐらいのお屋敷が各地にあったわ。正確な数は覚えてないけど。それすらもマイグレックッヒェン家の資産のほんの一部だったの。私の家はこの国の王家と並ぶ財力と権力持っていると言われていたわ」
なんか、テレビとかでみるアメリカのすげえセレブみたいな話になってきた。
「えっ、もしかしてリタさんて、めちゃくちゃお嬢様なんですか」
「はぁ……もう、メリッサ、初めからそう言ってるじゃない
」
なんかめっちゃっあきれられてる。そういえば、たしかに初めて会った時にそんなことを言っていた気がする。
「それで何でマイグレックマフィン家がそれほどの力を持っていたかと言うと、それは圧倒的に強かったから」
「強かったからですか?」
なんだろう。すごいざっくりとしたした理由だ。天下一的な武道会で優勝したとかそんな話だろうか?
「ええ、そう強かったから。そうね一族の者が数人集まればそれこそ戦争ができてしまうくらい」
なんだろう。どっかのお野菜的な戦闘宇宙人のお話だろうか。
「その中でも私のお父様は準勇者級といわれ一人で都市をいくつも落としていたわ」
なるほど、リタさんのお父上はレジェンドオブすごいお野菜星人のブロッコリー的な人なのかな。
「だからリタさんも、銀狼になれちゃうくらい強いってことですか?」
「ええ、そうですわ。一族の中では弱い方ですけど、それになりに強いですのよ、わたくし」
「だったらなんで……あ、いえ。なんでも無いです」
あっぶね、話の流れで余計なことを聞くところだった。さすがにこの質問は失礼だ。
「メリッサ、質問を途中でやめないでくださる。なんで、没落したかでしょ?」
まぁ、バレるよね。あそこまで言ってしまえば。
「そうね。一言でいうならあのころの私は、ただの小娘だったからかしら。私には婚約者がいたの。でも婚約者を別の女に奪われて婚約破棄されて、ちょうどそのころにお父様も亡くなって。
私にはその後の権力争いをどうすることもできなくて、気づいたら、あの執事とメイド以外のほとんどのものを失っていたわ」
うわぁ、わりと壮絶だ。 まんまラノベとかでみる悪役令嬢みたいな人生を送ってらっしゃる。
「ごめんなさい、なんか嫌なこと思い出させちゃって」
「いいのよメリッサ。別に昔の話だし、それに私はまだ諦めてなくてよ。必ずマイグレッグフィン家を復興して見せますわ」
リタさんは決意を固めた表情をしている。
「なんかリタさんって、まだ若いのにしっかりしてますね」
なんか俺がこれぐらいの年の時にはもっと漠然と生きていたな。まぁ、今もたいして変わらないか。
「まだ若いって、あなた私とそんなに年かわらないじゃない」
「はは、そうでしたね」
いまの見た目的にはね。実際はおそらく十歳くらい俺のが年上だろう。
「というか、あなたそれ引いてらしてよ」




