35 おしえてアキムさん!! 魔法編 4
「バッ……バカな」
何故だ。どこで俺は間違えたんだ。ただただ俺は無力に打ちひしがれる。
「あのーメリッサさん。何がしたかったのかは分からないですけど、魔力をそのままは飛ばすことはできないですよ」
衝撃の事実が言葉がアキムさんから告げられる。
あまりにも唐突に突きつけられる残酷な現実に頭が理解を拒否する。
いつだってそうだ。希望の先には必ず絶望が待っているんだ。
「それは◯◯拳もできないってことですか?」
「それが何かはわかりませんが、そもそも空間に放たれた魔力は拡散しやすい性質があるんですよ。ですから術者を離れると維持するのは難しいです。同じようなものならできないと思いますよ」
そんな、そんなことって。ならこの世界の魔法になんの意味があるというんだ。
あれ、いや、でも待てよ。俺は何回か見ているではないか。
そうだ。まだ諦める時間じゃない。
「でもアキムさんはさっきから、剣からなんか飛ばしてるじゃないですか」
「これですか」
アキムさんは道に水でも撒くみたいに軽く剣を振るう。放たれた斬撃は訓練用に束ねられた藁を綺麗に切断した。
あんなものを人に向けて放っていたのかこの人は。
いや、今はそれどころではない。
「そう、それができるなら私のもできないですか?」
「これはちょっと特殊なものでして。これも正確には魔力を直接飛ばしているわけではなくてですね。魔剣の力で魔力を衝撃波に変換させているのですよ。これほど複雑かつシンプルな術式は私にも組むことはできないですね」
「なんだかよく分かんないですけど。それはつまりスゴイ剣だからできるってことで普通はできないってことですか」
「簡単に言うとそうですね」
子供の頃からの夢が瓦解していく。
あまりの絶望にただただ無力に膝から崩れ落ちる。
「アキム先生…!!……………◯◯◯◯◯が撃ちたいです……」
「無理です」
即答!!
なんだよ。もう少し優しさというものはないのかい。
ことの重大さが分かってないのか、アキムさんはあっけらかんとしている。
「あのー話を進めてもいいですか?」
こちらの落ち込み方に若干引きながら話しかけてくるアキムさん。
わかりました。わかりましたよ。
人生を上手く生きるためには諦めが肝心だ。人はそうやって大人になっていく。そしてふと立ち止まったときに何か大切なものまで諦めてしまっていることに気づくんだ。
「はい。お願いします」
俺は立ち上がり膝についた砂を払う。そう、それでも前を向いて進まなければいけない。それが大人というものだ。
「基本的に魔力はそのままでは壁を作ったりとかしか出来ないので別のものに変換するか、こめる必要があります」
ふむふむ、それを先に言ってくれれば無様な姿を晒さなくて済んだのに。
「簡単なのは魔道具を使う方法ですね。これはもう経験ありむすよね」
「はい、ランプとかポーチみたいなやつですね」
そうそう、あとギルドにあった調理用コンロもさわると熱がでる板みたいな物だった。この世界ではそういった魔道具と呼ばれるものが普及しているみたいだ。
「あとは精霊の力をかりる方法と魔法陣を引く方法があるのですがこちらは契約や術式が必要なので簡単にはいかないですね」
魔法と一口に言ってもなんでも簡単にできる便利な物というわけではないんだな。
「遠距離の敵に攻撃したいのでしたよね。普通は精霊魔法を使ったりするんですが一番簡単なのはですね」
そこら辺の小石を拾い出すアキムさん。石好きだなこの人。
「これぐらいの物に魔力をぶつけて飛ばすのですけど、見ててください」
右手に持った石に反対の手で作った魔力を練った物近づけるアキムさん。
「いえ、別に遠距離攻撃したいわけじゃ……」
アキムさんの持った石に魔力が触れると乾いた音と、ともに勢いよく飛び出す石。そのまま藁の束をふきとばした。
「なかったんですけど。楽しそうなのでやります」
ただただ、必殺技を撃ちたかっただけなのだけど。なにあれ、さっきのアキムさんのやつ。
あれ二百キロは出てたんじゃないか。大リーグいけるよマジで。あんな凄いのがやれるならやりたいでしょうそんなん。男の子だもん。
とりあえず手頃な石を拾ってと。
「これでどうするんですか?」
「慣れれば片手でもできるのですが。まずは両手を使ってやってみましょう。こうやって右手でぎゅっとつかんでください」
言われたとおりに、石を握る手に力を入れる。なんとなく締めうちを思い出す。
「そしたら左手で魔力を練って、その石をはじく感じでぶつけてください」
さっきみたいに魔力を練る。もう完全にコツはつかんだ。簡単にできる。
これで石をはじけばいいんだね。
「待ってくださいメリッサさん。そんな量の魔力をこめたら……」
「へっ?」
湖に中層ビルぐらいの大きな水柱が立った。おくれて轟音がおくれてやってくる。
「……とても危ないですよ」
「……ですね」
とつぜんの出来事に理解が遅れる。おそらく、俺の手から放たれた石が音速を超えて湖に着弾したのだろう。この水柱を上げるほどの威力だ。人のいる方向に飛んでいかなかったのが幸いだった。
「まずは、魔力を調整する練習から始めたほうがよさそうですね」
「はい……」
降りそそぐ水しぶきを浴びながらただ呆然と返事をすることしかできなかった。
魔法とはなかなか難儀なものだと僕は思いました。




