32 おしえてアキムさん!!魔法編 1
黒髪を後ろで束ねた東洋顔の女の子が依頼書を、持ってこちらにやってくる。
「この依頼を受けたいんだが」
鍛冶屋から戻ってきた俺は、痛む頭をおさえながらいつもの受付業務に戻っていた。
「はい、森の調査ですね」
リタさんの報告から森に異変がないか、ギルドから調査依頼を出している。
「パーティーはもう組んでいますか?」
ギルドで出す仕事は基本的には多人数で行うことを推奨している。これはもしもの時に生存率を上げるための処置だそうだ。
「いやまただ、そちらもお願いしたい」
冒険者も様々で固定のパーティーで活動している者いれば、こういう風にいろんなチームを渡り歩くタイプもいる。そんな冒険者にパーティーを斡旋するのも受付嬢の仕事だ
「そうですねぇーそれじゃあ、あちらのパーティーに入ってもらっていいですか」
ギルドに置いてあるテーブルで談笑していたランク銅熊で、獣人夫婦のベテランパーティーを指差す。イリーナさんが言うにはかなり面倒見が良く、新人の教育なんかもよくお願いするらしい。
この女の子のランクも亜鉛牛とまだ新米よりだし、ちょうどどいいだろう。
「承知した。何度か一緒に仕事をさせてもらってる。彼らなら安心だ」
そうそう、ちょっと話が変わるけど、冒険者のランクがどう熊とか金獅子とかなんか動物ぽいのは実際にそう呼ばれる魔物がいて、それに対処できるくらいの実力を持っていることを示してるらしい。
ただ最上位ランクの金剛人だけは例外で全てのギルドを束ねるグランドマスターに与えられるランクとのことです。
「ふわあ、終わったあ」
パーティーを見送った俺は腕を伸ばして背筋を伸ばす。今日の受付はさっきの冒険者で最後みたいだ。
「お疲れ様です。どうぞ」
「ありがとうございます」
イリーナさんがお茶を持ってきてくれた。仕事終わりにいつもこうして二人でお茶するのが日課になってる。
美人とのお茶ってなんかいいよね。とっても。
「どうですか、慣れましたか?」
「はい、おかげさまで」
なごむね〜。このお茶も美味しいし、ハーブティーなのかな日本では飲んだことのない味だ。
あ、そうそう和んでいるうちに聞きたいことがあったんだ。
「ちょと、お伺いしたいのですが」
「はい、何でしょうか、なんでも聞いてください」
「魔法の使い方を教えてもらえるところってないですか?」
やっぱり魔法のある世界だ、魔力でひかるランプとかこのやたら物が入るポーチみたいな魔道具なんかは使っているが、実際に火を出すみたいな魔法使いみたいなことをしてみたい。
「魔法の勉強ですか。そうですね魔道士ギルドは‥…ちょっとまずいですもんね。それでしたらアカデミーなんてそうですか?」
アカデミー? アカデミーってあれか魔法学校てきなやつか。
「いえ、そんな本格的なものでじゃなくて、生活に役に立つレベルでいいんですけど」
さすがに今から学校に通う気にはなれない。それに学校なら学費もかかるだろうし、そんなお金はない。
「そうですか。あ、それならちょうどいい人がいます。ちょっと待っててください。アキムさーん。アキムさーん」
イリーナさんが奥にアキムさんを呼びにいった。とりあえずついて行ったほうがいいかな。
「お呼びですか姫」
「はい、アキムさんにお願いしたいことがあって」
部屋から出てきたアキムさんがイリーナさんの腰に手を回してあごをクイってやる。
「姫のお望みにならなんなりと」
なんかきゅうにイチャイチャしだしたな。俺に気付いていないのか。そういうのは家でやってほしい。
「ゴホン」
「それで姫、願いはなんです」
なに! こちらの咳払いを意にも介さず続けるだと。こいつはなかなかのお茶目さんだな。
「はい王子、メリッサさんに魔法を教えてあげてほしいのですけど」
イリーナ、お前もか。
というか、ちょうどいい人ってアキムさんか。たしかにすごい炎とか鏡とか出していてし、教えてもらえるならありがたい。
「はい、お願いします」
頭を下げて教えを乞う。
「魔法ですか。ええ、かまいませんよ。ちょうどこれから時間ありますし」
「今からですか、ありがとうございます」
そんなにすぐには教えてもらえると思ってなかったらこれは願ったり叶ったりだ。
「話がまとまったみたいで、よかったです。それじゃあ私は雑務を終わらせて先に上がらせてもらいますね」
「はい、お疲れ様です」
イリーナさんはアキムさんから離れ三歩進んだところで止まる。
「あ、そうそう言い忘れてました」
イリーナさんはアキムさんを壁に押しやり、顔面ギリギリに壁にまたどこから取り出したのかわからない剣を突き刺した。いや血が出てるから軽くかすってるな。
なんて言うか。すごい斬新な壁ドンだな。いや壁ザシュとでも言うべきか。
「アキムさん、メリッサさんと二人きりになるからって浮気したらだめですからね」
「大丈夫ですよイリーナ。私は君一筋ですから」
浮気って、俺がアキムさんと関係になる? ありえないな。
「そうですよイリーナさん。俺の体は今こんなですけど、普通に女の人にしか興味ありませんから」
「たしかに、それもそうですね」
イリーナさんはアキムさんを解放すると、剣をなんだかよく分からないところにしまう。
それにしても、この人はこんなに動いても大丈夫なのだろうか。
「それじゃあ、私は行きます。メリッサさん頑張ってくださいね」
「はい、ありがとうございます。おつかれさまです。」
アキムさんとイリーナさんを見送る。
「それにしても、あれだけ釘を刺されるとは、アキムさん昔何かしました?」
「えっ、いや、えっ。な、何かあるわけないじゃないですか。それよりもほら、魔法を覚えたいんですよね。ほら、いきましょう」
この反応は何かあったな。こいつもてそうだし。でもまあ、これ以上に詮索するのも野暮ってものだろう。
とりあえず今は足早に外に向かうアキムさんを追いかけよう。