31 街一番の鍛冶屋さん 2
「だめだ、だめだ」
酒場で会ったドワーフのおっちゃんが、なぜが折れた剣を持ちながら、奥からアナスタシアとやってきた。この二人並べてみるとやっぱり身長くらいしか似ていない。
「メリッサさんお待たせですよ」
「おう、お客さんって嬢ちゃんか。いらっしゃい」
神妙な顔からにかっと白い歯を出して笑うおっちゃん。なるほど。それでも親子なんだな。感情表現の豊かさはアナスタシアと似ている。
「どうかしたんですか」
それはそれで折れているとはいえ、刃物を持ちながら頭を抱えている人間をみたら、なんらかの事件性を感じる。まさか、この物語はこのままミステリー路線に突入か。
「ああ、これかい。これは今色々試しているのやつでな」
なんか事件とか密室とか殺人とか全然そんなことはなかった。まあ、それでも刃物を持って人前に出てくるのはどうかと思うよ。
「ちょっと珍しい金属が手に入ったんだけどよ。こいつが焼きを入れるとかなり硬くなるんだが、簡単に折れやがる」
おっちゃんの持っている剣は言われればたしかに、少し青みがかかっていて普通の鉄とは違うように見える。
何かの合金だろうか、見たことないやつだ。それとも、この世界にしか存在しない金属とかかな。周期表とかも元の世界と違ったりするのだろうか。
「それなら中に柔らかい金属をいれてみたらどうです?」
「ん? それはどういうことだい嬢ちゃん」
そうだな、言葉で説明するのはむずいな。えーと、さっきのアナスタシアにお風呂の説明をした紙に絵を描いていこう。
「えーと、私も聞きかじりなので細かい工程は分からないのですけど、私の故郷に柔らかい鋼をこんなふうに硬い鋼で挟んで硬い鋼でも折れ辛くする手法があるんですよ」
思い出すなあ。学生のころ学校の社会の先生が授業中に余談とかなんとか言ってこれについて熱く語ってたっけ。まあ、それを聞いただけだから知識としてはそんなに深くないんだけど。
おっちゃんとアナスタシアに覗かれながら思い出を頼りに剣の断面図と全体の形状を描く。
「そうすると冷やしたときに反っちゃうんですけど、これが逆に切れ味を上げる効果があるらしいんです。こんなふうに片刃の剣で刀って言うんですけど」
そう、日本人なら誰でも目にしたことはあるだろう日本刀だ。
「へー、そんなやり方あるんですね。というかメリッサさん絵が上手ですよ」
アナスタシアが絵を褒めてくれる。とはいっても素人に毛が生えた程度の腕前だけど。
「聞いたことないやり方だな嬢ちゃん。だがこれは色々試す価値はありだな。こいつは面白くなりそうだ。よしこうしちゃいられない、すぐ作業に戻るぞ。ありがとうな嬢ちゃん」
「まってお父さん。仕事の話がまだでしょ」
「グヘェ」
鍛冶場へ戻ろうとする、おっちゃんの首根っこをアナスタシアが掴んで止める。アナスタシアの以外な力はこうやってつけられたのかもしれない。
「ゴッホ、ウッヘ。おっとそうだった。悪い悪いそれでなんだっけ、でっかい釜だったけ」
むせながら戻ってくるおっちゃんにさっきの紙をみせる。
「はい、こういう感じの私が入れるくらいの釜が欲しいんですけど」
「なるほどな。嬢ちゃんの故郷は面白い発想をするところだね。これはたしかにやってみたい仕事だけどな」
おっちゃん顔がしぶくなる。
「だけど?」
「いや、これだとな鋳型から作らんといかんから、それなりに高くなるぞ」
「いくらくらいですか?」
「そうだな。これほどの大きさだと時間がかかるからな。最低でも金貨四枚は欲しいとこだな」
イリーナさんにもらった給料の前借りが銀貨と銅貨に崩れていたが、金貨に換算するとだいたい二枚くらいだった。つまりだいたい給料二ヶ月分くらいだ。
「やっぱりそれくらいはしますよね」
オーダーメイド品は高いな。元の世界でも高かったけど、機械化が進んでいない世界ではなおのことそうだろう。
「悪いな嬢ちゃん。作ってやりたいけど、こっちも商売だからなこれ以上は負けられないな」
「すみません、今回はやめておきます」
残念だが仕方ない。しばらく湯船はお預けか。
「力になれなくてごめんなさいですよ」
めっちゃ、ええ子だなこの子。
「いや、全然アナちゃんが謝ることじゃないから、それにがんばれば買える値段てことがわかってよかったよ」
お金が貯まったらまたこよう。何ヶ月か働けば貯めれる額だろう。
「それじゃあ、またくるね」
「はいお待ちしてるですよ」
決意を新たに鍛冶屋をあとにした。




