30 街一番の鍛冶屋さん
空は不快なほど晴れている。太陽の光は遮る物もなく憂鬱に僕の苦痛と後悔を地面に黒く焼き付けていた。
こんなふうにポエミーに二日酔いを表現するとちょっと純文学ぽくはなりませんか。こんにちはメリッサです。
「頭がいたい。本当に頭痛が痛い。重言」
そう俺は今、完全に二日酔いだ。ハングオーバーだ。昨日どうやって帰ったのかまるで分からない。飲み過ぎという魔物の前には現代知識チートも全くもって歯が立たないことを痛感している。
こんな辛い思いをするのなら酒なんか二度と飲まないと誓っても、その約束が果たされたことがないのが不思議である。ああ、ピーカン照りの太陽が二日酔いにしみる。
「こんな日にも働きゃいけないのが、社会人の辛いところだな。おっと、ここかな」
そんなこんなで、痛む頭をおさえながら俺はギルドのお使いに来ていた。
そして今たどり着いたのが、三本の煙突がたっているのが特徴的な建物で金槌と火箸がモチーフの看板を掲げている町の鍛冶屋さんだ。
「ここでいいんだよね。ごめんください」
中に入ると金属を叩く音が聞こえてきた。お店と工房は一応分かれているが、分け隔てているのは壁一枚だけのようだ。
棚には武器と鎧だけでなくハサミや調理器具などの日用雑貨などもおいてある。
「いっらしゃ……あっメリッサさん。いらっしゃいですよ」
カウンターには金髪の美少女が座っていた。
「こんにちは、アナちゃん今日はお手伝い?」
「はい、そうですよ。メリッサさんはギルドのお使いですか?」
すごいなアナスタシアは。なんか今日も元気いっぱいだ。二日酔いを忘れるくらい癒される。あっ、再三言っとくけどわたくしめはロリコンじゃないからね。
「うん、ギルドの備品の補充にブロードソードを五本とあとこっちの研ぎ直しをおねがい」
俺はポーチからショートソード二本と錆びたブロードソード一本取り出す。
冒険者達は自分で使用する武器を基本的には自前で用意している。しかし、それらの武器はやはりそれなりに高価なだ。
なので、まだ稼ぎの少ない駆け出しの冒険者や、急な破損などに対応するため、ギルドで貸し出しを行なっている。
アリーナさんいわく使っている者が武器の扱いに慣れていない新人や武器の扱いが雑な奴が多いい。なので消耗が激しく定期的にこうして補充したり、メンテナンスにだしているとのことだ。
「こっちのはショートソードは刃こぼれしちゃって。こつちは錆を落として欲しいんだけど……ん、どうしたのアナちゃん」
アナスタシアは何かに驚いた顔をしてこちらを見てる。なんだろうなにか顔についてるのかな。
「あ、いえ、街を案内したときにも思いましたけど、メリッサさんは魔力の量がすごいですね」
「え、そうなの?」
普通の人の魔力の基準なんて分からないから、すごいかどうかなんて分からないけど。
「普通の人は下級のマジックポーチにそんなに大きなものは入らないですよ。せめてポーチの二倍くらいのものまでです」
「え、軽トラぐらなら入りそうだけど」
「けいとら?」
「ごめんごめん何でもない。私もこの剣がギリギリ入るくらいだから。それよりも仕事の話をいいかな」
なるほど、だから雑貨屋のおっちゃんがなんか驚いてたのか。よくわかんないけど、あんまり人前で荷物の出し入れは控えた方がいいのかもしれない。
「はい、ショートソードと、うわーこっちのブロードソードはかなり錆びちゃってますね。うーん。そうですね研ぎ直しの方は三日後で、新しいブロードソードの方はもうちょっとかかっちゃうですよ」
「ええ、それでお願いするね。それでもう一つ個人的につくってもらいたいものがあるんだけど大丈夫かな?」
「はい、大丈夫ですよ。ドラゴンのウロコすら切れる剣から、料理が美味しくなるお鍋のふたまでなんでもござれですよ」
アナスタシアはエッヘンと胸を張る。なんだ、もうすごいなこの子は、可愛い。
いけない、いけない。このままアナスタシアに見惚れていてもしょうがない。とりあえずお店の中を見渡してみる。俺が求めている物はやっぱりないか。なかなかそう簡単にはいきそうにないな。
「人が一人くらい入れる鍋っていうか、お釜っていうかそういうの作れるかな?」
「大きなお鍋ですか? 作れるには作れるとおもいますけどなんに使うんですか?」
アナスタシアにとても怪訝な顔をされてしまった。そうだよね、そんな注文されたらそうなる。でも、ここで引くわけにはいかない。俺にとってはこれは死活問題だ。
「ちょっとお風呂を作りたくて」
そう、お風呂だ。俺はなんやかんやあれから銭湯に行けていない。いや、別に日和ったとかそんなんじゃないから。ここは紳士・オブ・ジェントルとしてやっぱり女湯に入るのはいけないとおもんだよね。本当にビビったとかそんなんじゃないから。
あ、お風呂には行けてないけど、ちゃんと洗面台で頭は洗ったり蒸しタオルで体を拭いたりはしてるからね。
「お風呂ですか? 銭湯のやつじゃなくてですか?」
そうだよね。そういう反応になるよね。
この世界には大浴場みたいな大きなお風呂の文化はある。しかしよっぽどのお屋敷でもない限り、個々の家にはお風呂はないみたいだ。
うーん、とりあえずどう説明したらいいかな。ポーチから紙とペンをとり出す。
「うん、そんな大きいのじゃ無くて、小さくて一人で入れるようなのが欲しくて大体こんな感じのやつなんだけど」
簡単な図を紙に描いていく。釜にの水を下から焚火で熱するもっともシンプルなおふろ。五右衛門風呂てやつだ。
「うわぁ、メリッサさん絵上手ですね。うーん、これはちょっとお父さんに聞かないとわかんないですよ。ちょっと呼んできますね」
アナスタシアは鍛冶場のほうに走って行った




