29 暗躍
「クソが」
オウガは焦っていた。オウガは魔族につく亜人種をたばねる長である。その自分がこのまま何の成果も上げられなければ魔族の中での立場が危うくなる。
「全部あの女せいだ。あいつさえいなければ、こんなことに」
オウガにとって忌々しいあの女は突如として現れた。そして気付けば魔王の横に立っている。なによりぽっと出の女の下につかなければならないのがプライドの高いオウガには我慢ができなかった。
「荒れていますねオウガ。小魚とか食べたほうがいいですよ」
ここはダンジョンの最奥の広間、太陽の光が届かない。しかし部屋の中央にある球体から発せられる光によって周囲は照らされている。
そこにいるオウガの後ろにもう一人男が現れた。男はフードを深く被り、わずかに見えるフードの中から銀色の仮面がちらつく。
「まあ、そんなことよりもオウガ準……」
フードの男の言葉も終わらぬうちに振り向き様にオウガは持っていた鉄製の棍棒で男をなぎ払った。フードの男の上半身は下半身に別れを告げ無惨に壁に打ち付けられる。残された腰から下の部位も主人を失い力なく地面に倒れた。
「クソが、人間もどきが俺に指図してるんじゃねえ」
オウガはこの人間と組むことにも納得がいってない。しかし、その現状を受け入れなければならない事がなによりも腹立たしいかった。
オウガは面白くなさそうに殺した男を眺めていると、その死体が突然に燃え始める。するとその燃えつきた肉体の灰が一ヶ所に集まり始める。
「オウガ、生き返るからといって気軽に殺さないでもらえますか。死ぬときってかなり痛いんですよ」
灰の中から殺された男が何事もなかったように同じ姿であらわれた。
「クソが」
オウガに殺されても男は飄々とした態度を崩さない。オウガは思っていた。自分より下等な存在であるはずこの男が、ただ不死であるというだけで自分を恐れない。それがオウガの気に触る。
再びオウガは棍棒を持つ手に力を入れた。
「ああ、ちょっと待ってくださいオウガ。落ち着いてください。このままだと話が進まないじゃないですか。とにかく準備はできました」
オウガにとってもこの男と長話をするのは本意ではない。不満しながら男を嘲笑うように、ふんと鼻を鳴らすと棍棒に込めていた力をゆるめた。
「それで」
「この一帯の魔力は、ここに集まるようになりました。あと必要なのは、魔力となる大量の生贄とそれを受けとめる器だけです」
「器の用意できるんだろうな。この前みたいな不良品じゃあ話にならんからな」
「不良品なんてとんでもない。あれは貴方が術を半端に発動させてしまったせいで、あれほどの器を作り出すのは大変なんですよ。」
オウガは棍棒を持ち上げる。
「ああ、分かりましたよオウガ。別の器の目星はついています。ですからその手を下ろしてください。ああ、もう、私は行きますから、そちらも贄の準備をおねがいしますね」
フードの男はオウガから逃げるようにそそくさと逃げるようにその場を立ち去る。オウガは立ち去る男の背中に向けて棍棒を投げるが、男にかすりすらせず、むなしく壁にあたり、乾いた音を出すだけだった。
「クソが」
オウガはイライラをつのらせる
生贄はオークやゴブリンどもを適当に森で暴れさせれば、冒険者どもと闘って勝手に血を流すだろう。
粗暴なオウガでも、普段は悪戯に身内を犠牲にするようなことはしない。しかし、今は状況が違った。
そして、この状況が作り出されたのは自身のあせりからではないことにオウガはまだきづいていない。




