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無職の現実

作者: 高橋暁

 ある日、私は無職になった。業界に特化したことを報道する、いわゆる業界紙の記者として大きな実績を残し、より良い会社を求めて退職した。「これだけの成果を挙げたのだから、引く手あまたのはず」と自信満々に転職活動を始めたが、思ったように結果は出なかった。今は、「辞めずに働きながら転職すれば良かった」と後悔する日々が続いている。


 後悔とともに、次第に怒りが沸いてくる。「面接は茶番だ」と思う一方で、「その茶番すら突破出来ない奴は社会に出ても役に立たないのでは」と自問するなど、精神状態は安定していない。「就職するより、自分で会社を立ち上げたほうが早い」など、子どもじみたことも考えてしまう。想像していた以上に、無職という状態が苦しいことを身をもって体験している。しかし、就職しさえすればすべて解決されるのだろう。


 自身の現状を、政治のせいにしてしまうこともある。「俺がこんな状態になったのは国のせいだ」と。本当は分かっている。自分のせいなのだ。


 こうした一般的な無職が抱える煩悶とともに、求人広告に一喜一憂する日々を過ごしている。出来れば楽しくて、休みがあり、給与もそこそこで、興味がもてる仕事があれば、どんなに嬉しいことか。ただ、そういった仕事は競争率が高い。本当に嫌になってしまう。


 無職の唯一の仕事である、求人を探す作業は一時間もかからない。それ以外は、ずっと暇だ。やることもないので、さほど早起きをしなくてもいい。なので、必然的に自堕落な毎日になっている。


 今日も午後一時に起床し、食事をとりながら、求人を確認した。また良いものはなかった。なので、私は外に出かけることにした。


 無職の状態で外出すると、すれ違う人すべてが眩しく映る。不思議なことだ。私は一人暮らしなので、誰にも迷惑をかけていない。貯金がひたすら減っていく精神的な苦痛があるものの、悪いことはしていない。分かっているけど、眩しいのだ。


 普通に街中を歩いていてもつまらないので、河川敷を散歩することにした。平日なのに焼肉をしている学生や、微笑ましい親子連れなどがいた。今日は曇りだが、今の私には眩しすぎる存在だった。


「眩しいな」


 思わず、独り言を呟いた。当然、誰も聞いていない。聞かれていたとしても、どうでもよいことだ。世間にとって私は、いてもいなくても変わらないのだ。大した存在ではないのだ。自信満々で退職したころの気持ちは、今や見違えるほどに縮んでしまった。


 現実は、残酷だ。これが物語ならば、いきなり謎の老人に話しかけられて、ある種の冒険の世界に誘われるだろう。せっかく、外出したのに。わざわざ、河川敷を散歩しているのに。何も起きない。分かっていることなのだ。なぜなら、これは現実なのだから。


 そう考えると、不思議とやる気がでてきた。やるしかない。やる以外ないのだ。何故だか分からないが、わくわくしながら帰宅した。そして、また、求人を見直す。やはり、何もない。ここで落胆してはいけない。このやる気の炎を絶やしてはならない。


 この気持ちは、いつまで持続しているか分からない。三十分後には、また、陰鬱な気分に戻っているかもしれない。こればかりは諦めるしかない。私は無職なのだ。無職とはそういうものなのだ。


 起業するつもりもないので、地道に職を探すしか道はない。明日こそ、私の運命を左右する良い求人があるかもしれない。


 とりあえず、今日はもう、やることはない。人生でこんなにも、何もないのに気分が晴れない状態が続くことは、二度と訪れないだろう。何もないことが、こんなにも気が滅入ることなのだとは思わなかった。ある意味、貴重な毎日だ。


 あとで酒と旨いつまみを買いに出かけて、夜は酒を飲むことにしよう。たまには良いだろう。そして祈ろう。明日こそ良い求人があるようにと……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読みました。 面白かったので、母にも読ませたのですが、大爆笑していました。 作者さんの現実がリアルに伝わってきて、本当は笑うべきところではないのに、ユーモアのセンスがある文章で、とても面白か…
2016/09/29 21:55 退会済み
管理
[一言] 当事者からすると胸が痛い話でしたが、共感できました。 結局、現実を直視して自ら行動するしか改善する方法はないんですよね。 雨みたいに、仕事が降ってくるわけでもないし・・・・・・。 面白かっ…
2016/08/02 13:50 退会済み
管理
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