第一回三十分クッキング
お待たせしました
我が家はお金がないと言いつつも、一日三食食べれるほどには裕福だ。
そもそも、食べるものを生産しているのだから、食べるものに困ることはほとんどないと言ってもいいと思う。
けれど、いくら食材があったからと言って、作り手が居なければ料理は出てこないわけで……。というわけで、今台所には私が立っている。
「なんで魔法の水は使わないの?」
「うーん、危ないから、かな?」
「じゃあ、なんでさっき使ったの?」
「えーと、便利だから?」
「じゃあ、なんで使えないの?」
ロワが言いたいことはこう言うことだと思う。
魔法の水は鍋に入れない、つまり、食用としては用いないのに、タマネギを洗う時は魔法の水を使った。何故、井戸の水と魔法の水を使い分けているのか。
「レーヌ? なんで?」
「なんでだろうね? 私にもわからないや」
「ふーん、知らないんだ」
「うん、ごめんね?」
「シモン兄は?」
「うん? レーヌが知らないのに俺が知るわけないだろう?」
「そういえばそうだね」
「こいつー」
「あはは、なんでだろう?」
「そうだね、今度町で聞いてみる! あと、二人ともあんまり騒ぐと……」
「おっと、そうだった」
「……わかった」
魔法の水についての説明は、私自身もよくわからないんだけど、考えたことはある。……今朝みたいな感じで。
たぶん、魔法の水は魔力がなくなると消えちゃうからだと思うんだけど、何で消えちゃったらダメなのかとかどうやって説明したらいいのか……。
兎に角、今は料理に集中しないと。いつお母さんに見つかるかわかんないんだし。
「で、俺達は何をすればいいんだ?」
「えーと、まずは玉ねぎの皮むきからだね」
「わかった」
「はーい」
三分クッキーング! パチパチパチ。あ、ウソウソ。三分じゃできないよ。たぶん三十分くらいかかると思う。
「あ、でもその前に手を洗わないと!」
「ロワ、頼むな」
「わかったー」
ジョボジョボとロワの手から出る水で手を洗った。そのあとロワは両手を合わせることで器用に自分の手を洗っていた。うん、本当に器用だと思う。
お父さんもベル姉もできるし、水属性の人は器用なのかもしれない。
魔法の水は魔力が途切れると消えてしまう。だから、その性質を利用すると洗い物には非常に便利だ。洗った後、魔力を切ってしまえば一瞬で乾いちゃうからね。
「じゃあ、はじめよっか」
「おう」
「はーい」
では、改めまして、レーヌ、ロワ、シモンのー、三十分クッキーング!
自分の身長に合った作業台を使ってください。もし、作業台が高い場合は台に乗るなどして高さを調節してください。
まずは玉ねぎの皮を剥きます。玉ねぎの下、根っこみたいになってる所に横から包丁の刃を入れます。そして、玉ねぎを回すように切ると、芯の部分だけをとることができます。なるべく食べられる部分を残したいからね。
次に玉ねぎの頭、尖っている部分に先ほどと同じように切り込みを入れます。そして、今度はそのままずんずん刃を進めていきます。五ミリくらい残して刃を進めたら、残した部分を起点にグイッと皮を剥します。
あとは、Cの字型に残った皮を剥せば皮むきが終わります。ここはアシスタントに任せましょう。
「シモン兄、ロワ、お願い」
「任せろ」
「うー、目が痛いよー」
「あ、大丈夫?」
「うー、大丈夫……」
玉ねぎって切ると目が痛くなるよね。なんでだろう? ゴーグルとかマスクとかあればちょっとは楽になるのになぁ。
残りのたまねぎも同様に皮を剥いていきます。
「終わったらどうすればいいんだ?」
「あ、出来た? そしたらこっちに頂戴」
「ほらよ」
「ありがとー」
剥き終わった玉ねぎを上から十字に切れ込みを入れ、水の張ってある鍋に入れます。
そうしたら次は鍋を火にかけ、じっくりコトコトと玉ねぎを煮込んでいきます。この時、先ほど剥いた玉ねぎの皮も入れてしまいましょう。
「火を見ててね」
「わかった」
シモンアシスタントが玉ねぎを煮込んでいる間に、こちらはベーコンを切っていきます。厚過ぎず、薄過ぎず、お好みの厚さにスライスしていきます。
「んっ、よっ、はっ」
「危ないよ?」
「だって見えないんだもん」
何をしているのか気になるのか、ロワがしきりに覗いて来る。でも、身長が足りないからジャンプしてるんだよね。こっちは刃物を使ってるからちょっと危ない。
「その辺に台あるから、それ使って?」
「ん、わかった」
適当の木箱をひっくり返してその上に乗るロワ。ちょうどいいのは私が使っちゃってるから、見難そうだ。それでもおとなしくしてくれているからさっきよりはいいかな。
ベーコンを切り終わったら、玉ねぎが煮込み終わるまで待ちます。
「バラバラー」
「ん? どうしたの?」
「厚さバラバラでかっこわるーい」
「いいのー、バラバラの方が色々楽しめるでしょ?」
「そうかな?」
「そうなの」
ほら、好みは人それぞれだし、多種多様な人が楽しめるように、厚さはバラバラにね? ベツニヘタクソトカジャナインダヨ?
「まだー?」
「まだだよー」
「……ねぇまだー?」
「まーだ」
「うー」
「あんまりうろうろすると危ないよー?」
「大丈夫ー」
そろそろ玉ねぎも煮えたころかな? このまま何事もなければいいけど。
あとは、切ったベーコンを鍋に入れ、軽く煮込んでから味付けをすれば完成です。
「入れるのか?」
「あ、うん。もうすぐ完成だよ」
「完成!? あっ」
ガシャーン
振り返ると床に落ちた鍋、そして箱に乗ったロワ。壁にかかっていた鍋を、ロワが落としてしまったみたい。
「ロワ、怪我ない?」
「う、うん……」
「はぁ……」
よかった、無事で。落ちている鍋は少し大きめのやつで、それなりに重たい。もし頭の上にでも落ちていたらと考えると……。
「誰かいるの~?」
「マズイ! 母さんだ!」
「ご、ごめんなさい」
完成間近なのに、ここでお母さんに見つかったら連行されて料理が出来なくなっちゃう!
どうしたらいいの? どうしたら……。
「私が行くから、二人は料理を続けて。あとはベーコン入れて、味付けするだけだから」
「え? え?」
私がお母さんに連れていかれれば、二人は助かる。私が犠牲になれば料理は続けられるんだ。
お母さんが台所に入る前に私が行かなきゃ……。
「待てよ、レーヌ」
「シモン兄、離して。早く行かないとお母さんが来ちゃう」
「俺が行く」
「なん、で?」
シモン兄はお母さんに見つかることをあんなにも嫌がっていたのに、 見つかったら怒られるって言っていたのに、どうして? 心当たりがあるんじゃないの? なのに、自分から怒られに行くなんて……。
「レーヌ、お前が居なきゃ飯は作れない。俺とロワだけじゃ無理だ。だから俺が行く」
「で、でも……」
「お前たちの料理、楽しみにしてるぜ? じゃあ、行ってくる」
シモン兄が行ってしまう。私たちの代わりに、シモン兄が……。
「あら? シモンだったの」
「や、やあ、母さん」
「すごい音がしたけど?」
「いやぁ、父さんどうしてるかなーって思ってたら、鍋落としちゃって」
「……あら、そう。怪我は?」
「あー、問題ないよ」
「そう、ならよかったわ。あなたもこっちに来なさい」
「わかったよ」
シモン兄、貴方の犠牲は無駄にはしないよ。すぐに料理を完成させて助けに行くからね!
「ごめん、なさい。ごめん、なさい。ごめん、なさい」
「大丈夫、大丈夫だから、ね?」
「うぅ……」
「ほら、泣かないの。男の子でしょ?」
「でもぉ……」
「早くお昼ご飯作って、シモン兄を助けに行こう?」
「うぅ……」
「ね? シモン兄、待ってるよ?」
「う、うん。俺、やる」
「よし。頑張ろう!」
ベーコンを入れて、後は味付けです。とその前に、玉ねぎの皮を取り出しましょう。
さて、お待ちかねの味付けですが塩がベーコンに大量に含まれてるので、香辛料を使って軽く味を調えるだけでいいです。出汁はベーコンと玉ねぎ、そしてその皮から出ているので問題ありません。
「うん! こんなもんかな。どう? ロワ」
「うん、おいしい」
「じゃあ、あとはアスパラガスがあったから……」
「俺が持ってくる」
「ほんと? ありがとう」
さっと茹でたアスパラガスがビンに保存されていたはずだ。あれも早く食べないと傷んでしまう。時間もないし、今日使ってしまおう。
「あとはソースっと」
棚からソースの入ったビンを取り出して、アスパラガスにかければ今日のお昼ご飯は完成だ。
「持ってきたー」
「ありがとう。それじゃあ、お母さんを呼んでくるね」
「え? でも……」
「シモン兄を助けなきゃ」
「そ、そうだよね」
台所から、食卓へと移動する。朝からずっと説教をしているなら、まだそこにいるはず。
「ご飯出来たよー」
「あら? もうそんな時間だったかしら。ごめんね、レーヌ、任せちゃって」
「いいよいいよ、たまには私も作らないと」
「ふぅ、ありがとね~」
お母さんの調子も元に戻ったみたいだ。危険な感じはしない。
「お、飯か? ようやく解放――」
「れぇえおぉお?」
あ、あれ? どっちなんだろう?
「そ、そういえば、ベルはいないのか?」
「まだ来てないね。もうすぐ来ると思うけど」
「ふ~。ただいまぁ~」
「あ、おかえりベル姉! ナイスタイミング! ちょうどご飯出来た所だよー」
「ふふふ、やった~」
「よし、飯にしよう!」
これで、ようやくお昼ご飯だ。ちょっと遅めの時間だけど、とりあえず、午前中仕事の区切りだね。
さて、午後からも仕事がんばるぞー。