窓に映る俺の姿
魔王城の崩壊。
それはたちまち全世界に広まった。
そして始まりの街と称される「イーストグラム」にもその知らせは届いた。
今日はギルド酒場「グラムギルド」にて魔王討伐の祝賀祭を開くことになった。
その祝賀祭では冒険者には多額の祝い金が用意され無駄遣いをしなければ一生働かなくても暮らせるくらいの金額8500万ゴールドが支給される。
さらに。今までの功績によってはさらに高額な祝い金がもらえる。
冒険者にとって魔王が討伐されたことは心から喜ばしいことなのだ。
そんな中。
その祝賀祭に唯一腹が立ってる物が居た。
そう。
この俺。サタン様である。
ユウトと戦いに相打ちになった俺が目を覚ましたのは昨日の事だった。
目を覚ますとそこは見覚えのある宿だった。
そう。俺が昔に親父に飛ばされた宿だ。
場所を認識してすぐにユウトとの戦いの記憶が頭をよぎる。
俺の放った『エクスグラビトン』が、ユウトの『エクスライトニング』と相殺した。
これが最後の記憶。
その後俺はどうなったんだ。
なぜこんな所に居るんだ。
そんな疑問を抱えながら重い体を起こした。
死んだわけではないようだな。
とりあえずここが本当にあの場所なのかを確かめよう。
そして宿を探索する。
部屋は俺が昔泊まったあの頃と特に変わりはない。
扉を開けるあたりを見渡すと、すぐに下に続く階段が見えた。
そして俺がいた部屋をあわせて四部屋。
あの頃のままだ。やはり親父に飛ばされた宿だ。
俺は階段を下に下りた。
すぐに会計をするカウンターだった。
そこにいた見覚えのある大柄の男が。
「おぉ!やっと目覚めたか!具合はどうだ?あんたすごい重症だったんだぞ!あんたのパーティーの女の子が必死にヒールをかけてくれてたぞ!」
もう何年も前に一度泊まっただけの客など覚えてないだろう。
だが好都合だ。俺もあの頃とは違う。勇者を憎む魔王なのだ。
「俺のパーティーだと?おいお前!俺が誰だか分かって言っているのか?俺は魔王サタン!この世界をすべる者だ!その俺がパーティーなど組むわけがないだろ。死にたくなかったらその口を閉じろ」
そうパーティーなど冒険者が組むものだ。冒険者でもないこの俺が組む分けない。
仮にも俺は魔王なのだからな。
人間の世話になったのは屈辱的だが
「やっぱりあの子の言う通りだな。魔王と激戦の末に頭に後遺症があるんだな。大丈夫。すぐにその記憶が後遺症だって事が分かるからよ。少し安静にしてな。」
そんな事を心配そうに語る大柄の男。
誰に何を吹きこまれたのかは知らないがこの俺に安静にしてろよ。
などと哀れみの言葉をかけるとはよほど死にたいらしい。
腹が立った俺は手を男に向け。
「時と炎を操りし神よ。今一時我にその力を与えろ。[エクスメラゾーマ]!!!この店ごと吹き飛ばしてやるよ!!!」
「ひぃ!こんなところでそんな魔法唱えたらこの店ごと...ってん?」
高らかに叫びあげた詠唱は大柄の男を少しひやっとさせただけだった。
...あれ?
魔法が...出ない...
「時と炎を操りし神よ。今一時我にその力を与えろ。[エクスメラゾーマ]!!」
なぜだ!?炎と重力の魔法は一番の得意分野だ。超級魔法とはいえ魔力消費もほかの奴らより少なくてすむはず。
「何だよ坊主!ビックリさせやがって!その戦法は相手が高い知力をもった魔物の時だけにしてくれ!」
「なんだ!さっきから俺を坊主坊主って!この姿が見えないのか?どっからどう見ても坊主って年じゃないだろう!しかもそんなしょうもないはったりなんかこのサタン様が使うわけないだろ!」
そんな俺の訴えに愛想を尽かしたようにはぁーっとため息をつき。
「悪かったな。兄ちゃん。ま、今日はゆっくり休みな。それとあんたのパーティーの女の子から御代は一ヶ月分もらってるぜ。だから当分はここがあんたの家って事だ。そんじゃ!俺は仕事があるから行くぜ!」
そう言ってカウンターからそそくさと居なくなった。
多分面倒くさくなったのだろう。
俺は色々と腹が立って外に出た。
宿から外に出ると周りの様々な場所に「祝!魔王討伐!」と書かれたポスターが貼られているのに気がついた。
しかもそのポスターの背景には、ユウトが俺を足蹴にしている物や。ユウトが俺の心臓を剣で突き刺しているものなどユウトが俺を倒した事が誰の目に見ても分かる絵を使っていた。
俺は足蹴にもされて無いし。
剣で心臓を貫かれたりもしていない。
この嘘っぱちなポスターを見てるとだんだん腹が立ってくる。
俺はなぜこんな場所に居るんだ。
俺は人間に物を尋ねる恥を覚悟で一番近くにいた老人に声をかけた。
「なあ爺さん。」
話しかけた俺にその老人は怪しげな目を見せ。
「お主はいったい何者じゃ?」
「何者って見たら分かるであろう!魔王サタンだ!この世界を恐怖に陥れた男サタン様だよ!ほら!尻尾だって...ってあれ?」
尻尾が無い...
っ!!ちょっと待て。
上着を着ていて気づかなかったが肌白!
あわてて袖を捲り上げる俺に老人は先ほどの態度とはうって変わって笑い始め何かに納得したように。
「ここは。始まりの街イーストグラムじゃ!お主祝賀祭の衣装は魔王にしたのか!だがまだまだ完成度が足りんな。ま。これも何かの縁じゃ。尻尾が無いなら買ってきなさい。」
そう言って2000ゴールドを渡してきた。
殺す。こいつ殺す。
俺が超級魔法が使えないのは分かった。だがこんな老人。中級魔法で十分だ!
死ね!そして俺を....
「馬鹿にするなぁーーー!!「アグニ」ッ!!!!」
「ひゃ!や、やめ...ってん!?」
全力で唱えた俺の魔法はまたもや空打ちに終わった。
「おっ、お主!いくら祝賀祭の前の日だからって急に大声で魔法を唱えられたらビックリするじゃろ!」
「....くそっ!!」
俺はその老人の前から走りだした。
くそ!どうなってやがる。
超級はおろか中級魔法まで使えないだと!?
それに肌!
色がまるで人間だし何よりなぜ俺は「イーストグラム」なんかに居るんだ!?
それにパーティーの女って誰だ!?
ふと窓に映る自分を見て俺は愕然とした。
窓に映る俺の姿は魔王の面影はありながらも完全に人間だった。