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第7話 魔力と魔法

 2015/08/25…エイジの魔力資質に関する記述を変更し、「風、雷」から「すべて」に変更しました。

 以降のストーリーの改編などはありませんので、ご了承をお願いします。

「……ん、やあ君か!試験クエストの方は、もう終わったのかい?」

 イノシシから真っ白な牙をはぎ取って、意気揚々と帰還した俺に声をかけてくれたのは、グレッセル邸からギルドの道のりで迷っていた俺を案内してくれた、若い金髪の衛兵さんだった。まさかこうもタイミングよく門番をしているとは思わなかったので若干驚きつつも、俺は小さく頭を下げて会釈する。

「どうも、お疲れ様です。苦戦はしましたけど、なんとか倒せましたよ。討伐証明部位って、これでいいんですよね?」

 そう言いながら、俺は小脇に抱えていた雑食イノシシの牙を衛兵さんへと見せる。自分で言うのもなんだが、このイノシシの牙はなかなかどうして立派なものだ。最初に見たときも遠くからはっきり見えるほどの巨体だったので、もしかするとかなり年を重ねたイノシシだったのかもしれない。

 その感想は衛兵さんも同じだったようで、小さく唸ると俺が持っている白い牙をしげしげと眺めてきた。

「……こりゃすごいね。ここまで大きな雑食イノシシはなかなかいないよ。倒すのも骨が折れたろう、お疲れ様」

 ひとしきり眺めた後、衛兵さんはイケメンスマイルで俺をねぎらってくれた。よどみのないそのさわやかさに照れくさくなりながらも軽く会釈して、俺は試験用の剥ぎ取りナイフを見せて門を通ろうとする。

「あぁ、ちょっと待った。まだグレセーラには慣れてないだろう?だったら、またぼくが案内するよ」

「え、いいんですか?」

 彼が提案してくれた内容は魅力的だが、さすがに仕事の邪魔をするわけにはいくまい。そう考えてのいいんですか、だったのだが、衛兵さんは兵舎から人を呼んで門番を任せると、するりと門を抜けて俺の横に立ってくれた。その身のこなしの鮮やかさと言ったら、中々どうして華麗である。

「ぼくはこう見えて、兵舎の人たちには顔が効くからね。さ、行こうか」

 そういうと、衛兵さんはさっさと歩き始めてしまった。それでいいのかと口に仕掛けたが、俺としても一度見たことのある顔に案内してもらえるのは割と安心感があるものである。今回くらいはいいだろうと肩をすくめて、俺は衛兵さんの背中を追いかけ始めた。



「……はい、確認が完了しました。クエスト達成、お疲れ様です!」

 営業スマイルを崩さない受付の人に会釈して、俺は差し出された紙――二枚重ねになっている、転写式のシートを受け取る。確認の間に聞いた話だと、ギルドでは試験をクリアした者にのみ個人情報を要求しているらしい。それゆえ俺の目の前に置いてある、登録に際して必要な個人情報を書くためのシートは、原則クエストを達成した者にしか見られない、ある意味貴重なものだ。

 そういえば自然に受け止めすぎて忘れていたが、このエルフラムにおける公用語はどうも日本語らしい。

 ディーンさんやシリウスさん、衛兵のイケメンさん――先ほど名前を聞くと、彼はニコルという名前なのだそうだ――などは日本語で会話しているし、何より今俺の目の前に置いてあるシートに書いてある文字が、疑いようもないくらいにくっきりした日本語なのだ。

 どうしてかはわからないが、多分神様がこれを言語に定めただとか、大昔にやってきた日本人が広めただとか、そういう理由なんだろう。あんまり考えても意味はないので、深く追及するようなことはせずに、俺は立てかけてあった鉛筆を手に取り、シートに内容を記入していく。

 名前、年齢、性別と、特に変わったもののない項目を埋めていく中で、俺はふと最後の項目で手を止めた。

「……あの、すみません。魔法適性ってなんですか?」

 他の三つはなんてことないものだったが、ここにきて聞きなれない――脳内オタ知識辞典には記載されているが、知識と現物が同じものだとは限らないので邪推はしないでおく――単語が俺の目に映ったのである。確認のために聞いてみると、受付の人は少し驚いたようなそぶりを見せた後、すぐに営業スマイルで説明を始めてくれた。

「魔法適性というのは、簡単に言えば「自分がどの魔法を扱えるか」です。現存する8つの内、どの魔法を扱えるかを書いてもらうものですが……魔法適性を知らないのであれば、お客様がどの属性に資質があるかもわからないですよね。少々お待ちくださいませ」

 ゆったりと聞きやすい速さで説明してくれた受付の人が、何かを思いついたような顔を見せたかと思うと、足早にカウンターの奥へと引っ込んでしまった。それを呆然としながら見送った俺は、そういえば変な目で見られてたんじゃなかろうかという考えに思い至る。

 項目にある、ということは、すなわち魔力適性というものは、この世界の個人情報として根付くほどの常識なのだろう。それをわざわざ聞くなんてことをするのは、よっぽど田舎から来た人みたいな世間知らず以外にありえないのかもしれない。

 ただ、もし俺が魔力適性のことを理解していても、ペンを動かす手はここで止まっていただろう。

 俺、自分が持ってる魔力適性なんて、知らない。



「大変お待たせしました」

数分ほどすると、受付さんが何やら円錐状の台座にはめ込まれた水晶玉を持って戻ってきた。重厚な音を立ててカウンターに置かれるそれを指して、受付さんが説明を始める。

「こちらは、お客様の持つ魔力適性を調べるための道具です。水晶玉に両手を当てると、お客様の魔力に反応して、水晶玉が属性に対応した色に発光、体内に保有できる魔力の多さによって、より強く光るするしくみとなっております。どの属性を持っているかは私の方で判断いたしますので、どうぞ触れてみてください」

 受付さんに促されて、俺は両の手をそっと持ち上げて、水晶玉を包み込むように手のひらをかざした。


 個人的な願望ではあるが、俺としては何か一つだけでもいいので魔力に適性があってほしい。人間、誰でも自分の知らない未知の力の存在を知ったとなると、それを手にしてみたいと欲をかくものだ。俺も人、ましてそういった類のものに弱い男である以上、そう考えるのは必然と言える……かもしれない。

 そう考えていると、触れていた水晶玉がうっすら輝き始める。気になる光の色は――



「……目、目がああぁぁあーッ!?」

 俺の目を焼いてしまいそうなほどに眩く輝く、鮮やかな虹彩を含んだアッシュグレイだった。

 とっさに片手を離して両目を覆ったが、光の勢いは少ししか衰えない。それどころか、衰えた分を取り戻してなお、さらに強く輝こうとする。これはヤバい、なんかヤバい!

 もう片方の手を急いで離してみると、しぼんでいく風船のように光がゆっくりと消えていく。そうして完全に収まった光の外側から見えたのは、驚きに固まる受付さんと、俺の周囲を囲むたくさんの目線。それと、「なんだなんだ」とでも言いそうな、周囲のざわめきだった。

 もしかして、今の色は何かマズいものがあったのだろうかという予感を脳裏に走らせながら、俺はいまだ呆然としている受付さんに問いかける。

「……あの、結果はどうでしょうか?」

「は……っと、失礼しました。お客様の魔力の性質が、とても珍しいものだったので、取り乱してしまいました」

 我に返った受付さんの言葉に、俺は「珍しいもの?」とおうむ返しに問いかけた。対する受付さんは、こくりと頷くと説明を始める。

「この魔道具は、鑑定する人間が司る魔力を「色」として映し出すものというのは、先ほどの説明通りです。……ですが、お客様の鑑定結果は、8つの属性を司る色のどれにも当てはまらないもの。……つまるところ、めったに見られない色だったんです」

 俺の魔力が司る色は、受付の人もめったに見ないほど珍しい色。その説明を聞くに、あまり知られていない、もしくは存在しない属性なのかもしれない、ということなのだろう。聞く限りでは中々にテンションの上がる言葉ではあるが、俺は同時にある種の危機感を抱いていた。

 珍しいものというのは、得てして人の目に留まりやすいし、その存在も珍重されるのが世の常というもの。もし俺の魔力が存在しなかったもの、あるいは存在しても貴重なものだったりすれば、その噂は確実にお偉いさんのところに届くだろう。そうすれば、状況や世界情勢にもよるが、そのお偉いさんのもとに拘束されて、自由が大幅に制限されてしまう可能性があるのだ。

 俺が冒険者になろうと思った目的は、そのものずばり自由を求めたからでもある。それをたかが珍しい力を持ってるからと言って制限されてしまえば、とてもじゃないが満足できるようなものではない。

 そんなことを考えて眉をひそめていたのだが、どうやらそれは杞憂だったようだ。その証拠に、受付さんは最初こそ驚いていたものの、今は普通に応対してくれている。

「お客様の魔力は、鑑定結果を見る限り全てに適性がありますね。空いている最後の項目には……そうですね、全てと記入してください」

 前言撤回、俺普通じゃない。

「ぜ、全部に適性? ……冗談ですよね?」

「え? ……あぁ、いえ、そんなことはありませんよ。お客様の魔力は、現存する8つの属性すべてに適性がある……と鑑定結果が出ています。魔力光はすごく珍しかったですが、わずかですけれど虹色が見えましたから」

 仰天して思わず冗談じゃないかと口走ったが、対応する受付さんは至極当たり前のようにサラッと答えを返してくれた。あれ、何この反応? ひょっとして全属性って割と認知されてるものなの?

「……全属性って、珍しいんですか?」

 気になってしょうがなかったので、俺は思い切って問いかけてみる。帰ってきたのは、あっけにとられた表情からの、納得したような表情、そして何ということは無いと言わんばかりの説明だった。

「珍しい、と言えば珍しいですね。ですが、決していないわけではないですよ。事実、この国にも何人かいらっしゃいますし」

 質問の内容は珍しいか、ということだけだったのだが、受付さんはついでに補足もしてくれる。返ってきた答えをそのまま信用していいならば――というかギルドという職場は信用第一だし、嘘をつかれるような理由もない以上、疑う余地は特にないのだが――、全属性持ち人間というのは、数こそ少ないものの目の色を変えるほどに珍しい存在ではないという。

 ならば、俺が持つ魔力資質は極めて一般的だと思っても差支えないはず。国家からの拘束、なんてものがないのは素直にうれしいので、とりあえず満足である。

 受付さんに促されて、俺は残っていた項目である魔法適性の項目に言われた単語を記入した。すべての項目を埋めてシートを返すと、一例をした受付さんは、そのまま流れるような動作で別の道具を取り出し、転写式であったシートの上部分を取り外す。何をするのかと目を向ける俺の前で、受付さんは外したほうの紙を折りたたんで、取り出した道具に設けてあった投入口のような場所に差し込んだ。

 すると、シートを飲み込んだ道具にはめ込まれていた宝石のようなものが、淡く銀色に発光する。しばらく光を湛えていた道具だったが、やがてその光を薄れさせていくと、投入口とは別の場所に設けてあった口の部分から、薄く平らで長方形をしている、白で染め抜かれたカードのようなものがせり出てきた。カードに刻まれていたのは、俺の名前と基本プロフィールに。それと、Fという一文字だった。

「そちらのカードに書いてあるFという文字は、お客様が現在どの程度の実力を持った冒険者かを、大まかに示す「ランク」を現しています。低い方から順番に、F,E,D,C,B,A,Sと上がって行き、ランクの高さによって受けられる依頼も増えていきます。ただし、活躍、活動の程度によっては一部の危険な依頼は受注をお控えいただくことになります」 

 説明から類推するに、つまりランクとは初心者を守るための制度なのだろう。人材というものは、人の手で手間暇かけて育てなければいけないものだ。だからこそ、その貴重な命を無為に散らさせないようにといいう、ギルドからの配慮なのだと解釈しておく。

「さて、それでは試験と登録は終了となります。お帰りの際は、隣の換金カウンターにこちらの牙を持って行ってください。雑食イノシシの討伐をはじめとした常駐クエストについては、持ってきていただいた物品を直接換金することで報酬とさせていただきますので、ご了承のほどをお願いします。……では、お疲れ様でした!」

 ともあれ、俺が冒険者として活動するに事足りる実力を持ち合わせているということは、無事に証明されたらしい。そのことにほっと安堵しながら、俺は隣の換金カウンターに向かうのだった。

予定していた一週間更新を過ぎてしまい、まっこと申し訳ありません!

……隔週更新宣言だからセーフってことで(殴

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