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剣と魔法な異世界漫遊記!~記憶喪失、異世界ぶらり旅~  作者: 矢代大介
第4章 無を司る者〈エクストラ・ウォーロック〉
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第44話 うごめく巨影

「……ん、なんだ?」

魔晶石を抱えて帰ってきた俺たちを出迎えたのは、街を行き交う人々の活気づいた声ではなく、同様の色が濃くにじみ出るざわめきだった。人々が集まる方向にあったのは、確か街の治療院だったか。

「多分、けが人が出たんだと思う」

「そりゃあ、あれだけ魔物が出たんですもの。けが人だってかなりの数が出ると思うわよ」

 俺たちの与り知らぬところでけが人が出ていたことに、人知れず不安と複雑な気持ちを募らせる俺に対して、ユレナとチルは割と涼しげな表情をしている。やっぱり、同じ人間でも生まれと育ちで価値観はだいぶ変化するらしい。

「でも、ただの怪我ならこんなに騒ぐこともないよな?」

「そうねぇ。……もしかして、何かすっごい強い魔物でもでたんじゃないかしら」

 傍らのユレナを見ると、意外そうな声音とは裏腹に、その表情は強敵と巡り合えるかもしれないという期待を浮かべている。どことなくバトルジャンキーな気質があるのは、流石ディーンさんの娘と言うか、流石異世界のたくましき女と言うべきか。

「すみません、何があったんですか?」

「ん、ああ。冒険者の人かい」

 たまたま近くにいたガタイのいい男性に声をかけてみると、すぐに応じてくれた直後に苦い顔になる。

「いやぁ、ウチの街に就いてる腕利きの冒険者が居るんだけどね。昼間の間に、そりゃまあでっかい魔物に襲われちまったそうなんだよ。重傷で済んだらしいからよかったけど……いやまったく、今回の大襲撃は恐ろしいものが出てきたもんだ」

 言いつつ、男性は場所を開けて、俺たちにも自体が見えるように計らってくれた。厚意に甘えて身を乗り出してみると、そこに在ったのは――。

「っ……」

「うわ、酷いありさまね」

 ユレナの言葉通り、全身のいたるところに包帯を巻き、一部からはいまだにジクジクと赤いものがしみだしているという、おおよそ見繕っても重体という言葉以外が見当たらない様相の、男性と思しき冒険者が横たわっている姿だった。

「街付きとしては腕もかなりあったんだけどねぇ。相手が悪かったとしか言いようがないけどね」

「そんなに強い人だったんですか?」

 男性の発した腕利き、という言葉に思わず反応すると、得心したように男性が冒険者のことを話してくれる。

「ああ。街の中じゃ一番高いAランクの冒険者なんだ。今までも何体か、でっかくて強い魔物を相手取って勝ってきた強豪だったんだが……」

 男性の言葉の中に含まれていたAランクと言う単語に、俺は確かな驚愕を覚えた。

 現状、俺たちの冒険者としてのランクはそこまで高くはなく、俺とチルよりも先んじて活動していた都合上、一番ランクが上がっているユレナでもCランク、俺たちは正規のクエストを受けた回数自体が少ないため、いまだにDランクどまりなのが現状だ。

 それに対し、やられたという男性冒険者のランクは、パーティ中最高ランクであるユレナのCよりも二段階高いA。八段階存在する冒険者ランクではあるが、当然上に上がれば上がるほど昇格も遠く、難しくなっていく仕組みだ。

 加えて初心者扱いのF、冒険者見習い扱いのEに比べると、本格的に冒険者として認められはじめるDランク以降は、単純計算でも数倍の労力を経て、ようやく昇級できるようになる。それはつまるところ、ランクが高い人間はそれだけ多くの場数を踏み、多くの依頼をこなし、多くの経験を積んだベテランであり、実力者として認知されるのだ。

 それほどの人物がやられたということは、彼を倒した魔物もまた、相当な実力者であるということである。とんだ出来事もあったものだと、俺の口からは思わず驚愕のつぶやきが漏れた。

「ここにきて、えらい奴が出てきたもんだな」

「でも、考え方によってはチャンスかもしれないわよ。路銀の足しが増えるかも」

「ん、どういうことだ?」

 ユレナの発言の意図を図りかねて、俺は疑問を彼女にぶつける。問われた本人はもみあげ付近の金髪をくるくると弄りながら、ちょっぴり上機嫌な様子で説明してくれた。

「普通、大型の魔物が出た時は国の方で討伐隊が組織されたりするんだけど、バレリオは地理的にもシエナリースの王都である「シェルカ」からは離れているわ。そういう時には臨時の代理として、現地にとどまっている冒険者たちが一時結託して、共同で大型魔物の討伐に当たるの」

「あぁ、うん。んで、それがどうして……ってあぁ、そういうことか」

 質問を重ねようとする直前、俺は彼女の発言の意図に感づくことができた。

 つまるところ、その大型魔物討伐の共同作戦に参加し、見事討ち取ることができた冒険者たちには、臨時収入的に報酬が付与されるのだろう。Aランクの人間が叶わない魔物だということは、支払われる報酬もそれ相応に違いない――そういうことをユレナは言いたいのだろう。

「貴方の思ってることで、多分正解よ。……たぶん、もうすぐにでも参加依頼が張り出されるはず」

「だったら、善は急げだ」

「ん、冒険者の人には悪い気がするけど……」

「俺らの稼ぎになるんだ。この際多少酷いのは目をつぶろう」

 人の大怪我をダシにする非道な奴と言う自覚はあります。はい。

 そんなわけで、俺たちはさっさとギルドに直行。ユレナの言った通り、ちょうど張り出されていた依頼にいの一番で参加することとなった。


***


「――あれ、チル?」

「あ、エイジ」

 大型魔物騒動もひと段落を見せて、ようやく街が休息の兆しを見せ始めた、夜も更けきった時間帯。時計の長針も中央からずれ始めたころ、眠れないまま暇を持て余して、結局廊下に設けられたエントランスで、月明かりを頼りに無属性魔法全集を読んでいると、不意に近づいてくる気配に気が付いた。ふとそちらを向くと、たたずんでいたのは寝間着姿のチル。

「どうしたんだ、こんな時間に」

「ん、すこしお手洗い。……エイジこそ、どうして」

「眠れないんだよ。……ちょっと、思ったことがあってな」

「思ったこと?」

 適当に理由をぼかして、再び本に目を落とそうとすると、チルがそばに来て俺の顔を覗き込んできた。どうにも完全に話を聞き出そうとする体勢に入っているらしく、月明かりを取り込む彼女の金色の瞳が、好奇心の色で星のように輝いていた。

「あー……実はな」

 観念して打ち明けることにすると、実に手際よくチルが俺の前に設えられていたソファに腰掛ける。やっぱりというか、普段は物静かな割に、興味のあることには全力で食いついてくる子らしい。

 まぁ、一人で悩んでいても始まらない。ここは素直に、仲間である彼女に打ち明けるとしよう。


「無属性魔法が、さ。もしかしたら、俺にもあるかもしれないんだ」

「――え?」

 打ち明けた「眠れない原因」の内容に、耳を疑った様子でチルがきょとんとした顔になった。そりゃまあ、いきなりそんなことを言われても呆然とするほかないだろう。

「……正確には、それっぽい感覚があった、ってだけなんだけどさ。もしかしたら、って考えると……なんか、寝付けなくなっちゃって」

「……それで、無属性魔法全集」

「そういうこと」

 合点が行った様子のチルに、ひらひらと閉じた無属性魔法全集を見せびらかしてやる。

「いつから?」

「今日の昼間、魔物の大群と戦ってた時だよ。違和感に気付いたのは、帰ってくる途中だったけど」

 バレリオへの帰路につく中、どことなく「何か」の力の片鱗を、自分の身体を流れる魔力から感じ取ったのだ。それが何だったのか、その時はプチ戦勝ムードもあって深く考えることは無かったのだが、冷静に思い返した時、不意にその可能性へとたどり着くことになったのだ。

「……正直、本当にそうだって確率は限りなく低いんだけどな。ぶっちゃけ、俺の魔力は半分飽和状態で使い物にならないわけだし、仮に無属性魔法が使えるようになっても、それで何が変わる、ってわけでもないだろうしな」

 とはいえ、だからどうする、と言うことは無い。そもそも無属性魔法の顕現と言うのは、本にも書いてある通りタイミングも性能も、全てが人によって千差万別な代物だ。もし俺に無属性魔法が芽生えても、それが必ずしも戦力になることは無いのだし、何よりそんなありもしない力に今からかかりきりになっても、結局は足元を掬われてしまうのが関の山、という物だ。

 そう、頭ではわかっている。わかっているのだけれど、どうしても考えてしまうんだ。もし、自分にも魔法が使えるのなら、使ってみたいと。

「やっぱり、エイジは魔法を使いたい?」

「……昨日も言ったろ。人間だれしも、自分の持ってない力に憧れるんだ」

 チルの質問に、苦笑気味で場をまぜっかえしつつ、俺は立ち上がって自室へと歩を進めた。

「考えても仕方ないし、明日も襲撃があるかもしれない。……チルも、さっさと寝なよ。夜更かしは体に障る」

「――エイジ」

 いたたまれない気持ちに、少しばかり逃げ腰な口調。そこに目ざとく気づいたらしいチルが、俺の背中を見て呼び止めた。


「魔法が使えなくても、エイジは十分強い。だから、もしもにばかりすがらないで」

「……うん、そうする」

 やっぱり、この世界に生きる人たちのメンタルには、とてもじゃないが叶いそうもない。心なし強めの口調でそう告げたチルが、小さくお休み、とつぶやいて自室に戻って行ったあと、俺は人知れず、苦いものを交えたため息を吐き出していた。

気が付いたら行き詰ったまま一か月強も更新を停止していた……

もう謝るまいとは思ってましたが、今回は改めて謝罪させていただきます、遅れて本当にすみませんでした!

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