出会い
SNSで出会った人と実際に会うことが、スマホやiPhoneの普及とともに日常化している。おれも、しょっちゅうやっている。
ああ、なにもやましいことじゃないんだ。
同じ趣味をもった人と映画を観に行ったり、ゲームのイベントに行ったり、ライブに行ったりするってことだよ。
だけど、女の子ってのはその時が初めてだった。
経緯は簡単で、俺がツイッターに地元の飲食店のことをつぶやいたら、その女の子が、是非行きたいとリプライを送ってくれたのだ。
女の子。
初めて会って、食事に。
それはなんだか、気がひけるというか、社会的にアレなんじゃないかという考えが、つきまとって離れなかった。
だから、「そうだね、よし行こう」っていう流れには持ってかないようにしてた。
うだうだてきとーに流してたら、きっといつか忘れて、なかったことになるんじゃないかなとか、考えてた。
はぐらかしつつ、LINEのIDを交換してやりとりをするようになって、だんだん彼女のことがわかってくると、とてもいい人だってことがわかり始めてきた。
常識的で、頭がよさそうな雰囲気だった。おれのしょーもない冗談や愚痴に、彼女はいちいちやさしく受け答えてくれた。
きっと、すてきな人なんだろう。
もしかして、美少女だったりして。
画面の向こうで彼女はどんな顔をしてるんだろう。
LINEの画面から浮かび上がってくる、その女の子の人物像は、おれの中で次第に理想化されていき、とうとう止まらなくなった。
相手の姿が見えないせいか、軽い調子でコミュニケーションが取れてしまうのが、こういうネットで出会った関係の良いような悪いようなところだ。
だからやってしまった。
「あなたのこと、姿を見たことないのに好きになりそうって言ったら笑いますか?」
すぐに既読がついて、返事が来た。
「本気で言ってるんですか(笑)」
「もちろん。
そういえば、例のレストランのことですが、有耶無耶にしてごめんなさい。
来週の日曜日あたり、どうでしょう」
「いいですよ。」
「じゃあ、写真をください。
待ち合わせ場所で、あなたのことを見つけられるように」
彼女の写真を見るのは少し怖い気がしたが、仕方ないことだった。
しかし、彼女の返事は意外なものだった。
「その必要はないです。
わたしは胸元に赤い花のブローチをつけていきます。それがあれば、きっとすぐにわかりますから、安心してください」
おれは食い下がろうとしたが、やめた。
彼女の機嫌を損ねるのはいけないし、やたら写真を要求するのも、精神的に好感を持っている相手に対しては気がひけることだった。
彼女がどんな人でもいいじゃないか、おれは彼女の内面が好きなんだから。
そう自分に言い聞かせて、了解ですとだけ送った。それからその日曜日まで、LINEのやりとりはなかった。