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お嬢様 must go on!  作者: 紙月三角
第1幕 読み合わせ
8/37

08. 運命の出会いはさ、いろんなとこで起きてるんだよ

 日は沈み、あたりをすっかり闇が包んでいる。木々に囲まれた舗装道路には黒塗りの国産高級車が1台だけ。周囲には他の車や歩行者はおろか、民家やコンビニすら見えない。車のライトを消したら、きっと真っ暗になってしまうだろう道を、まるで走行音をさせない丁寧な運転でその車は進んでいく。


 後部座席に並んで座っている衿花ときいな。2人は学園の幼稚園に入る前からの幼馴染であり、学園への行き帰りはいつもどちらかの家の車で一緒だった。

「だいじょーぶ…?」

「…うん…もう大丈夫。ごめん」

 きいなと2人きりの時、衿花はいつもの怪しい敬語は使わない。衿花の顔を心配そうに覗き込んだきいなは、彼女がもう泣いていないのを確認して、少し安心した。


 蘭子と沙夜が部室を飛び出したあと、残された3人は部活を早めに切り上げて解散した。しとねがいる間はなんとか気を張っていた衿花だったが、きいなと2人きりになった途端にひどく落ち込み、声をあげて泣いた。「そんなつもりは……そんなつもりじゃなかったのに……」泣きながらずっとそれを繰り返していた衿花。自分が蘭子を傷つけてしまっていた事、そしてそれを面と向かって指摘され、嫌悪の感情をぶつけられた事、それが相当こたえたようだった。よしよし、と衿花を慰めていたきいなも、そんな衿花の扱いには慣れていない。内心は相当うろたえていた。

「あいつなんなのかなー、ほんとー。転校生のくせに言ーたい放題言っちゃってさー。エリの事何も分かって無いくせにー、あーむかつくー!だいたいあのお嬢様が連れて来たってあたりで、もうハズレ確定ってゆーか…」

「止めて」

「おう…」

 衿花の言い方は、厳しすぎて突き放す様にも聞こえたが、言われたきいなはそんな衿花が珍しくて少しにやけてしまう。

「…ふふ、こんな事言ったら怒るかな?怒んないでね。……あたしさ、エリがこんなに感情豊かなの、久しぶりかもしんない」

 少し赤くはらした目の衿花は、ぷくっと頬を膨らませてから、ふふふふ、と上品に笑った。きいなもつられて笑う。

「はは…どんな気の変わりよー?それともあの子がそんなに特別だったのかなー…」

 パッと顔を赤らめた衿花は、急いできいなから顔をそらす。きいなは笑いが止まらない。

「えー、まさかみんなの憧れ衿花お嬢様が…、あの深遠のお姫様が…、誰にもなびかなかったあのエリちゃんが…、あーんな貧乏くさい田舎もんのことをー!私びっくりですわー」

「…な、何を、言ってますの…」

 衿花は眉をピクピクとひきつらせてつぶやく。

「あーら衿花お嬢様?さっきの事ですのにー、もーお忘れですのー?さっき泣きながらおっしゃったじゃありませんことー、『あの子に嫌われたくな…』」

 そこできいなは言葉を止めた。衿花が、車の窓ガラスの反射を利用して、きいなの方をぎろりと睨んでいることに気付いたからだ。真っ黒な窓ガラスに映る衿花の顔も真っ黒で、両の瞳だけが怪しく光っている。衿花をからかうのが趣味のきいなにとっても、彼女のこの殺意を帯びた眼差しには慣れることができない。だが、それでも怖気づかずに果敢に攻めていけるのが、幼馴染としての経験値のなせるわざだった。

「『プライドが高く、自分が完璧だと思っていた彼女を初めて否定した存在。それは同時に、彼女を同じ人間として扱ってくれた初めての存在でもあった。最初は反発していた彼女は、やがてそれが好意に変わっていることに気づく。それは、運命の出会いだったのだ』…」

 まるでテレビのナレーションのような声色で喋るきいな。衿花は呆れている。

「…何を言ってますの…」

「でもさー、今のままじゃ絶対あの子に嫌われてるよねー。ただの厳しい先輩くらいにしか思われてないよねー。このままじゃエリちゃん失恋だよー…」

 冷静さをアピールするように、いつもの口調で答える衿花。

「…わたくしは部長ですわよ。部の皆様を監督させて頂き、導かせて頂くのが職務。好いて頂いたり、仲良くさせて頂く必要など御座いませんわ」

「もっと自分に正直になればいーのに…。損な性格だよエリは…。運命の出会いはさ、いろんなとこで起きてるんだよ」きいなの表情は悲しみを帯びてくる。「転校生君がお嬢様を追っかけて行って、2人でどんな話ししたんだろーね…」

「…別に…興味ないわね」

 衿花は目を合わせずに言う。きいなはもう笑っていない。衿花の横顔をじっと見つめていた。

「運命の出会いが2つ同時に起きたら………きっとタイミングとか境遇が悪いほーが泣きをみる。先輩後輩は、同級生同士に比べるとちょっと分が悪いよ…」

「……いじわる」

 衿花はまた眉間に皺を寄せ下唇を噛んだ。そのまま無言になった2人をのせ、車は夜の林道を静かに静かに進んでいった。

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