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お嬢様 must go on!  作者: 紙月三角
第1幕 読み合わせ
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04. わたしが勝手に言いふらすことはできないわ

 沙夜の転校2日目。


 一日過ごしたくらいでは、庶民と上流階級の格の違いに沙夜が慣れることはなかった。登校途中の朝高級車の行列にはゲシュタルト崩壊を起こしてめまいがしたし、移動教室になるたびに巨大すぎる学園の中で迷子になった。学園の敷地内に常駐している警備員には、昨日今日と何度も道を聞き過ぎて完全に顔を覚えられてしまった。

 授業内容も相変わらず高度で、置いていかれっ放しだった沙夜は、せっかく同じクラスなんだし、同じ部活のよしみでしとねに助けを求めようとしたのだが、彼女は彼女でそんな余裕はなさそうだった。休み時間になる度に、同じクラスはもちろん、別のクラス、別の学年、しまいには小等部から大学部、学園職員にいたるまで、やれプレゼントだの、握手してだの、まるでアイドルさながらに彼女のファンらしき人々がしとねの前に行列を作る。一人当たりの時間制限も決まっているみたいで、しとねのそばで黒服がルール違反が無いかしっかり見張っている。昨日彼女が沙夜に言っていた事は紛れも無い真実だったらしい。クラスメイトが話すには、以前に比べるとこれでもかなりマシになった、ということだったが、あの行列に並んで「さっきの授業の事なんだけど…」と聞くのも違う気がしたので、沙夜は蘭子の教室に行ってみることにした。


 この学園では、1学年がA、B、Cの3クラスに分かれている。その内、沙夜の所属するのは2―B。蘭子の教室が2―Cであることは、昨日の歓迎会で、沙夜が聞いてもいないのに勝手に蘭子自身の口から告げられていた。


「あ、あら、黒星さん、こんなところで会うなんて奇遇ですわね?誰かにご用かしら?」

 蘭子は自分の席で一人で何かのコピー用紙とにらめっこをしていたようだったが、沙夜を見つけて急いでそれを机の中にしまった。沙夜は早速授業でわからなかったところを聞いてみたのだが、結局、望むような成果は得られないまま自分のクラスに戻ることになるのだった。

「いいですこと?こういった学業というものは、ワタクシのような一部の支配者階級に尽くすために、庶民が修めるものですのよ?黒星さんならともかく、数学も英語も日本史も世界史も、本来ならワタクシには必要ありませんの。ワタクシはただ一つ、帝王学だけを極めればそれで全て事足りるのよ!おーほっほっほ!」


 沙夜は後になって知ることになるのだが、ショックを受けるほど高度なレベルのこの学園の授業に対して、生徒の誰もがそれに吊り合うだけの学力を持っているというわけではなかった。優秀な生徒もいれば、沙夜や蘭子のような落ちこぼれも当然いる。その中間層の大半の生徒たちにしても、授業なんて試験の時だけなんとかやり過ごせればいいやという程度。そういう意味においては、この超一流の学園のお嬢様たちも普通の高校生とたいして変わるところは無いということで、その事実に沙夜は安心することになるのだった。


「…そもそも人間に点数を付けて、いたづらに優劣を競わせるというようなやり方はワタクシ、正しくないと思いますの。もう少し大きくなってワタクシが国政に口を出せるようになりましたら、そういったシステムは全て廃止するつもりですわ!」


 だが、「さすがお嬢様!」と沙夜が感心する事も当然あった。

 例えば学園のお嬢様達は、他人の悪口、陰口というものを話したがらない。沙夜の知っている庶民な女子高生は、女子トイレで、放課後の教室で、「あいつはここがダサい、こんな欠点がある」だの、「誰と誰が付き合っている」だの、「やっぱりもう別れた」だの言っては笑い合っていた。だが、この学園で沙夜は、お嬢様達がそんな下世話な話しをする光景を目にも、耳にもすることがなかった。それは、お嬢様たちが学園の幼稚園の頃から教え込まれた淑女としての品の良さのせいでもあり、また、将来人の上に立つ事を宿命づけられた者として、高校生にもなってそんな些事を話題にするのが恥ずかしい事である、という風潮が学園内にあるせいでもあった。

 実際、しばらくして学園に慣れた頃に沙夜は、しとねの弱みでも握れればという軽い気持ちでしとねが言っていた『スキャンダル』についての情報収集をしたことがあった。

「ごめんなさい。美浦さんの居ない所でわたしが勝手に言いふらすことはできないわ」

 しかし誰からもそんな風なことを言われてしまい、情報提供を上品に拒否されてしまうのだった。


「…だってそうでしょう?この世界には、ワタクシと、ワタクシ以外の2通りの人間しかおりませんのよ?ワタクシ以外の庶民たちの間でどれだけ小さな優劣を付けてみたところで、そんなのに何の意味があるっていうのかしら?おーほっほっほ!」

 うん、そうだね。

 とっくに自分の教室に戻ってきていた沙夜は、隣の教室から充分届く蘭子の声に適当に相づちを打った。

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