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お嬢様 must go on!  作者: 紙月三角
第2幕 エチュード
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02. あのままほっといたら何するかわかんないよー!

 駅前の噴水の前でぼうっと突っ立っている少女のもとに、金髪の少女が現れた。2人は仲良さそうにしばらく喋った後、ファッション系のショップが多く入った駅ビルの中に消えていく。一見すると、どこにでもある友人同士の待ち合わせ風景。

 その2人は気付いていないようだったが、少し離れた位置から、その2人を尾行する人影があった。


「うわー。あの2人、手なんか繋いじゃって!しかもあれカップル繋ぎだよー。もーこれは決まりだねー」

「でも、最近の女子は仲の良い友達同士で手ぐらい繋ぐよ。まだ断定は出来ないんじゃないかな?僕だって友達の女の子と買い物に行く時は大抵カップル繋ぎだしね」

 花柄のセーターに緑のショートパンツのきいなは、双眼鏡を覗きながらくつくつと笑っている。ファンにばれないようにとグレーのハンチングをかぶり伊達メガネをかけて男装しているしとねも、真剣な様子で先行する2人を見ている。モデル体型のすらりとしたシルエットには、肩にかけている大きなショルダーバッグが若干不恰好だった。

「いや君の場合は友達イコール肉体関係だから参考にならんよ……てゆーか…」

 きいなは双眼鏡から目をはずし、後ろを振り返る。

「エリは帰ってもいーのに……こんなストーカーみたいなこと、らしくないよー」

 2人から少し離れたところにある金属製のベンチには、白のブラウスにキャメル色のワンピースという清純なお嬢様ファッションの衿花が、すまし顔で座っていた。



 前日、部活が終わった直後の演劇部部室。

 沙夜が「明日暇?映画見に行かない?」と蘭子を誘ったとき、一瞬だけピクッと眉を動かして反応した衿花。よく見ていなければ見落としてしまうようなそんな一瞬の動きを、きいなだけは見逃さなかった。

 付き合いの長い幼馴染みだからこそ、わかることがある。沙夜と蘭子が楽しそうに明日の予定について話している間、衿花は全く関心無さそうに部室の後片付けをしていた。2人が何を話そうとも、まるで聞こえていないようないつも通りの態度で。それが全部、彼女の強がりであるときいなは気付いていた。

 本当は、自分も沙夜と仲良くなりたい、沙夜を独占したい。それでも彼女に嫌われたくないから、自分の気持ちを必死におさえるしかない。幼馴染みが抱えているそんな悩みを、世話焼きのきいなは放って置くことができなかった。

 彼女は、2人の『初デート』を尾行して、なんとかして邪魔してやろうと考えた。それをしたからと言って、どうなるという訳でもない。そんなことはわかっていたが、衿花の気持ちを知っていたきいなが、今、出来ることはそんなことくらいしかなかったのだ。沙夜と蘭子が集合場所と時間について話しているのを盗み聞きし、自分のスケジュール帳にも同じ予定を記入した。

「何かおもしろそうな事を考えているね?」と、しとねまで加わってきたのは予想外だったが、きいなはそれを拒まなかった。衿花の気持ちがばれないように気を付けていれば、協力者は多い方がいい。

 だがもちろん、衿花にはこの計画の事は言わないでおいた。きいなにさえ本心を語らず、表向きはただの厳しい先輩を取り繕っている衿花が、この計画に賛成するとは思えなかったからだ。

「御機嫌麗しゅう御座います」

 そして、きいなはあきれ果てることになる。今日、集合場所の駅のロータリーにきいなとしとねが到着すると、そこにはにっこりと笑いかける衿花の姿があったのだった。



「美浦様とキイが何か善からぬ事を御企てになっていらっしゃる事など、部長のわたくしとしましては、とっくの御昔に御見通させて頂いております。勿論、そんな御企てを見過ごさせて頂く事なんて出来かねますわ。黒星様、鳳様が御親交を御深めになられるのは御二方の御間での御問題、わたくし共が御口を出させて頂けるような事ではないので御座いますわよ?」

 なるほどね、あたしを止めるっていう体でついてきたわけね…。そんなこといって本当は、2人のことが気になって仕方ないくせに…。しとねがいる手前、きいなは2人きりの時のように衿花を茶化す事ができない。

「そうだよね…。僕ももう、あの2人のことは暖かく見守ってあげようと思っていたところなんだよ。尾行なんて無粋な真似はやめてさ」

 きいなに付き合って嫌々やっていました、という様子で衿花の側につくしとね。2人は非難するような目できいなを見ている。まるで自分だけが悪者という状況に置かれて、きいなはイラッとする。そして少しいたずら心を出した。

「そっか、じゃーこんな事はもーやめて帰ろーか!あたしも内心どーかと思ってたんだよねー」そう言って沙夜と蘭子が入ったビルとは反対側へと歩き出す。

「えっ…」

 しとねと衿花が同時に声をあげる。このままきいなに帰られたら、今の2人に沙夜と蘭子を尾行する理由は無くなる。

「い、いや、でもせっかくここまできたし…」

「キイ、ちょ、ちょっと、え、え、本当に?!」

 自分達がやめろと言ったくせにあせる2人を尻目に、きいなはまた少しイラッとする。しかし、だからと言って、自分達より早く集合して明らかにこの『妨害作戦』にやる気満々の衿花を見捨てることもできず、結局悪者に徹してあげることにした。

 むー、しょーがないなー…。

「…なーんて、うっそー!やっぱ気になるよねー!だってあの2人あのままほっといたら何するかわかんないよー!」

 そう言って無邪気に笑って、2人の入っていったビルに駆けて行く。しとねと衿花はお互いに気付かれないように、ふーっと安堵のため息を漏らし、きいなを追いかけた。



 ビルに入った3人は、沙夜と蘭子を探して周囲を見回す。

「キイの下世話な好奇心には、正直申しまして呆れますわ。これではあの御二方が御安心して御交友する事が…」

「はーいはいはいー」

 目ではしっかり沙夜と蘭子を探しながら、『きいなの暴走を監視する』という自分の役を演じる衿花。きいなは呆れ過ぎて、もう相手にしない。

「でも正直面白そうではあるよね。最終的にあの2人がどこまで進展していくのか、興味があるな」

 今度はきいな側に戻っている調子の良いしとね。

「あ…!」

 10mも離れていない雑貨屋に沙夜と蘭子を見つけた3人は、急いで近くにあった子供服店に隠れて、ただの客を演じた。

「やっぱりこの子にはフリフリのついた可愛い服が似合うなー、うん」

「あら、あなた。此の子はこっちのキャラクター物の方が好きなんで御座いますのよ、うふふふ」

 打ち合わせしたわけでもないのに、当然のようにきいなの服を選ぶ若い夫婦を演じる衿花としとね。きいなは怒りで顔を引つらせながら「わーい、パパ、ママ、ありがとー…」と無理矢理笑顔を作った。

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