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9ページ目…想い繋がるとき~後編~

―「寒いね?」


「それは冬だもん。だから咲ねぇの身体に悪いと思ったのに」


病院を出てからずっと笑顔な咲ねぇ。だけど杖をつかなきゃ遠出は厳しい身体だった。それがあたしの心を痛めていた


「ところで咲ねぇ、行きたいところでもあるの?」


「はー…行きたいところ?」


咲ねぇは息を手に吐きかけて寒さを凌ぎながら何かを考えているようだった。そしてまず向かったのは…




「…久し振りの我が家だね?」


「おかえり、咲ねぇ」


まず訪れたのは自分の家だった。…足取りを見たらここにはあんまり長居しなさそうだった


「でも、家で何をするの?」


「少し用意したいものがあるの」


そういい咲ねぇは自分の部屋に向かう。そして数分後、手紙を持ってきたの


「咲ねぇ、それは?」


「お友達へのお手紙。学校は離れ離れで最近会えてないから、出したいなぁって」


「…だったらこれからポストに?」


「ん~、違うよ?…これからその子の学校に向かうよ?」


「…?」


咲ねぇには昔、浅井勇樹と川原葵という大親友が居たの。でも高校で咲ねぇだけ別れてしまったの。咲ねぇはそれはそんなに気にしてなくて、よく手紙でやりとりしてるのも見たことあるの。家が近いんだから会いに行けば良いのに「それじゃ面白くないよ?」って…


「黒江、行くよ?」


「あ、うん?」


咲ねぇが嬉しそうに家を出る。…対面できるかもだと、あたしは思ってた…




「…ふぅ…」


「…咲ねぇ、大丈夫?」


浅井勇樹たちが通う高校にたどり着いた。その頃には最近運動してない咲ねぇは辛そうだった。でも確実に学校に入っていこうとした。…学生入り口から


「ちょっと待って。そっちからはあたしたちは入れないよ」


あたしは慌てて咲ねぇを止めて来賓入り口からはいる。そして話を聞いてくれた先生が三人がいるクラスに案内してくれた


「…ここが、皆の…」


咲ねぇは一度周りを見渡し、川原葵の机に、その手紙を入れた。…とても、寂しそうに


「…これで、私の目的は果たせたよ。ワガママ言って…ごめんね?」


「…別に良いよ?じゃあ、帰ろう?これ以上は咲ねぇも…」


「…病院までは歩いて帰るよ。そう、したいから。…これが最後のワガママだから」ー


「…本当にこれが最後のワガママだった。まるで、やり残したことはもうない、って感じで」


「…咲が、な…」


黒江は目に涙を溜めていながら、なんとか踏みとどまっていた。…咲子は、葵に最後の別れを言いたかったのか…自分の命はもう長くないから…


「…会いに行けば良かった。咲子は…そう望んでいたんだから…」


葵は落胆を隠せていなかった。…友人の行動に答えられなかった自分が悔しかったんだ


「川原葵、あたしは貴女に、咲ねぇが何を言いたかったのかは分かる。…だから、あたしは咲ねぇが出来なかった事をする」


「…え?」


そして咲子は、俺に向かってきて…抱きついてきた


「!?」


「さっ…」


「咲ねぇ…咲ねぇは…浅井勇樹が好きだったんだよ。こんな病弱な私でも、ちゃんと側で優しくしてくれた、浅井勇樹が」


「だ、だからって今のこの状況になんの関係がっ…」


「これが咲ねぇの願い、そして…川原葵と浅井勇樹が…こうなることが…」


「うわぁっ!?」


「きゃっ」


抱きつかれたと思うと、今度は突き飛ばされた。それに巻き込まれるように葵と倒れてしまう


「浅井勇樹と川原葵が結ばれる事が、咲ねぇの最後の願い」


「…結ばれる…?」


黒江が初めて笑った。…大粒の涙を流しながら。…黒江は、姉が死んだ日からずっと、想いを背負って生きていたのか。…


「…葵、悪い」


「だ、大丈夫。そんなことより…黒江ちゃん…」


…葵は、黒江を抱き締めた。それには黒江も目を丸くしていた


「…?」


「私は、勇樹と、咲子…三人がずっと仲良く居ることが出来ると思っていたの」


「…葵…」


「ひどいよね、昔はずっと一緒って言ってたのに。お母さんから『咲子が亡くなった』だよ?」


「咲ねぇなりの優しさだったと思う…二人には特に言えなかったと思う。それだけ咲ねぇは…」


「だったらっ!咲子にもう一度…もう一度会って、話がしたかった!昔と同じ…三人でっ!!」


黒江を胸に抱きながら、葵が声を荒げ、涙を流し始めた。…葵は、大事な友人を失ったショックで心を乱していたのだろうか


「私は…咲子と一緒だったんだよ…咲子と…っ」


「葵、それは…」


「…勇樹…私は、こうなっても…ぅ…」


葵は言葉にならなくなっていた。…そして…


「ぅぅうあぁあっ…!!」


葵は黒江と一緒に俺に抱きついてきた。子供の様に泣きじゃくる葵、困惑しながらも涙が止まらない黒江…昔は笑うときも、泣くときもこうして寄り添っていた。…俺は二人の頭を撫でてやる…




「…ごめんね、なんか泣きじゃくって…」


あれから数分後、俺たちは一条家を後にし、帰路についていた。黒江はあれから薄い笑顔で「ありがとう」と言っていた。…咲子の思い、少しは伝えられたからかな


「別に良いよ、葵の気持ちがスッキリしたんなら」


「うん。…これでやっと咲子の死に向き合えると思う」


「そうか。…それで、咲子と同じ想いって何だ?」


俺は気になったことを口にした。さっき葵は咲子と同じ想いがあるって…


「…うん、いつか言わなきゃって思っていたよ。…勇樹」


葵は立ち止まり、俺を見つめる。…


「…私は…前から…」


夕陽が辺りを照らし、葵は今まででも数えるくらいの輝く笑顔で答えた




「勇樹が好き。…恋を、してました」


記憶を取り戻した葵の、俺に対する気持ちが、とうとう伝わった。…そして、この想いは咲子も同じと言うことも。…俺は…俺の気持ちは…




「…俺も、葵が好きだ。…この気持ちは、きっとそうなんだな」




遠回りをしたが、やっと二人の想いが、重なった

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