8ページ目…想い繋がるとき~前編~
「…よう」
「…浅井勇樹、何の用なの」
一週間後、俺は普段黒江が通る通学路で帰宅するのを待つことにした。するとやはり彼女はここに現れた。…恐らく、毎日ここで通学路を見つめているのだろうと思ったからだ。彼女は俺を見ると眉間にシワを寄せた
「…そんなに構えなくても良いんじゃないかな」
「…私はいつもこうだから。それより」
「用、か。…ちょっと野暮用だよ。…今日、暇かい?」
俺の問いに初めは嫌な顔をしていたが、首は縦に振ってきた
「…構わない。普段からすることはないし」
「そうか。…葵もいいか?」
「一人でも二人でも構わない。来るならどうぞ」
「……」
「…」
「お茶です、どうぞ」
…今、一条家に葵と来ていた。だが前にいる黒江と三人固まっていた。…言葉が出てこない
「…カステラ、どうぞ」
「……」
「…浅井勇樹、川原葵。…何となくだけど用件は知ってるよ」
「…え?」
切り出してきたのは黒江だった。黒江はお茶を少し口に含んでから話を始めた。…早くも、潤んだ目で
「咲ねぇは昔から身体が弱くて、学校を毎日いくことも本当は辛かった。でも、咲ねぇは普段から私に『お友達が居るから、頑張る』って言って聞かなかった。そして、あたしが中学に入ったときに咲ねぇは言ったの。『好きな人ができた』って」
「…」
「…好きな、人か…」
葵が呟く。どうやら知っていたらしい
「それからは咲ねぇ、元気になったの。弱いのは相変わらずだけど、それを跳ね返すくらいに。…でも」
ーこの日の咲ねぇは、いつも通りに家に帰ってきたけど、何となく元気がなかった。あたしはすぐに気づいて咲ねぇに聞いてみたの
「咲ねぇ、どうしたの。具合よくないの?」
「…どうして?」
「だって、顔色よくないし、なんか…寂しそう」
「…大丈夫だよ、黒江。お姉ちゃんは元気だよ?」
「本当に?」
「うん。…今日のご飯は何かな?」
咲ねぇは笑ってごまかしていたけど、あたしは分かっていた。…あたしは調べた。そして知った。…咲ねぇは好きな人が出来てた。それはとても嬉しかった。でも…
「…咲ねぇ?朝だよ…」
「…ん…おは…よう」
…咲ねぇは少しずつ、確実に弱っていった。病院ではもう長生きできないって言われたらしかった。…年が空けた頃にはもう病院から出られないくらいだった。あたしたちは毎日のように通って顔を合わせた
「…今日は、寒かったんじゃないの…?」
「まぁね。雪が大分降ってるからね」
「…雪、か…お外に、出たいなぁ…」
「駄目だよ咲ねぇ、身体に障るよ?」
窓を開けて、咲ねぇが呼ぶ。あたしは隣でそれをなだめたの。だけどそのときは珍しく咲ねぇも引かなかった
「…出たいな、黒江。黒江が居てくれたら平気だよ?だから…」
「医者の人にもダメって言われてるのに、ダメだって」
「お願い…お姉ちゃんの一生のお願いだよ」
「…先生に許可、もらいにいくよ」
私は仕方なく咲ねぇを病院から連れ出したの。…そして、咲ねぇと最後の散歩を始めたの…