4ページ目…拒絶される心
「…ごちそうさま。ふぅー、おいしかったね?」
「そうだねー?家庭的で、つい笑顔になっちゃいましたよ?」
「お粗末様です!いやー、つくった甲斐があったってもんだよ!」
夕飯が終わり、今は皆でちょっとした談笑をしていた。…さて、あとやることは…
「……静かですねー。夜の学校って、本当に不思議ー」
「そうだね。でも私は撮影で夜の学校に入ったことがあるからね」
「いーよねー、楽しそうじゃん?」
「そーでもないよ。どうせ仕事だし」
「…ちょっと、怖いかも」
皆が笑いながら話す中、イマイチ葵の表情がさえない。慣れない環境にいるせいだろうか…
「…葵、どうした?」
「ん…?何が…?」
葵は不思議そうに首をかしげるが…やはり、何か変だ。…ここは…
「…そうだ、せっかく夜の学校に居るんだ、少し肝試しでもどうだ?」
「暇ですねー」
「…良かったんですか?大分興味津々だったんじゃあ…」
結局肝試しは幸さんが危ないからと、俺と幸さんが寝床にした教室に残り、葵、真実、紫谷野は学校探検に向かった。俺たちはいざというときの見張り番的な感じだ
「そうですねー、私も実際生徒会長ですから、居残りで夜まで作業、というのが何度かありましたからー」
「この時期に?去年十和田先輩はそんなことなかったような…」
「あの人は自他共に認める天才ですからね~、多少の無茶ならできますよー?」
「確かに…。でも天才なら幸さんだって…」
「私は"秀才"、あの人は"天才"なの。…私は努力をし続けなきゃ、どうしようもない…凡人だから」
「…はぁ」
…前から薄々感じてはいたが、この人は自分を卑下してる。自分に自信がないのか…?
「ゆ、ユウッ!」
「よかった、動いてなかった…」
「…どうした、二人とも…?」
そこに慌てた様子で真実と紫谷野が帰ってきた
「何かあったんですか~?校内に危険物は無いですし、ありそうな所には施錠をしてもらってますよー?」
「そ、それが、川原さんが居なくなったの!」
「!?」
葵が居なくなったと聞き、俺は理由を考えた。彼女が道を迷うとは考えにくく、さっきの幸さんの話だと何処かで怪我をしたとも考えにくい。第一真実と紫谷野が一緒だったのだ。…気付く筈なのだ、葵の異変に
「少し前まで皆で笑いながら校内を歩いてたはずなの。でも急に声がしなくなったなぁと思って後ろを向いたら…」
「…不思議ですねー?かくれんぼですかね?」
「そんなまさか、葵がイタズラ心で俺たちを困らせることは出来ないですよ」
…落ち着かなくなっていた。もし、もし万が一こんな暗い場所で彼女があの発作、フラッシュバックが起きたら…
「ユウ、心当たりはないの?あおっちが行きそうなところは」
「…」
真実に聞かれて考えるが、正直全くわからなかった。登校中に必ず行っていたところは…無かったはずだ。あるとすれば教室…?だがさすがにそこなら見ているだろう
「とりあえず幸、浅井君、手分けして探すのを手伝って!」
「…っ、はぁっ、はぁっ…」
あれから校内を駆け回った。ひょっとすると外にいるかもと外も探した。だが見つからない。今は四人が集まっていたが結果は皆同じだった。皆に焦りの色が見える。こんなだと、本当に何処かで葵はフラッシュバックで倒れてるんじゃ…
「大体全部の教室は見たはずなんだけど…」
「外に出た形跡はない。靴があったしな」
「私たちの居た教室にも戻ってきてないね」
「後あるとすれば…鍵が閉められた教室とかになるけど…職員室のキーロッカーに無くなってる鍵は無かったですよ?」
「…入れ違いになるとは考えにくいんだよな。これだけ声を上げて探してるんだから」
…正直、手詰まりに近かった。探せる場所はあらかた探しているのだから
「…!」
そこで不意に俺の携帯がなった。ポケットから取り出して差出人を見ると…「川原葵」…
「!!?葵っ!?」
「あおっちからなの?ユウ、文章は!?」
本文を開く。だが本文はなかった。ただの、空メール…だが、まだ携帯を使える状況にあるということなのは分かった。ほんの少し気持ちに余裕ができる
「浅井君、電話は?繋がらないの?」
「それはさっきも試した。だけど全く駄目なんだ。呼び出し音もかからない」
…葵は今、一体どういう状況なのだろうか?不安ばかりが募っていく
「…浅井君、私たちはここで待ちます。だから、もう一度貴方の勘を信じて探してきてくれませんか?」
そこで急に幸さんが"会長モード"に切り替わり、俺に提案をしてきた。それに真実と紫谷野は反論する
「会長さん、それじゃあ私たちがまるで邪魔みたいな…」
「幸、それに人数減らしたら効率も悪くならない?」
「私の視点ですが…もしかして、ですけど。…私たちが見つけるのは無理だと考えました。圧倒的に居る期間が短い私たちには…。それなら入れ違いのリスクを減らし、なおかつ川原さんにもっとも近い、貴方が探して見つけ出す。それが最善だと私は思います」
「「…」」
幸さんはどうやら俺を信用してくれているらしい。そして結局幸さんの指示通り、俺が探しにいくことになった…。葵…!
「…葵ー!」
再び名を呼びながら校内を探す。…さっきの空メールからかなり時間が経っている。こうしている間にも…
「…ゆ、う…」
「…!?葵っ!どこだーっ!」
そうしてる内に何処からか葵の声が掠れるように聞こえてきた。…近くには空き教室がいくつか…
「…っ!」
だけど、すぐに分かった。…葵の泣く声が聞こえてきたのた。その聞こえてきた教室のドアを開ける。…葵が居た
「…あ…ゆう、き…」
「…あ、葵っ!?」
葵は俺に気付くとフラフラと寄ってきて、倒れかかるように抱きついてきた。その身体は先ほどとはまるで違うように見えた。…弱々しい、と言うべきだろうか
「…どうしたんだよ、何が…」
「…怖いよ、暗いよ…」
葵はうわ言のように言葉を並べる。…俺にしがみつく腕には力が入っている
「…一人に、しないで…。お願い…」
「…何を言ってるんだよ葵?俺は葵を見捨てないぞ?」
「…でも、咲ちゃんは…私をっ…」
「!!」
…さき、ちゃん…?恐らく…一条咲子…の事だろう。だが葵は彼女のことは記憶になかった筈だった。…どういうことだ?
「…葵、咲ちゃんって…」
「…いやぁぁぁあぁあっ!!?」
「!?」
改めて確認すると、葵はパニックになった。さらに腕に力は入り、身体の震えが大きくなる。…まずい、これはまずい…!ここしばらく無かったから余計に…
「いや、イヤ、嫌ぁぁっ!一人にしないでぇ!」
「大丈夫だ、葵!俺はお前を一人になんかしない!何度でも言ってやる、俺は、お前をっ…」
「…置いていかないでぇぇぇえっ!」
「…っ!」
俺が言葉を言い切る前に、葵に突き飛ばされた。俺はさすがに面食らって床に転がる。…俺が身体を起こすと葵は走り去ってしまった。…葵のパニックが、収まらなかった…?
「…嘘、だろ…」
「浅井君!…今の、もしかして今の川原さん?」
たぶん声が聞こえてきたのだろう、幸さんがやって来た。…正直、それどころじゃなかった
「…浅井君、追わないと」
「…でも、葵は…」
…拒絶されたのか、俺は。…葵に…