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挿話 八


   【八十五日目】


「退屈だな」

 彼が呟いた。

「ゲームでもすれば」

 上の空で答えたのは、ゲーム機のシートに凭れ、両足を通路に投げ出しているセブンスだった。その隣にはエイツがほとんど同じ体勢で座り、視点の定まらない瞳で天井を見上げている。

 通路を挟んだ向かいのゲーム機に寄り掛かっている彼が、ぼそりと言う。

「飽きた」

「贅沢者」

 セブンスは苦笑する。

「お前らだってそうだろ」

「まあね」

 シートから背中をずるずると擦り下げて、セブンスは床の上にだらしなく寝転がった。

 エイツは、相変わらず虚空を見つめている。元々口数の多い方ではないが、この頃はほとんど喋らなくなった。おそらくこの少年はもう閉じ篭り始めている。そう遠くない内に、新しい、動くマネキンが完成しそうだ。

 彼らとそれほど離れていないところで、フォースが格闘ゲームの筐体の前に座り、モニターを凝視していた。だが、操作パネルのボタンを押す気配はなく、ひたすらデモ映像を見つめるだけだった。その様子には明らかに異様な気配がある。間もなくこの男も閉じてしまうのだろう。

 フォースの座るシートの後ろには、ファーストが膝を抱え、大きな体を縮込めて小さくなっていた。話しかけられれば返事はするものの、一日中その姿勢を崩さない。

 もう何日も、このグループはずっとこんな調子だった。彼が新入りとしてここに参加する前まで、ここにはいつも、調和の取れた快い空気が漂っていた。できれば仲間に入って、共に時間を過ごしたいと願ってしまうような。

 だが今は、重苦しい倦怠感が充満している。

 何故ここがこんなに変わってしまったのか、彼らにその理由はわからないはずだ。たった一人を除いて――。

「リュウ」

 彼がその名を呼んだ。

 ファーストが顔を上げるのを確認し、彼は言葉を続ける。

「何かが足りないような気がするんだ」

 ファーストの頬がぴくりと動く。

「何が?」

「わからない……。でも、俺達最初から五人だったけ? 何だか、空間がやたら広く感じられるんだ」

「何だよそれ」

 不安げに尋ねる彼を、セブンスが笑う。その声から以前のような快活さが消え、機械の合成音声のように乾いていた。

 ファーストは、何も答えたりはしない。

 消えた男――彼を許せなかった男――そんな存在のことを彼が意識の底に留めているのは、とても不思議なことだった。もしかしたら、彼にとってあの男は、ここでの生活に刺激を与える存在として、重要だったのかもしれない。もう少しうまく事が進んでいたら、彼はもっと新しい感覚を知り得ることができたのかもしれない。

 だがもうそれは、悔いても仕方のないことだった。過去は取り戻せないのだから。

 それにしても、たった一人が消えてしまっただけで、ここにこれほどまでの変化が生じるとは思わなかった。そろそろ、このプロジェクトの終盤が近付いているということだろうか。

 それなら私のできることは、できるだけ彼の心に素晴らしい思い出として残るよう、印象的な結末を用意することだけだった。



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