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9話:久しぶりの対人は足がすくむ

 街についた。

 なんとか萌え天国(もうあれは地獄を通り越して天国)を乗り越えて街まで生還できた。

 すでに日は落ち、石造りの通りは月明かりと、極少数の店からこぼれる弱い光でわずかに照らされている。

 夜で、明かりもないためか外を出歩く人はほぼいない。たまに酒場から酔っ払いが出てくるくらいだ。

 と、酔っ払いが通ったとき俺の服が捕まれた。

 振り向くとネオンが俺の影に隠れて服の裾をキュッとつかんでいた。


 ……そうか。多分分かった。

 俺は「大丈夫」と出来るだけ優しい声で言って歩きだす。

 人と話したことなんて本当に皆無だったのに案外話せる。あれだろうか、同じような境遇の人とは話しやすいってやつだろうか。

 俺はそんなことを思いつつ、街の東側にあるおっさんの宿屋へと向かっていた。

 

「すいません、お嬢さん。少しお話をよろしいでしょうか?」


 突然目の前に人が現れた。くそ、魔法使いじゃないと探知とか出来ないから分からなかった。

 俺は少し身構える。

 男……いや、女? ここは月明かりのみでよく分からない。

 身の丈一八○cmほどで真っ黒なローブを羽織っている(と思う)。

 頭まで隠しているのでほとんど外見が分からない。

 とりあえずこれにしとくはネオンを見てそう言っている。ってお嬢さんだからネオン以外いないわな。

 ネオンはというと、俺の後ろに隠れて、顔をちょこっとだけ出している。やっぱり可愛い。

 彼は沈黙を了承と捕らえたのか、話しだす。


「あんたのそのレベルはどうしたのですか? まだ始まって二日目です。いくら序盤はレベルが上がりやすくてもその数値はおかしくありませんか?」


 あ~、そういうことね。

 要するに、お前チーターか? えぇ? ってことか。

 チーターとは動物じゃないぞ。チート……簡単に言うとズルをする人のことを言う。

 それで、そのやり方を俺らにも教えろってことか。

 確かにデスゲームとか言われた後だし、出来るだけ生存確率を上げておきたいよな。

 俺はネオンを彼から隠すように立ち位置を変えると俺が質問に答える。こんな、猫耳を器用にからませて怯えてるネオンに説明なんて出来るか。表情は無表情だけどな。


「このレベルの上がり方は東の森の奥にいる、ゴブリンを数一○匹狩って来たからだ」


 彼は一瞬驚き、一度俺に視線を送る。

 そして、口を開いた。


「ああ、あなたもプレイヤーでしたか。レベルが出ていなかったので街の人かと思いました」


 わざとらしく驚いて視線を外す。

 チッ、なんかこいつムカつくな。三レベとか大して強くないくせに。この世界なら余裕で喧嘩に勝てる力はあるけど、久しぶりの対人だから勇気が出ない。

 彼はネオンが見える位置まで移動した。このやろう、俺に喧嘩売ってんのか? 買えないけれど……

 俺の視線など気にもせず彼はネオンに話しかける。


「そうでしたか。では、私たちももう少し奥でゴブリン狩りをやってみましょうか」


 彼はそういうと屈んでネオンと目線を合わせる。今度は何する気だよ、こいつ。

 作られた優しい笑みを浮かべ、話しだす。まあ、フードで口元しか見えなかったが。


「ところで、お嬢さん。私たちのパーティーに入りませんか? レベルはおそらく今のところトップでしょうし、あなたがいればゴブリン狩りも怖くありません」

 

 なんだこいつ? いきなり勧誘かよ。わけわからん。

 トップレベルとかなにいってんの? 始めたばっかだからそんな差がつくわけないじゃん。まあ、二日で二桁は異常だけど。

 あ、あれか。こいつもぼっちだから仲間が欲しいのか。でも、ぼっちならなんで俺も一緒に誘わない? たくさんいたほうがいいだ…………あ~、そういうことか。

 こいつゲームの中でハーレム作ろうとしているやつだ。まだ男か分からないけど。

 女だとしても、男が嫌だから女のみ誘うってこともあるしな。

 とりあえず俺はネオンの反応を見る。

 と、ネオンもこちらを見ていた。視線が合うと俺は頷いた。

 俺はまたネオンを隠すように位置をとると彼に言った。


「ネオンは俺の仲間なんで、すまねぇがが他当たってくれよ」

「さっきから君はなんなんだ? 私はお嬢さんと話しているのですが」


 あからさまに嫌そうに俺を見て口を歪める。 

 なんでだろう。こんな優男相手でも俺は負けるのでは? と不安になる。だから男か知らないってば。

 現実のトラウマがここにきてまたもや発揮されるなんて……やっぱり俺は現実には戻らない。改めて誓おう。

 俺がちょっとビビッてしり込みしていると彼はため息をついた。


「レベルをどうやって隠してるかは分からないけど、その様子だとレベルは低いようだね」


 そう言って彼は指をパチンと鳴らす。

 すると、どこから出てきたのか俺らを囲むように盗賊のような面構えの大男たちが出てくる。君たちよくそんな面で普通に生活してこれたね。いや、ヤクザかなにかやってたのか? 

 ゲーム内に入ると勝手に現実と同じ容姿になるのでここでの容姿は現実の容姿だ。これはネオンとも確認したから大丈夫だ。

 そして彼は口を楽しそうに歪めると、さきほどの礼儀正しい姿勢を止めて喋る。


「ねえ、君らさ。この人数に勝てると思ってるの? 

 確かにこのゲームではPK(プレイヤーキル)出来ないけど、ただ痛めつけることは出来るんだぜ?

 HPも減らず、傷もつかない。だけど痛みだけは残る。全く最高だぜ。死ぬくらいの痛みを受けても生きていれるんだからな」


 そう言って高らかに笑う。やっぱりこいつは『彼』だったか。って今はそんなことどうでもいいか。

 そんな中俺はやっぱりビビッていた。

 い、いや、戦力的にはこっちが確実に上なんだが、やっぱりトラウマがな……特に最後の高笑いとか俺の両手両足の骨を折ったやつと同じ笑い方だった。

 無意識に体が硬直して動きが鈍くなる。そんな俺を見てか彼が言う。


「その子を置いていけばお前くらい助けてやってもいいんだぜ?」


 ん~……こいつはこの大男たちのリーダー的なやつなのか? 

 今更だが、気づいた。この状況になって頭が冷めてきた。

 敵の数は一三。全員剣士だ。まあ、魔法なんて打ったら建物が壊れて国の兵士が駆けつけてくるからな。

 俺はようやく脚の震えが少しおさまり、動かせるようになった。まだガクガクしてるが一応動かせる。生まれたての小鹿だが一応動かせる。

 

 俺が脚を動かしたことと、沈黙を貫いたことから彼は俺が戦うと見たのだろう。

 口を再度ニヤッと歪める。


「いけ」


 短くそう言い放つと四方向から同時に大男たちが切りつけてきた。

 脚がガクガクな俺は避けることも出来ずに攻撃が当たるのを待つ。

 こんなときフワンは何してんだ? と思い胸ポケットを覗くと体育座りで眠っていた。主人がピンチにもかかわらず。

 なんてしていると大男たちの剣が俺の両腕両脚に当たった。一人頭を狙ってきたやつがいたがそれだけは片腕で受け止めた。

 剣があたたった直後、パキンと音がして石造りの通りに乾いた金属音が鳴り響いた。

 大男たちはニヤニヤしていたが、剣へと視線を送り、無傷の俺を見るとその顔は驚愕に染まっていた。

 俺は未だにビクビクしている心に鞭打って近くの大男にボディブローを決め込む。HP減らないから大丈夫だよね。ということで手加減は一切していない。正真正銘本気のパンチだ。

 俺の異常な腕力で殴られた大男は五mくらい上に飛んでいき、地面に叩きつけたれた。あ、HP減った。高いところから落ちればHP減るんだ。気をつけよう、うっかり殺しそうだ。

 次に裏拳の要領で振り向きざまに左の大男を吹き飛ばす。これまた地面と水平に一○m程度は飛んでいった。

 なんか調子出てきた俺は、あまりの強さに驚いて固まってる大男たちを次々に気絶させていった。吹き飛ばして壁にぶつけたら気絶した。

 最後に残った彼の前に行くと、彼は「ヒッ!」と悲鳴を上げてへたりこんだ。さっきまでの威勢はどうしたんだ? えぇ?!

 なんかだんだんとのってきた俺は彼の胸倉をつかんで引き寄せる。顔が良く見える、が今は恐怖一色だった。


「おい、今回はこれで勘弁しといたけどな、次また来たら気絶させてゴヴァ、リンの巣にでも放り込むぞ」


 しまった、噛んだ……せっかく強気に出て脅していたのに……締りが悪い。

 彼はコクコクと何回も激しく頷く。お前がコクコクしても可愛くもなんともないわ! って違うか……

 俺は乱暴に手を離すと踵を返してネオンの元へと向かう。

 ネオンはホッとしたような雰囲気で俺を迎えてくれた。てっきり怯えられたかと思ったが。

 ネオンはまた俺の服を今度はギュッと強くつかんだ。かわええな~。和むな~。

 俺はとりあえず怯えられなかったことにホッとし、歩きだした。















お読みいただきありがとうございます。

感想・アドバイスをくださると犬のように外を全裸で駆け回ることでしょう。

警察に通報されないことをお祈りしててください(あ、感想がこないという場合があるのか……)

次回は明日の14時を予定しております

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