8話:萌え地獄……いや天国か?
街はぐるりと城壁で囲んであり、出口は東西南北に一つずつある。
それのどこもが、堅牢な扉で出来ており、管理している兵士さんじゃないと開けられない。もちろん冒険者である俺たちは普通に、兵士さんに言えば開けてもらえる。
そして、今俺らは東の門から出て少し歩いたところにある森へと来ていた。
ちなみにこの最初の大陸は、綺麗な円形をしており、そのど真ん中に俺らの拠点としている街がある。
東には森が。
北には草原が。
西には砂漠が。
南には巨大な湖がある。
おかしなものでそれぞれ、干渉しないようになっている。さすがゲームだな。
さて、森の入り口付近を歩いているわけだが、やけにプレイヤーが多いな。
前回はいきなりのデスゲームで混乱していたり、閉じこもったりするやつばかりだったからな。かくいう俺も引きこもりの一人だったのだ
が。
俺の場合、ここが天国だって気づいたから出てきて、こうして何回もリプレイしているわけだが。
でも、ネオンはどうしてこんなに簡単に着いて来たんだろうか?
俺が信用出来るから? いや、そう簡単に信用はつかめない。
じゃあ、すでに決心がついているから? それも違うな。この子は確実に俺と同じような境遇だった子だ。直感スキルもそう言ってる(気がする)。
それならなんなんだ?
……自分の意思がないとか?
現実でよほどひどい扱いを受けて、自我・意思というものが失われているのだとしたら?
う~ん、ない頭をひねっても納得いくような答えは出て来ない。
そんなこんなで考えているといつの間にかプレイヤーはいなくなっていた。
お、もうこんなところまで来てたか。
ちなみに道中のモンスターはフワンが勝手に片付けてくれてたらし
い。撫でてやると、顔を綻ばすがすぐにそっぽを向いてしまう。
さて、ここらへんでいいか。
そう思ってネオンに振り返る。
「それじゃ、ここらへんでレベル上げでもしますか。今までは安全な道を歩いてきたけど道を外れると罠とかあるから気をつけてね」
ここは最初の大陸だからか、罠といっても泥沼で足をとられたり、木と木をつなぐように幹の下の方に蔓が巻きついていて足を引っ掛けた
り、と悪戯レベルだ。
ま、その悪戯に引っかかり体勢を崩したところにモンスターが頭に一撃、とかよくある話だけどね。
俺はそのほか、ちょこっと注意することを言って道を外れた。
ネオンはコクリと頷いて俺の後をついてくる。猫耳は少し緊張してるのか強張っていた。
ちなみに、どうしていろいろ知ってるのかは、聞かれなかったので言っていない。
しばらく歩くと一匹で歩いているゴブリンが見えた。
ゴブリンは緑色の肌をした人間型のモンスターだ。
顔が醜く、猫背で身長も低くて一○○cmほどだ。片手に短剣を持っている。ちなみに服などは一切着ていない。
ちらりと後ろを見るとネオンは杖をギュッと強く握って構えていた。猫耳もやる気に満ち溢れているようでせわしなくピクピクと動いてい
る。
杖ってことは魔法使いを選んだのか。俺もやってたな。四回目クリアしたとき大魔導師(魔法使い系の最上級職)で挑んだけどゴーレムなのに魔法が効かなかったんだよな。あれは焦ったな。
なんて思い出に浸っていると向こうがこちらに気づいたようだ。ゴブリンがこちらに向かって走ってくる。
お、遅い……二回目クリアから気づかれる前に瞬殺してたから走るとこを見るなんて久しぶりだ。
俺はとりあえずネオンに「俺が止めるから魔法で狙い打て」と言って駆けだした。
今度は前みたいに暴走せずに一般人と同じ速度で走っている
(つもり)。
ゴブリンと距離が五mほどになる。ゴブリンは短剣を持つ手を振り上げ、切り下ろそうとする。
俺はアイテム袋からあらかじめ買って置いた銅の剣を取り出し、構えて立ち止まる。
ゴブリンが短剣を振り下ろす。ご丁寧にしっかりと頭を狙っている。
俺はそれを剣で受け止める。正直片手で受け止めれるのだが最初からそんなことは出来ないだろうと思い、両手を使う。
受け止めたまま横にずれて魔法を打てるようにする。最初は多分【ファイア】とかそこらへんだろう。
「ネオン! 今だ、打て!」
そう言うと同時にネオンは杖をこちらに向け詠唱を始めた。
「『我が魔力を糧に敵を焼き尽くせ』
【ファイア】」
簡単な詠唱を唱え、火の球が出来てこちらへと向かってくる。
スピードはそこそこで多分時速八○kmくらいだろう。俺がやると
二○○は超えるが最初はこのくらいだろう。
火の球はまっすぐ進み、ゴブリンのこめかみにヒットした。
ゴブリンはよろめき、二、三歩後ずさる。だけどあまり効いてはいないようだ。今度はネオンにターゲットを変えて攻撃しにかかる。
うわ、今までヘイトとか無視してきたから(ソロだったし)忘れて
た。
俺は普通よりもちょこっと早めに走って、ネオンとゴブリンの間に入る。ネオンは杖で応戦しようと構えて戦う気満々だった。猫耳も、よっしゃ来い! と言わんばかりに前傾姿勢をとっていた。何気に楽しんでる?
ゴブリンは急に俺が割って入ったため、一瞬立ち止まったがすぐに俺に襲い掛かってきた。
今度はサッと避けて足を引っ掛ける。
ゴブリンはそのまま俺の足に引っかかり前のめりに倒れる。
「ネオン!」
すかさず魔法を打たせる。
今度は転んで動けないので確実に頭を狙えた。
ネオンが詠唱を完了すると火の球がゴブリンの頭に直撃する。さっきのこめかみはちょっと低かったため頭ヒットにはならなかった。
火の球を頭に受けたゴブリンは断末魔と思わしき声を上げ、そのまま力尽きた。
そしてゴブリンは光の粒子となり宙へと消えていった。
ネオンはタッタッタとこちらに小走りで近づいて来る。やっぱり可愛い。
俺の横に来るとネオンは喋りだす。
「……レベル上がった」
「え?」
あ、確かゴブリンってこの大陸では中堅の位置にいたんだよな。最初は結構パーティーで挑んでるやつが多かったな。
一レベだったし、そのおかげでレベルがすぐに上がったのか。
ちなみに俺には経験値は入っていない。
経験値の分散はパーティーを組んでいないと出来ない。
パーティーを組んでいない場合は止めをさした人が全部の経験値をもらう仕様になっている。
ともあれ、これならすぐにレベルが上がりそうだな。やっぱり育成の楽しみは強くなっていくのが実感できるところだよな~。早くレベル上げよっと。
俺はネオンの頭をポンポンとし…………たかったが、まだそんな勇気は出ずにニコっと笑っただけにとどまった。
「それじゃあ、こんな感じで狩りを続けますか」
「(コクリ)」
そうして俺らはゴブリン狩りを始めたのだった。
「キャッ!」
「ははは、馬鹿ねネオン。ちゃんと周りを見ないとキャア!」
ネオンは泥沼に片足を突っ込んで前のめりに転び、フワンは木にU字でぶら下がってた蔓にぶつかり転落した。
「ははは、はぁ……」
俺はこの光景に苦笑しながらもため息をついた。
二人ともこれはこれでドジっ子属性がついて可愛いのだが、これは命がかかっているのだ。
ここが最初の大陸だからいいものを、五個目の大陸ともなると落とし穴でモンスターハウスに落とされたり、上から剣が振ってきたりして即死罠がわんさかあるのに……
まあ、最初の危険が少ないうちに慣れてもらえばいいだろう。
そう思い、俺は罠にかかるたびにどこが悪いのかを教え、直させていく。育成でも面倒なことがあるんだよな~。ま、猫耳で癒されて+-〇かな。
ちなみに親から虐待を受けていながらもパソコンやラノベなどを持っていたのはコッソリバイトなどをしてお金を貯めていたからである。
いつもそれらを隠すのに苦労したな~。特にパソコン。あまり変なところに隠すと壊れそうで怖かったな~。
そんな感じでゴブリン狩りは進んでいった。
「よし、そろそろ帰るか」
日が沈み始め、空がオレンジ一色に塗られ徐々に気温が下がってきているのを肌に感じながら俺は言った。
それにネオンのMPも、もう底を尽きそうだしな。
ネオンは途中途中でMPポーションを飲んでいたのでバンバン魔法を連発していた。
そのおかげか、ネオンはプレイ二日目にしてなんと一一レベまで上がった。快挙だよこれは。
ドロップアイテムとして短剣や棍棒をいくつか拾った。
尚、ドロップアイテムに関しては全部ネオンに渡している。
名目上は、ネオンがアイテムの管理をしておいてくれ、と言って。
ネオンは相変わらず無表情で声も出さずに頷くと素材をアイテム袋にしまった。
そういえばアイテム袋って俺らと違うのな。
俺は大きめの巾着みたいな感じだったけど、ネオンは小さめのスクールバックみたいだった。それを腰のベルトに引っ掛けて常時持ち歩いているっぽい。
俺は元来た安全な道へと行くために歩きだした。まずは安全な道だな。
ネオンも後ろをしっかり着いて来ている。
そういえば、ネオンは俺に対して一切疑問とか言わなかったな。
戦闘は受け止めるだけだし、ドロップアイテムは全部ネオンに渡すし。
ま、それはラッキーってことで……いや、まてよ。
ここでこの前立てた仮説が当てはまりそうだ。
え~っと…………そうだ、自我・意思がないことだ。
自分はこう思ってる、とか言わないんだよな、ネオンって。
う~ん……まあ、これはおいおい、もうちょい仲良くなってから話したりしますか。
俺がいろいろ思考しているうちに最初の道へとついた。
道中のモンスター(ゴブリン)はフワンがあらかた全滅させておいた。
ちゃんとネオンに見えないように遠くで最小限の魔法で。
ちなみにフワンが倒したモンスターの経験値は俺にも入ってくる。
精霊は基本的に魔法が主体だ。物理攻撃は申し訳程度にしかついていない。
HPはというと、まずフワンはフェニックス……つまり不死なわけで跡形もなく消されても、また再生するそうだ。まあ、その際MPをごっそり持っていかれて、尚且つ時間がかかるそうだ。
また長いこと考え事していたな。いつの間にか森の入り口まで来ていた。
俺はネオンとフワンがいることを確認して歩きだす。
さて、これからどうしよっかな。とりあえず育成して現実に帰すかな? 寂しくなりそうだけどそれがいいのかもな。ネオンにだって家庭があるわけだし。
…………あの雰囲気を見る限りあまり良い感じじゃないのは分かるがな。それは本人次第か。
そう思い、ネオンを見てみる。ネオンは何のことかわからず首をかしげる。
萌える。悶え死ぬ。
とりあえず、俺は街に戻る前にこの萌え地獄(天国)を耐えなければいけないようだ。
悶える猫耳ってのはむつかしいですねσ(^_^;)アセアセ...
読者にどうやれば上手く伝えれるのでしょうか。頑張ります。
ということでお読みくださりありがとうございます。
感想・アドバイスお待ちしております
ずかいのくぉうしぃんば(次回の更新は)
19時です