6話:猫耳ヤバイ悶え死ぬ
ネオンに出会って、この世界について話した翌日。
窓からは朝日がさしてきて明るいはずなのに、部屋は暗かった。
この部屋に明らかに怒気を放っている人物がいる。
俺はフワンの存在を忘れていた。
「ねぇ? あんたどういうつもり?」
俺は床に正座させられている。
目の前にはフワンが腕を組んで脚も組んでふわふわと浮いていた。
「はい。まことに申し訳ございません」
フワンが怒っている理由は、俺がネオンにフワンのことを紹介しなかったことが気に食わないんじゃなくて、ずっとあんな狭いポケットの中に入れられてたことだ。
一応俺主人だし、命令を忠実に守ってたんだろうな。
それを俺がすっかり忘れてたっていう……
正直俺が主人なのだから無理やり黙らせることも出来るのだが、せっかく神様がくれたやつだし、そもそもすんごい久しぶりの話し相手だったわけで、あまり無下にはしたくない。
それに完全に俺が悪いのに俺は悪くないって言うことなんて無理。そうなると現実のあいつらと同じになる気がする。
というわけで俺は素直にフワンからお説教を受けていた。
「私がどんな思いであんな狭いところにいたか分かる?」
「返す言葉もございません」
フワンの額に青筋が浮かび上がる。
あ、そろそろきれる。現実でも俺が普通に謝ってただけなのにこうやってきれるやつがいたから分かる。
でも、今回は別だな。相手は最高位の火精霊だ。
頭を蹴られたりしたら即死だ。
いや、俺が主人だからそういうのは無理か? でも俺の胸は蹴ってたしな……
とりあえず俺はフワンのご機嫌取りを行う。
「まあ、落ち着けって。飯食いに行こうぜ」
俺は顔を上げてニコっとスマイル。
だが、それが火に油を注いだようでフワンの真っ赤な髪が熱気でゆらゆらと揺れていた。火の精霊って怒ると発熱するんだ。って暢気に言ってる場合じゃない!
フワンはニコっと笑って俺を見る。
こ、こわいですよ……瞳孔が開ききってますよ……
「ねぇ、今あなたってどういう気持ちでいるの?」
声は高くて軽く感じるのに体に受ける威圧が半端ない。
これが最高位精霊の圧か。
俺は出来るだけ自然に答えた。
「わるっ、悪いと思ってます」
か・む・な・よ!
圧が更に大きくなった。
ぐっ……これじゃ、動きがいつもの半分くらい鈍くになってしまう。
フワンは全く表情を変えないまま喋りだす。
「だいたいあなたはなんなの? 猫耳! とか言い出してはしゃいで」
「………………」
「私はまだあなたに会って少ししか経ってないけど、すっごく楽しそうな顔して助けに行ったわよね」
「…………」
「私は胸のポケットに押し込んであの子と話して随分楽しそうな話し声が聞こえたわよ。育成して楽しむんじゃなかったの?」
「……」
「そもそも私を使わなかったら精霊召喚した意味なんて……」
「なあ、いいか? もしかしてお前ってさ……」
俺はずっと話し続けるフワンの話を聞いて疑問が出てきた。
なのでフワンの話をさえぎって質問をする。フワンはなんのこと? というふうに話を聞くようだ。
俺はちょっと大人ぶって言う。
「……ただ、寂しいからかまってほしかったんじゃないの?」
そう言った瞬間フワンの周りの熱が対流によってこっちまできた。
熱気のせいで目が開けられない。窓を閉め切ってたから熱がこもる。
俺はアイテム袋から水を取り出してフワンに向かってかける。少しでも室温を下げようと思ったからだ。って普通に周りにまけばいいじゃんと後で思った。
だが、水はフワンに届く前に全て蒸発して水蒸気になってしまった。室内は高温・湿潤で暑いから蒸し暑いに進化した。俺の馬鹿やろう。
とりあえず俺は部屋を出ようと後ろを向いたが、
「わ、わたしに水をかけるなんて喧嘩を売ってるの?」
先ほどとは違って怒ってるのではなく、キョドっている感じがする。
ってそれより今は視界の確保だ。このままだと脱水症状で死ぬ気がする。あ、そういやゲームだから汗はでないのか。
でも本当に暑いから少しでも早く出たい。
そして、俺は手探りで扉まで到達し、部屋を出た。
外と中の気圧差で突風が起きる。
「うぉお!」
俺は突風で壁に叩きつけられた。
熱がこっちまでまた来るが、先ほどよりはまだ幾分マシだ。
目を開けてフワンの方を見る。あの熱の中で大丈夫なのか? いや、火の精霊だし、フェニックスって不死だし大丈夫だと思うけども。
「え…………?」
俺はフワンを見て固まった。
フワンは空中で女の子座りをして、顔を両手で覆い、頭をぶんぶんと左右に振っていたのだ。
なにこの状況……?
しばらく呆然とそれを見ているとハッとした様子でフワンが顔を上げる。
俺と目が合う。
しばしの沈黙。ちなみにこのときフワンは女の子座りのままだ。
「…………コホン。ごめんなさい。ちょっと興奮して発熱しすぎたわ」
「い、いや。いいんだよわかってくれれば。まあ、俺もスマンなお前のこと忘れてて。本当は昨日ネオンにもお前を紹介する予定だったんだけどな」
「そう。じゃあ、今日は忘れないでね」
フワンはそう言うと俺の元へ飛んできて胸ポケットへと自分から入ってきた。
あ! 熱が!
と思ったがすでに熱はひいていた。
「……ま、いっか」
細かいことは気にしない気にしない。
俺は宿の朝食を食べるために階下へと向かった。
…………とその前に熱で下がったHPを回復しなければ。あの短時間でHPが五○○も減っていた。俺じゃなかったら即死だぞ。全く末恐ろしい子だな。
階下へ行くと主人が倒れてた。
「っ! おい! おっさんどうした?!」
「うぐぐ……お、サイトか……スマンな。ちょっと……ダメみたいだ……」
主人――もといおっさんはフッと笑って目を閉じる。
なにこれ? わけがわからないんだけど……
なんで急に死にそうになってんだよ。街中だと戦闘とか出来ないようになってるんじゃなかったのかよ。
「おっさん……おっさん!」
こい! こいよテンプレ! おっさんはただ寝てるだけなんだろ?!
「おっさーーーーーん!!!!」
「その人なら私の圧で気絶しちゃってるだけよ」
そっちかよ!
じゃあ、なに? ちょっとダメみたいだ……ってもしかして朝食がダメとか? そこはテンプレかよ……
ってもういいや。面倒になった。部屋でゴロゴロしてよっと。
俺は踵を返して自室へと戻った。
余談として、この日街中でたくさんの人が急に気絶する事件があったそうだ。
一般人のみならず、プレイヤーまでもが気絶する大規模の犯行だったらしい。
だが、起きた人々は荷物などなにもとられておらず、なんだったんだ? と全員が思ったそうだ。
この事件は後に『神の嫌がらせ』として受け継がれていった。
…………神様スマン。
御一読していただきありがとうございます。じいは感激のあまり涙が出るので目潰しをしそうになったぞ。
感想・アドバイスお待ちしておりますぞぉぉぉぉおおお!!!!
ちなみに、評価してくださった人がいることに感激して叫んだら親に殴られました。暴力変態!!!!!!
あ、ちなみに次の更新は今日の17時です