3話:暇つぶしに街を練り歩く
俺は新たな暇つぶしを見つけるため表通りを歩いていた。
道幅は三○mほどで、いろんな店が立ち並び、人が行き来している。
武器屋、八百屋、防具屋、精肉店、道具屋、駄菓子屋、魔法屋、本当にいろんな店がある。
(とはいっても、ここは何回も来た場所だしな~。一回目はしばらくここに滞在していたし)
何度も見た景色を見てそう思った。
ようするに暇つぶしになりそうなものはほとんどない。
けどそんなこと言ったら大体の町は三回以上訪れているんだけどね。
なのでここでプレイヤーのために、支配者が考えたイベントなどが起きないかな~、などと考えてみる。
まあ、そんな都合のいいこと起こるわけないよね。
「ねぇ、これこそ暇じゃない? どっかに入ったりしましょうよ」
眉を寄せて我慢出来ない、といった表情をずいっと俺の顔に近づけてくる。
鼻と鼻の間が一cmもない……なんて風になったらよかったのに普通に前かがみになっただけだった。でもこれもいい。
さっきからいろんな店の前を通るが、見向きもしない俺を見てフワンが言ってきた。
「いや、どこもつまらないところだからな。フワンは入りたいのか?」
そんなに聞いてくるってことは入りたいのだろう。
俺は聞いてやる。でも、このタイプはきっと……
「べ、べつに入りたいとか思ってないわよ! なに? 私を子供扱いする気?!」
フワンが耳元でギャーギャーと騒ぐ。やかましいわ。ツンデレかお前は。
周りの人も何事かとこちらに注目してくる。
う、みんなこっちを見ている。怪奇な目を向けられるのはあまり気持ちがいいものではなかった。
俺は小声でフワンに語りかける。
「なあ、フワン。お前人に見られない魔法とかスキルないのか?」
俺は精霊が光の玉になったりするのを期待していた。
だが、そんなにことが上手く運ぶわけもない。
フワンは、はっ? といった顔になって話す。
「え? なにそれ? そんなスキルや魔法があったらみんなこぞって捕りに行くわよ」
そりゃそうだよな。まあいい、俺ががっかりするだけだから。
それなら仕方ないな。
「じゃあ、俺のポケットに入っててくれないか? 正直周りからの視線が痛い」
フワンは、え? と顔をしかめたが、周りを見てみんなが自分に注目しているのを見て渋々ポケットに入った。
……なぜか胸ポケットに。
俺が驚いた表情をしていると、フワンは首をかしげる。少し長い髪がサラサラと流れる。
ちくしょう。めちゃくちゃ可愛いじゃないか。
特に胸ポケットから顔だけ出して手でポケットのふちをつかむ姿は小動物を思わせる愛くるしさだった。
俺がしばらくボケーっとしていると、フワンは服越しに俺の胸を蹴ってきた。
だが、あまり痛くはない。最高位の精霊でも物理攻撃は苦手なんだな。
俺は人々の視線を四方八方から浴びながら歩きだした。
ちなみに頭が冷えたときに気づいたのだが、俺はズボンにポケットがなかった。だからフワンは薬品を入れる胸ポケットに入ったのだろう。てか普通にズボンにポケットがあってもあまり入りたくはないだろう。尻ポケットとか論外だ。
しばらく歩いて、俺は不機嫌になっていた。
理由は昔のことを思いだしたからだ。
(あのたくさんの視線。意味合いが違ってもあれを思いだしてしまう)
俺は歯をギリッと鳴らし、拳を強く握る。
そんな俺の雰囲気を感じ取ってか、先ほどからフワンは口を出さない。
(学校でのイジメ……みんな、俺を蔑んだ目で見たり、痛そうにしてるのを嘲笑うように見たり。思いだすだけで腹が立つ)
更に拳と顎に力が入る。
顎がメキメキいってる気がする。拳もかなり手に食い込んでいる。
だが、ゲームなので血が出る事はない。魔物の血は出るが。
そんな俺の様子を見てフワンが慌てて止める。
「ちょ! なにやってんの?! 一旦落ち着いきなよ! 力抜いて!」
フワンが不安そうな顔で俺を覗き込む。
頭にのぼった血が落ちていくのが感じられる。落ち着いてきた。
そうだよ。考えてみればその生活が嫌だからここに逃げてきたんじゃないか。
あんな思いをしたくないからVRMMOに入り浸りになろうと考えたのではないか。
……これだけ聞くと超絶ダメ人間に思えるな。
(俺はなにを数年も前のことを急に思い出したのだろうか)
おそらくあれだろう。
現実の世界の人々が来たからだろう。そいつらを見て、さっきの視線を受けたから思いだしたのだ。
……もう過去を振り返るのは止めておこうかな。
落ち着いた俺はフワンに「ありがとう」とお礼を言いながら、人差し指で赤くて滑らかな髪を撫でる。
フワンは顔をこわばらせていたと思いきや、また服越しに俺の心臓のあたりを蹴ってくる。なんかじゃれてるみたいで可愛い。
落ち着いた俺は目的もなくふらふらと歩いていた。
なにかこう、スパイスが欲しいんだよね。何もない日常にちょっとしたスパイスが。
そんなこと考えてると下卑た笑い声が聞こえてきた。お、テンプレきたか?
案の定声の聞こえてきたほうに向かうと柄の悪い大男が三人で小柄の女の子を脅していた。
イベントかな? この町にいる全員にチュートリアル的なやつがあるのかな?
だが、俺はこれをやるやらないの前にある二点に注目した。
(うぉぉぉぉおおおおお! 猫耳&猫尻尾だぁぁぁぁああああ!)
綺麗な三角の猫耳。あちこちに動き回る猫尻尾。これは萌える。
あれ? そういえば、この世界は基本的に人間しかいない。
エルフやドワーフなどはプレイヤーが作るしかないのだ。
そうなるとあの子はプレイヤーか? ということは大男どももプレイヤーか?
でも、まだ始まったばかりだぞ。デスゲームだって知らされて心の整理とかあるだろ。
はたまた、あの子のチュートリアルか。そうじゃないなら…………単なる馬鹿共だろ。
俺は正直どうでもいいと思ったが、猫耳のため……ゲフン、暇つぶしにはちょうどいいと思ったので助けることにした。
俺はスタスタと歩いていく。
「ん? そこでからまれてる子を助けるの?」
フワンはさきほどと違って気が強そうな(てか強いのだが)目で俺に問う。
「そうだな。暇だしイベントかもしれないしさ。ちょいちょいとやってくるわ」
そう言ってるうちに、途中で猫耳がこっちに気づいたようだ。
こっちを見てくる。だが、その視線からはなにも感じなかった。
普通は‘助けて’とか‘こいつらなんとかして’みたいな視線を送ってくると思うのに。
ということは、これチュートリアルかな? でも、来たばっかであんなに冷静に……
って考えてもしょうがないか。俺は来たばっかのときあたふたしてたけど、あの子は冷静に判断出来てるのかもしれないしね。
ま、それでも助けるけど。猫耳触りたいし(あ、本音が)。
俺は大男の後ろに立った。そして肩をトントンと叩く。
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