14話:罠多発警報発令
転移したところはトンネルの工事現場を思えばいいだろう。
あそこまで広くはないが、あの形をギュッと小さくしたらこんな感じになると思う。
後ろは転移陣があり、その向こうは壁だ。前を見るとずっと一本道が続いている。数一〇m先は暗くて見えない。
とりあえず俺はアイテム袋から頭用の防具を取り出した。
この世界では最高峰の鉱物、ミスリルで作られた兜だ。
兜といっても頭を守るためだけだから、すっぽぬけないようにヘッドギアみたいになっている。
頭はVITが○で、頭だけはVITを一でも突破されて、且つ現実で即死だと判断された場合死ぬ。
だが、頭を守る装備をすればちゃんとVITが反映される。
このミスリル兜はVITが一○○○ともうべらぼうに強いのである。
モンスターのSTRは五個目の大陸までなら一○○○を超えないので安心だ。
それを俺はかぶり、ネオンにも渡す。
獣人用に作られていないので猫耳が隠れてしまうが、しょうがない。また作るか。幸いミスリルはアイテム袋にあるし。
「さて、ちゃんとかぶったな。ってか普通転移する前に渡すべきだったな。俺も気が緩んでたわ。すまん」
そう言って俺は先頭にたって歩きだす。
ちなみにフワンは精霊なので頭が弱点とかない。これはモンスターも同じで、ゴブリンとか人間に近いモンスターは頭が弱点だが、種族によって弱点の場所が違う。極稀に弱点ないモンスターもいる。
フワンはその極稀の中に入っている。てか精霊自体弱点がない。神様が精霊を気に入ってそういうふうにしたらしい。卑怯だな……
ということでフワンは変わらずいつもどおりの格好で俺の隣で浮いていた。
ネオンは俺の後ろをぴったりとくっついてきている。
「あの……そんなくっつくと動きにくいんだが……」
「……(コ、クリ)」
ネオンはちょっとためてからゆっくりと頷いた。
頷き方が「(残念だ~)」という子供のようでこれまた俺の萌え心をくすぐる。
まあ、多分始めてのダンジョン(しかも世界に来てまだ一○も経っていない)ということで怖いのかもしれない。俺も散々脅していたから
な。
ネオンは少し離れると俺の左少し後ろに位置を固定した。
そこなら俺も横目で確認できるし丁度いい。
そんな感じでしばらく歩いていると罠を見つけた。
俺は罠見破り&解除の常時発動を持っているためすぐさま見つけることが出来た。
レベルは一。罠の種類は泥沼か。
一応土の色が若干違うので、ちゃんと注意深くダンジョンを進んでいれば回避できる。
これは全大陸共通だ。まあ、奥の大陸は罠がこれよりは多いし、モンスターも強烈なので罠ばかりに気をとられていてはやられてしまう。
いろいろ大変なのだ。
ちなみにこの常時発動は盗賊系の最上級職を手に入れたら入っていた。かなり便利なので重宝している。といっても常時発動なんだけどな。
俺はその罠を解除せずにすぐ横を通りすぎることにした。
ネオンもちゃんと罠を警戒することを知ってもらわないといけない。これから罠くらいは避けてもらわないと。俺の育成はスパルタだぜ! 涙目とか使われたらすぐに折れると思うがな!
俺は罠をネオンの進行上に来るように歩いていく。
罠が俺の真横にきた。あとほんの一、二歩で罠を踏む。
「……キャッ!」
案の定何の警戒もしていなかったネオンは見事に足をとられ、前のめりにこけそうになる。
俺はそれを倒れないように支えてやり、軽くパニックになっているネオンをゆっくりと泥沼から引き出す。
ネオンの顔には少し恐怖が映っていた。
ネオンに肩を貸してしばらくジッと落ち着くのを待つ。
う~ん、これくらいでこの怯えようか。
俺がいたから安心しきっていたところに急に罠がきたからな。軽くトラウマになってたりしてな。
まあ、これくらいはどうにかしてもらわないといかんな。
しばらくして落ち着いたネオンに優しく(と念じて)語りかける。
「ネオン、すっかり油断してただろ。今回はチュートリアルダンジョンみたいな感じの一個目の大陸だからよかったものの、これから先はこの罠で命を落とすこともあるんだぞ。警戒心は忘れないようにな」
「(コクコク)」
ネオンは分かったと言わんばかりにコクコクと頷く。慌てる姿もいいな。
とりあえず俺は罠について教えておいた。
罠のある場所は色が少し違ったり、違和感があること。そこを踏むと罠が作動すること。空中を飛んでいても上をなにかが通ると作動する罠もあるということ。最後のはフワンに向けて言った。
簡単なことを説明し終わったところで俺はまた歩きだした。
ここはチュートリアルダンジョンだ。俺はあまり口を出さずに見守っていこう。
俺は心を鬼にしてそう心に誓った。
と、そこでフワンが罠作動。上から一m四方の網が落ちてくる。
「キャア! なんなのよこれ!」
そう言いながら火で焼ききって出てきた。おー、そんな芸当も出来たのか。
なんて感心して見ているとまた悲鳴が、
「キャア! って罠多くない?! あーもうイライラするわね!」
フワンは突如上から降ってきた水をかぶってビタビタに濡れていた。ちょっと、早く火で乾かすとかしろよ。服がピッチリ張り付いてボディラインが……あと申し訳程度にある胸とか。
そんなこと思ってたらフワンに睨み殺されそうになった。
と、またフワンが移動し始めてほんの数秒後。
「キャアッてもう疲れたわ! なんでこんなに罠にかかるのよ! 私の何がいけないのよ!」
今度は床の一部がパカッと箱のように開いたかと思えばニュッと人の手が出てきて殴りかかってきた。
フワンは余裕で避けたがあまりの罠の多さ(引っかかりすぎなだけだが)に腹を立てていた。
ものすごい圧を出しながらまた進み始めた。ネオンは俺が支えているからいいものを、普通だったら気絶するぞ。
とそこでまたフワンが罠の上を通ろうとしていた。本人はかなり周りを見ていたようだが気づいていない。……ここチュートリアルダンジョンだぞ。そんな分かりやすい罠くらい見つけろよな……
ネオンも若干顔が呆れているような気がする。しょうがない。
俺はフワンをつかんで引き寄せた。フワンは急なことに驚いてじたばたと暴れている。
「ちょ! なにやってんのよ?! は、はやく離しなさいよ!」
「いや、もうこれ以上罠に引っかかると進まないんでな。俺のポケットから罠の有無を見ておけ。フワンは引っかかりすぎだ」
するとフワンは大人しくなり、自ら俺のポケットに入ってきた。
まあ、最高位精霊だしな。プライドとかあるのだろう。足手まといなんて言われて(そんなつもりはないが)。
フワンは後で慰めるとして、俺はネオンと共に歩き始めた。
フワンが引っかかりまくってたので一回目の罠からまだ数mしか進んでいない。……全く。
俺らはひょいひょいと罠を避けて歩いていた。ネオンも最初のあれで気を引き締めているからか一回も罠を踏んでいない。やっぱり教えたことを教え子がちゃんと実行出来ているのを見るのはとても楽しいな。
しばらく歩くとゴブリンが三匹で歩いていた。一本道なので結局は気づかれてしまう。
ということで先手をとる。
俺はネオンに小声で「やるぞ」と言い、走り出した。
ネオンは後ろから【ファイア】を連発している。早口上手いな~、ってゲーム仕様だった。
一個、二個、三個と次々にゴブリンへ命中する。
一個目でゴブリンたちはこちらへ気づいて走ってくる。二個目三個目はかわしたり武器で防がれた。
二匹は短剣、一匹は棍棒を持って襲い掛かってきた。
それを俺は全てかわして、かわしざまに一匹を軽く壁に向かって押した。
ゴブリンは「グエッ!」と空気を吐き出して気絶した。ふぅ~、上手く手加減出来たようだな。
俺はその調子で残りのゴブリンも壁にぶつけて気絶させる。
あとはネオンがファイアで焼き払えばしゅうりょ…………っておい。
「…………ゴブリンは倒したの?」
ネオンは段差の罠にかかったようで、急に出来た段差につまずき、バンザイをして前のめりに倒れていた。
でも、杖は離さなかったし、何もなかったようにゴブリンのことを聞いてくる。
うん、ここは俺も触れてあげないとこう。
「いいや、あとはネオンがファイアで止めをさせば終わりだよ」
「……パーティーだから関係ない」
あ、そうか。パーティーだからあまり関係ないのか。
パーティーは一緒に戦っていれば誰が止めをさしても全員に経験値が入る仕組みになっている。
経験値は絶対平等。端数は切り捨てられる。
これを使って低レベルの急速なレベルあげ! みたいなのをやろうとするやつが俺の時にはいたけど、結局やらなかった。否、やれなかった。
これは命がかかっているデスゲーム。高レベルのモンスターに高レベルの仲間と挑んだとしても一緒に戦わなければいけないのだ。
レベルを上げるために、命をかけてそんな超危険なことはしないだろう。それをやるくらいなら地道に死なないように注意してレベルを上げればいいのだ。時間だってたっぷりある。
おっと話がそれた、閑話休題。
俺は考え事をしながらゴブリンに止めをさしていった。
俺の武器は爪にしている。
一三個目の大陸にいる≪ガンドロス≫って真っ黒で巨大なトドのようなモンスターを倒したら牙がドロップアイテムとして残ったんだ。それを武器屋に持っていったら「ぜひこれを使って武器を作らして欲しい」と頼まれ作らせた。それがこの爪だ。ちなみに無料でもらった。
黒い禍々しいオーラを放つその爪は手首に装着するタイプで、手の甲から爪が伸びている感じだ。
長さは根元から七五cmほどで、爪の本数は三本だ。
俺はこれからこれで戦っていくつもりだ。
剣と杖と鎖鎌を今まで使ったことがあるから今回はこれで遊ぶ。
ずっと同じ武器だと飽きちゃうしね。
ゴブリンを倒して、俺らは奥へと進んでいた。ダンジョンは大陸と比例するからかなり広い。最悪ダンジョン内で野宿だな。
歩いていると何回もゴブリンと出会った。もはやここまでくると荷物を運んでくれる友達みたいに思えてきた。経験値という名の荷物を。
ってか俺は友達をバッタバッタと切り捨てて荷物を奪い去る大悪党なのか? うん何考えてんだろ。
そしてかなりの時間歩いていたと思ったら目の前に来た時の転移陣より二周りほど大きな転移陣が光り輝いていた。
結構早かったな。さて、そこまで疲れてないしこのまま行くか。
そう、これはこのダンジョンの最奥部。つまり……
…………ボスのご登場だな。
お読みいただきありがとうございます。
感想・アドバイスお待ちしております(ヘイお待ち、こないかな~)
あと増える評価してくださるかた・お気に入りで卒倒しそうです
こんなんだといつか! 本当にいつか、もしも! 本当にもしもお気に入りが1000を超えたりしたらすごいことなりますね。
多分内に眠るゴリラパワーが目覚めて森に帰るかもしれません。
…………次回は今日の17時を予定しております