10話:お別れしなくては
心地よい朝の日差しに照らされて、食堂から匂う美味しそうな匂いで目を覚ました俺は、おっさんに話を聞いて猛反省していた。
「あ~、やっちまったな~…………」
それは、昨日の夜のことだ。
優男が大男をたくさん連れてネオンを奪おうとしてきたので返り打ちに合わせた。
それ自体はいいのだが、問題はやり方だった。
ゲームを始めて二日目だというのになぜ五mも宙に浮かばされたの
か。
なぜ攻撃をしたら剣の方が折れたのか。
ついでになぜレベルが見れなかったのか。
てか、それ以前に俺の動きの速さとかは見てないのかよ。
それらをあの優男はあの夜の間に街中に話してまわったそうだ。チッあのやろう、覚えとけよ。
そして、俺らの特徴もついでに知れ渡ってるらしい。朝 おっさんが俺を見かけてこの話をしたのだから結構詳しく知れているのだろう。あのやろうは次見つけたら即死刑だな。
それよりも最も厄介な点が‘支配者’だ。
多分この出来事のことを支配者は知っているだろう。
なぜだか知らないが支配者たちに連絡できる電話ボックスが街にあ
る。
おそらくそれを使って優男は「チーターがいます! 即刻排除してください!」とでも言ったのだろう。俺と一緒にクリアを目指せばいいのに、馬鹿だな。そして、そこから詳しいことを聞かれて、俺のことをべらべらと喋ったわけだ。
本当にやばいな。支配者に見つかったら今度こそ世界の果てまで追われそうだ。それはそれでスリルがあって面白そうだがあまりにもリスクが高い。これは最後の遊びにとっておこう。
それに今支配者に見つかるとネオンも巻き込みかねない。手放したくないし、こんな可愛いペット……ゴホン、パートナーを。
よし、反省はこれくらいにしてこれからの予定を考えるか。
ってその前に俺のことネオンに話したほうがいいかな?
……聞きたいかどうか聞いて、ネオンが聞きたいと言えば話すことにしよう。そして着いて来るか否かも……
俺はネオンの部屋へと向かった。ついでにおっさんに朝食を頼んでネオンの分も持っている。
コンコンとノックをする。
「……どうぞ」
ネオンの声が聞こえて扉を開ける。ちなみにフワンは俺のポケットの中に完全に入っている。重い話は苦手だぞうだ。俺の過去のエピソードとか語ったらどうなるんだろう。
それはさておき、俺は朝食を机において、昨日座った場所へと座る。いつものように腹が背もたれにくるように。
ネオンは皮のフル装備(頭、胴、篭手、ズボン、脚)でベッドに腰掛けていた。
俺は真剣な面持ちで話し始める。朝食を食べながらとかはちょっと出来ない。
「さて、昨日のことなんだが」
「(コクリ)」
俺が話し始めるとネオンの猫耳も真剣みを帯びた。顔は変わらないが雰囲気が変わる。俺がこの二日で気づいたネオンの特徴だ。顔には出さないが雰囲気や、猫耳に心情が出る。
それももう終わりか……
とまだ話してもいないのに感傷に浸っていた。
おっと、と戻ってきて続ける。
「もう、俺がただのプレイヤーじゃないことがわかっただろ?」
「(コクリ)」
ネオンは静かに頷いた。
それで? というふうに次を促してくる。
「ある理由によって支配者たちから追われてるんだよ。今は隠蔽スキルで隠れているけどこのままじゃ見つかる」
ネオンはじっと俺を見て微動だにしない。
ここからあまり言いたくないことを言っていく。
「だから俺はもうこの大陸にはいることが出来ない」
猫耳が、それで? と促してくる。いや、察しはつくだろ。
俺は言う。
「ここから俺はガンガン大陸をクリアしていって八つ目くらいまで行こうと思っている。もしかしたら支配者に場所がばれて攻撃されるかもしれない。そうじゃないとしても、ネオンのレベルだと、モンスターの攻撃が掠っただけでも死んでしまうかもしれない」
まあ、本当は三つ目くらいに行って、プレイヤーが来たら次に行くって感じにしようと思ってるけど。
ネオンの表情に変化はない。……いつものことか。
そして、猫耳はビクッとしていつものように心情を表している。
「つまり俺たちはここでお別れだ。ネオンは新しいパーティーでも探してクリアを目指せ。まだ始まって間もないから全然余裕で間に合うだろう」
あ~、もう言っちゃったな。
正直ネオンと別れるのは嫌だな。
今までずっと(といっても二日間だけだが)猫耳に癒されてきたんだよ。
狩りの最中にピョコピョコと動く猫耳も、罠に嵌ったときにキョドる猫耳も、宿に着いた時の安心したようにふにゃる猫耳も全部素晴らしかった。
でもそれはそれ。もしこのまま連れていってレベルが足りなくて死んでしまったり、支配者の罠とかに嵌って死んだり、支配者のあの爆発とかに巻き込まれて死んだりしたら後味が悪い。
それに今回はフワンがいるし、確実にいつもとは違った旅になるから暇つぶしとしては十分だ。別に猫耳は諦めても差し支えなかろう。
という感じで俺は決心したのだった。だが、
「(フルフル)」
ネオンは首を横に振った。
ん? どういうことだ? 早く朝食食べたいとか? 全く食欲全開だな。
なんて思っていたら予想外の言葉が返ってきた。
「……一緒に行く」
萌える。
……いや、言ってることが大変なのは分かってるけどそんなこと全部投げ捨てて思ってしまうほどに萌える。
脚を内股にして、俯いたかと思うと駄々をこねる子供のように「一緒に行く」だよ?
お母さんが「車で待っててね」「……お母さんと離れたくない」って言うのと同じだよ。
しかも、小声でいつもとは違って少し感情が乗っていた。
わずかに意思みたいなものが見えたのだ。
つまり自分から一緒に行きたい、連れてってと言ったわけだ!
これで萌えなくていつ萌える!
ってもちつけ俺。エイサーホイサー。
…………よし、落ち着いてきたか。
俺は心を鬼にしてネオンに説得を試みる。
ここまで行ってくれてるんだからいいんじゃないか? と思ったがダメだ。情が少ししか移っていない今のうちに別れるべきだ。
「ここから俺が行くところは本当に危ないんだぞ? 一歩……いや、ほんの少しでも踏み間違えれば一気に転がり落ちていくんだぞ? 死ぬ確立なんてここと比べ物にならない。悪いこと言わん、ここに……」
「サイトは私を守ってくれないの?」
グボハ!
こ、ここにきてなんという核爆弾を持ってくるんだ……
女性経験値ほぼ○の俺に女の武器(そう思ってる)、上目遣い、甘えた言葉、すがりつくような声質。そして相手の言葉を絶妙なタイミングで遮る。このコンボは前の俺の心を打ち砕くには十分な破壊力だ。
そう、前の俺ならな。
今の俺はネオンと会って大分慣れてきた(ネオン限定)。今なら数秒くらいは目を合わせても我慢できるし、軽く手が触れるくらいなら頭はショートしない。
……あれ? 俺ダメに思えてきたよ?
俺があれやこれやと考えている間に数一〇秒の時が流れた。
俺は大ダメージを食らっていまだに俯いたままだ。
ダメだ、今ネオンの顔を見たら撃沈される。
元々女の子から(というか人から)のお願い事を拒否する勇気なんてなかったんだ。それがここまで出来たから十分じゃないか。
ってダメだ! くそう、頭の中でブラックサイトとグレーサイトが戦っている。あれ? ホワイトは?
チッ俺の中に善心はないってか?!
俺は勇気を振り絞って沈黙を破る。もちろん顔は上げない。上げれない。
「お、俺がそ、そ、そんな優しい人間にみ、見えるかよ。な、なんで自分が危険をお、冒してまで守らないといけないんだ?」
かなりつっかえつっかえだったけど一応言えた。
これだけひどい人間アピールしてれば大丈夫だろう。ちなみに六番目の大陸くらいなら余裕でネオンを守りながら踏破できる。
そして、俺はネオンの顔を見ずに部屋を出て行こうとした。
なんかタイトルと中身が違う気がします。
いや、内容的には別にいいのかな? とは思うのですが、口調が……
ま、それは指摘されたら直しましょうかね。
ということで読んでくださりありがとうございます。
次回は今日の23時を予定しております
予定は超てきと~に決めてます
感想・アドバイスをか、書かせてあげてもいいんだからね!
…………すいません。書いてくださると嬉しいです。