出来損ないにして中途半端なお約束?
冬の女王。
童話かよこれ・・・、と香陽はため息をつく。
と言うよりどう見てもファンタジーど真ん中だ。
それもべたべたの恋愛物。
「うざ・・・・つかベタ・・・・」
「素敵じゃないの」
「あんた、このおっさんじゃなきゃそう思わないでしょが」
「当たり前じゃないの」
ころころと笑いながら『何を当たり前のこと言ってるのかしらコウヤちゃんったら』と堂々でかでかと表情に出す水輝。
大物過ぎて勝てる気がしねぇ、と香陽はますます頭を抱える。
「つか・・・勝手に行けば良いんじゃないのかね?分離してるんだから」
「それが無理なんだよな。おっさん、君の半径2メートルから出られねえの」
「なんじゃその中途半端!!!ありえんわ!!!!」
普通のファンタジーのお約束はべったり張り付いてるか浮遊霊さながらフラフラしながらスパイのように情報を仕入れて来ちゃったりするものだ。
どこまでも半端すぎる。
「まぁ・・・・現実ってそんな都合良く行かない物よ?コウヤちゃん」
「こんな時だけ現実万歳はやめてくれえ・・・・もう勘弁してくれよう・・・・」
ぐす、っと香陽は本気で鼻をすする。
何が悲しくってこんな中途半端なファンタジーを体験しなければならないのか。
まぁ、酒池肉林のように美形男子から言い寄られる逆ハーレムみたいな目に会いたい訳ではないのだが。
それよりマシか、と折り合いを付けねばやってられない。
「で・・・なんですか・・・あの女性を見つければ良いんですか・・・・」
「いや、それはもういるんだ」
「こんな時だけご都合主義かよコノヤロオオオオオオオオオオオ!どこの出来損ないの物語なんだよおい!!!」
こんな物が出版されていれば間違いなく文句を言う。
間違いなくだ。
「つかまああちらさんってばおっさんにメロメロだったからさ、気合いと根性で何とかしちゃった訳よ」
「そんな根性捨ててこいやあああああ!うわあああああああん!!」
「素敵じゃないの、死んでも尚好きな人に会いたいだなんて・・・夢のよう」
ほう、とときめきましたのため息をつく水輝に香陽は頭をがしっと掴む。
「両方幽霊でどこがときめくんだ?アァ?!しかも片方悪霊じみてんだぞ?!」
「だって、それほど好きだったって事でしょう?良いじゃないの」
よろしくねえよ!と香陽は心の中で絶叫する。
それが勝手に出会うのならば美しい物語だろう。
しかし双方共に全く赤の他人に取り憑きと言うか魂を融合させ、己がエゴを満たそうとしているのだ。
間違いなく怪談、悪霊話小泉八雲万歳!の世界である。
「ほんっとう・・・・・何なのさこれ・・・現実なのか・・・リアルなのかこれ・・・夢よ醒めてくれ・・・・」
香陽の言葉に男がふむ、と頷く。
そしておもむろに香陽の頭の上に拳を作って。
振り下ろした。
「いってええええええええええええ!」
「な、現実だろ?」
「あんた、一応女に向かってそう言う真似すんのか?!」
「いやあ・・・・おっさんの宿主だったら大丈夫かなって」
てへ、と笑うベイジルに向かって赤クラゲ、もといエーヴァルトは文字通り雷を落とした。
何もない空間から、である。
「まぁ!魔法までお使いに?!」
やってる非道さを放置して水輝がきらきらとした目でエーヴァルトを見上げる。
『この世界の人間なら力の強弱はあれど魔法を使うことは可能だ』
「私にも出来るのかしら・・・」
どきどきそわそわ。
漫画であればそう効果音が付きそうである。しかも絵になる。
『身体の組成が代わっていれば可能だっただろうが・・・・』
「残念ですわ・・・・・魔法使いって女の憧れですのに」
「そんな憧れねえよ・・・・」
「あら、誰しも一度は夢を見るんじゃないかしら。魔法少女」
「ねえよ!つかこの年で魔法少女って痛々しすぎるわ!!あんた以外!!」
奇跡の美少女以外許されないスペックに香陽は突っ込むことも疲れ果て、ぱたりと伏せた。