浮遊霊はクラゲと似て非なる物?
甲高い悲鳴というか嬌声のような物が聞こえてくる。
「うるせ・・・・」
香陽が目を擦りながら身体を起こすと、赤い透明な物に顔を突っ込んだ。
「・・・・・」
『起きたか』
「起きたな」
「おはよう、コウヤちゃん」
んが?と妙な声を上げて香陽は目の前にいる人物を見る。
妙に赤いクラゲ様な物が視界にまとわりついている。
「・・・・なにこれ」
『なにこれ、とは私の服だ』
「へー・・・・・・。へー・・・・?!」
びくうっと香陽が飛び上がる。
そのままの勢いで立ち上がると水輝と男が器用だとそれぞれの言葉で言い放つが香陽はそれどころではなかった。
夢に見た姿と夢で聞き続けた声が正に自分の腹の上にいたからだ。
透明だけど。
「うぎゃああああああああああああああああああああああああ!」
『・・・・人として正しい反応だとは判るが若干悲しいな』
「おっさん・・・・自分の現世に向かってそれ・・・ないわ」
「本当・・・どうして生身がないのかしら・・・・」
「そこか!そこじゃねえだろこれ!!!」
香陽が平常運転過ぎる水輝と平然としている男に指を突きつける。
そこで自分がどこにいるのかようやく目についた。
先ほどまでの花畑とは違う、明らかに建物の中と思わしき光景に。
「おおう・・・・・ここどこ・・・・」
『城だ』
「城だ」
「お城ですって」
三者三様の言葉でこれまた答えが返ってくる。
コンチキショウ、こいつら結託してやがる・・・と香陽は口元をひくつかせる。
「どこのお城だっつのよ・・・シンデレラ城かコンチキショー」
すっかりやさぐれてしまった香陽に水輝がよしよしと頭を撫でる。
と言うよりも。
「あんたら適応能力高すぎじゃないの・・・?普通もうちょい慌てようよ人として!」
「あ、俺ら慣れてるから」
けろっと男が言う。
あっけらかんと言われすぎて香陽はぽかんとその顔を見つめる。
「詳しい話はまぁ後から言うとして、お嬢さんえーっと・・・コウヤっつったっけ?」
「はぁ・・・・」
「悪いね、俺が殺す夢ずっと見てるんだって?」
あはあはあは、と奇妙なまでに明るい笑い方で謝られた。
誠意の一欠片も見えやしない謝り方である。
「いやー・・・・・あの時はこのおっさんと敵だったからさー。あ、俺ベイジル=バーデっての。よろしく」
「・・・かるくね?」
「ちなみにこのおっさんの名前は知ってるよな」
おっさんおっさん、と呼ばれている赤クラゲに香陽は苦笑しながら見上げる。
「赤クラゲ」
『・・・・・エーヴァルト=バルリングだ』
「知ってて言ってます。勿論」
「良い性格のお嬢さんだな」
おかしそうに笑いながらベイジルと名乗った男は香陽に右手を差し出す。
香陽は腑に落ちない、と言わんばかりの表情のまま男の手を握り替えした。