美女が野獣を選ぶのはお約束?
がくり、と倒れた香陽を男が腕で抱き留める。
「こ・・・コウヤちゃん?!」
「死んでないから。生きてるから」
どうどう、と男が手で制する。
「へ・・・・?」
「これ、超なまくらなんだよ。ほら」
男が水輝の前で剣を香陽に突き刺す。
しかしそれは香陽の身体のすぐ前でぐにゃりと曲がって消える。
「これは生身を切れないけど魂を揺さぶるのに使うんだよ」
「え・・・・?」
男が香陽の身体を花の上に横たえる。
さわさわと風が花を揺らし、爽やかな香りを運んでくる。
「さっきから、この子の姿が知り合いにぶれて見えるから確認の為に」
「あ・・・・」
その言葉で水輝は香陽の夢を思い出す。
水輝のストライクゾーンど真ん中の男性の夢を。
「お・・・・・出てきた」
その話をしようと口を開くよりも前に男が香陽を見ながら口笛を吹く。
ゆらゆらと陽炎のように香陽の身体の上に現れた姿が、夢で聞いたままの男性の姿だった。
「まぁぁぁ・・・っ」
思わず水輝がうっとりとその姿を見つめる。
「ああ・・・やっぱり」
男は苦笑しながらその幻に向かって手を挙げる。
「久しぶり、バルリング」
『・・・・久しいな、と言うべきか・・・・』
低い声は香陽の声ではありえない。
陽炎から聞こえてくる声だ。
理想通りの声に水輝はふるりと震える。
「つかおっさん本当に転生するのな・・・・神様なんて全く信じてないんだけど、俺」
『転生?』
ゆるく首を傾げ、自分の顎を撫でる様まで水輝の琴線に触れる。
実体があるのならばはしたなく抱きつきたいぐらいである。
「え、違うのかよ」
『と言うよりは融合しておるのやも・・・』
「え・・・きしょくわる・・・」
『と言うよりあれからどれぐらい時間が経っているのだ?』
「ざっと500年」
『ふむ・・・・・・』
バルリング、と呼ばれた陽炎の男は自分の足下に寝ている香陽を見る。
ふ、と表情を緩めて微笑む姿に水輝はへなへなと腰を抜かす。
「・・・・お嬢ちゃん?」
「だ・・・ダメですわ・・・・・好みど真ん中すぎます・・・・」
もはやうっとりを通り越して恍惚とした表情の水輝に生身の男は引き攣りながら一歩引いた。
「え、趣味なの・・・・?」
「どストライクです」
力強く頷く水輝に男は香陽を見て何とも言いようのない表情を浮かべた。