女子高生の朝はあり得ないから始まる?
いやいや・・・・あり得ないでしょ・・・・・。
ぜいぜいと肩で息をしながら香陽は軽く頭を振る。
余りにも悪夢過ぎると言えば悪夢過ぎる代物だった。
高校に入ってから見続ける夢ではあったのだが、その内容が問題外すぎた。
夢の中の自分が髭の似合うナイスミドルなおじさまカッコはぁとカッコとじだったのだから。
「ありえねぇぇぇぇ・・・・」
ぎゃーす、と心の中で喚きながらのそのそとベッドから這い出る。
この夢を見るともれなく汗だくになっているのだ。
「いやね・・・・夢の中みたいに血まみれになってるよりは良いですよ・・・そりゃね・・・ええ・・・」
今の自分を表すのならばひれ伏した顔文字がぴったりだ・・・と現代っ子の思考で髪をかき回す。
鳥屋 香陽。
間違いなく現代を生きる17歳女子高生だ。
「えー・・・・コウヤちゃんそんな夢見てるの?羨ましい・・・・」
「うるせー黙れこの筋肉フェチが」
ほわほわとしたテンプレのような少女の言葉を香陽はばっさり切り捨てる。
高校入学時、ちょっとした事で友人になった筅 水輝はうふふ、と春めいた笑顔で香陽を見上げる。
「だって、たくましい男性って素敵じゃない」
「お前のそれは限度を超えてるだろうが・・・・・」
げっそりと言うかげんなりと言うか。
香陽はこの友人の男の趣味だけはどうしても判らない。
現代女子高生の中でもおそらく少数民族に属するのではないだろうか。
ふわりとした天然ダークブラウンの髪に色素の薄い茶色の瞳。
ぷるりと瑞々しい唇に薄紅を履いたような白桃の様な頬。
絶妙のバランスでもって配置された容姿は正に『春の女神』そのものに見える。
見る者全てが振り返る奇跡の美少女。
同性すらも見惚れて危うく芳しい百合の花を醸し出す空気である。
そんな彼女の男の趣味が。
むさ苦しいまでの筋肉。
ばっくり割れて逞しい腹筋。
鍛え抜かれた上腕二頭筋。
見事なまでの野性味を帯びた逆三角のシルエット。
一言で言うなら『脳みそ筋肉で出来てそうな筋肉馬鹿』が好みなのである。
そう。
香陽が見続けている夢の中の主は見事なまでに彼女の心の琴線をかき鳴らしたのだ。
「ああ・・・・本当、そんな男性のいる世界に行きたい・・・・」
ほう、と夢見るような甘い吐息を零しながら彼女は悪趣味この上ない言葉を吐く。
冗談じゃない、と香陽は自分の身体を抱きしめて震え上がる。
見事なまでに暑苦しい夢なのに、彼女にとっては至福の楽園なのだ。
勿論肉肉しい男ばかりが出る訳ではない。
だが基本は細かろうと太かろうとマッチョしかいない。
唯一救いなのは女性はたおやかでタイプは違えど見目麗しいほっそりとした人ばかりだと言うことだ。
これで女までビルダー体型であったのなら香陽は間違いなく発狂する。
「あんたって・・・・・・ほんっとう代わって欲しいわ・・・頼むからあんたがこの夢見てくれたら世界平和の為にも良いと思う」
「コウヤちゃんってば・・・・」
ぽっと頬を赤らめて美少女ははにかむ。
「コンチキショウ・・・・こんな中身を知らなければ・・・知らなければ極上の鑑賞物なのに・・・」
「あらいやだコウヤちゃん・・・・それじゃ変態さんみたい」
「変態はお前だあっ!私の美少女像返せええええ」
うふふふふ、と笑い続ける友人に香陽はぼろぼろと涙を零すのが夢を見た毎朝の登校スケジュールになりつつあるのだった。
落差激しいですが・・・・。