帰れる?還れる?
それからしばらくしてベイジルが戻ってきた。
「いやー・・・・参った・・・」
ゴキンと首を鳴らしながらさりげなくいつの間にか控えていた侍女に自分のお茶を頼みながら。
つーか、人体構造上鳴ったらまずい音がしてた気がするが香陽はそれを綺麗にスルーする。
突っ込んだら負けだ、と。
「参ったって何がどうした」
領主がベイジルを見ながら尋ねる。
そつのない動きで侍女がベイジルが座るとすぐさまお茶を出す。
ふわりと漂う上品なお茶の香りにうっかり自分の状況とか諸々を忘れそうになる。
「いやあ、よく考えたら領主の名前言ってないんじゃないかなって」
ものすごくどうでも良い話だった。
「どうでもええわ!んなもん!!」
そもそも香陽も水輝も正式に名乗った覚えもない。
名乗る余裕なんてあったもんじゃないし名乗りたくもない。
「今更ながらですけれど、こちらの彼女は鳥屋 香陽。私は筅 水輝と申します。そちらのお三方のお名前は先ほどからお聞きしてますので大丈夫です」
丁寧に名乗ってしまったのは水輝である。
そんなのんびりファンタジーか、これは・・・と香陽は頭を抱える。
「申し遅れました。俺はアイヴァン=クリーヴランドだ。よろしく・・・・と言うほど長い付き合いになるのかどうかは知らないが」
これまた普通に名乗ってしまう領主ことアイヴァン。
そこへジャストタイミングに生身を持った人数分のお茶が侍女の手で置かれて更に紅茶の良い香りが漂う。
クラゲ二人に蛇男の笑い声も相まってまるで品の良いサロン状態である。
おのれ、ファンタジー・・・今後一切ファンタジーに属する小説は手に取らねぇ・・・と香陽はお茶をすする。
「それにしてもベイジルさん・・・・何が参っただったんですか?」
するっと何でもないように水輝が切り出す。
ああ、とベイジルもお茶を飲もうとした手を止める。
「もしかして帰れない・・・なんて事・・・?」
おそるおそる香陽が尋ねるとあっさり首を横に振られた。
そうではないらしい。
ほっとしたのもつかの間。
ベイジルの口からこれまたとんでもない言葉が飛び出した。
「いや、中央の魔導研究所・・・って正式名称ではないんですけども、そういう感じの所からストップが掛かりましてねぇ・・・・」
「はぁ・・・・・」
「その理由がこれまた一大事でね・・・」
はぁ、と切なげにため息をつかれる。
帰れないよりもそんな表情をされる事があるのだろうか、と香陽と水輝は心持ち身を乗り出す。
「今、責任者の方がいらっしゃらないんですよ」
かるっと告げられた言葉に香陽は首を傾げる。
水輝も同じように首を傾げているが愛らしさは億倍向こうの方が上だ。
まぁそんな事を張り合っている訳ではないのだが。
「責任者がいない・・・・って何か問題でもあるんですか?」
「んー・・・・・それはまずいな」
アイヴァンも深刻そうに顎に手をやって考える。
何がそんなに問題があるのか判らないクラゲ二人と女子高生二人。
よく見れば周囲に控えていた侍女の面々の表情も思わしくない。
まさかこんな事でファンタジーらしい出来事になるんじゃないだろうな・・・・。
そんな思考が頭を過ぎり、香陽はごくりと生唾を飲んだ。




