夢か現実か
2012/11/11に修正しました。
目が覚める。いつもの目覚めとは、何かが違う気がする。手鏡で口周りを見ても、相変わらず醜い傷がある。でも、何かが違う気がする。俺の中で、何か変わったのかもしれない。
窓から赤い日差しが入ってくるのを見て、俺は急いで時計を見る。
「夕方の……四時」
日付も確認すると、初めて学校を早退した日付だった。滅多に降らない雪が降った、あの日だ。
まさか、あれは夢だったのか? 麻由美と話したのは、全部幻か? 勇気づけてくれた言葉は、全部偽りか?
だとしたら、俺はまた独りになった。麻由美はまた俺を裏切った。いや、本人なのかは分からない。高校生になった麻由美の姿なんか一度も見たことがないし、ましてや小学校の卒業式以来、逢ったことがない。夢で見たのは、麻由美の名を借りた誰かかもしれない。
もしあのとき、誰かが俺を止めていなかったら、夢の中で自殺していたのは間違いない。けれど、夢だから死ぬことなんてない。所詮、夢だ。
起きたばかりであまり頭がはたらなかったのだろう。着ていた格好が私服であることに、すぐには気づけなかった。しかも、夢で着た私服と同じだ。確か学校から帰って、そのまま寝たはず。いったい何が起きているんだ。もしかして麻由美と過ごしたあの時間は夢でなく、現実なのか?
現実か夢か。確かめる方法は一つしかない。俺は急いで走って、国立公園に向かった。
家を出て一分も満たないうちに、息切れする。肺が苦しい。でも、麻由美にお別れしないまま離れてしまう方がもっと苦しい。そう思えば、休まずに一気に走れた。
雪が積もって様変わりした国立公園に着いた。カップルや老人たちは、誰一人も居なかった。きっと長椅子に雪が積もっていて座れないからだろう。
俺は十本ぐらいの木の周りに置かれた長椅子を見て回った。もし、夢じゃなければ、二人が座った跡があるはずだ。
ビニールシートが敷かれ、二人が座ったような跡を、注意深く探す。
冷たい風が、俺の顔に強く当たる。同時に頭上から雪の塊が次々と降ってきた。雪を払い、見上げると、寒そうな木の枝があった。風に揺られている枝は、俺に何かを伝えようとしているように見えた。
その枝を持つ木の前を見ると、長椅子があった。この長椅子だけ、他のとは違って少し薄く積もっているところがあった。誰かが座ったような跡に見える。雪が積もったビニールシートが、椅子からはみ出ていた。
間違いない。俺と麻由美はここで会った。あれは夢じゃなくて、現実だ。でも……なんで急に居なくなったんだ? それに時間のずれがある。
妙に胸騒ぎがする。またどこかで会えるはずなのに、なんでこんなに心配しているんだろう。
気分が晴れないまま、俺は国立公園を後にした。