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第5話

「咲! 学校行かないつもり!?」



母が勢いよく扉を開けて、鋭い口調で言った。



今日は平日でもちろん学校もある。



学校に行かないわけがないのに、わざとそういう言い方をするのだ。



「ん~、行くぅ。」



『行かない』と言って、ささやかな反抗をしてみたくなった。



しかし、そんなことをしてみたところで小言の量とボリュームが



倍増するだけだということを知っているのでやめておいた。




母は、だったら早く起きなさい、と言って階段を下りて行った。



まだ寝ていたかったが、仕方なく布団からはい出す。




今何時だろう?



気になって、何分か前にうるさく鳴っていた目覚まし時計を見てみる。




「やばい。」



8時5分。



友達との待ち合わせ時間まで10分しかない。



待ち合わせ場所まで少なく見積もっても5分はかかる。



5分でご飯を食べて髪の毛を梳かして着替える。



・・・できっこない。





慌てて階段を駆け降りると、階段は静かに降りなさいと怒られた。




「お母さん! もう8時過ぎてるじゃん! 何でもっと早く起こしてくれなかったの!?」



「自分でちゃんと目覚ましかけて起きてきなさいっていつも言ってるでしょ?」



「今そういうこと言ってるんじゃなくて・・・ もう良い!」




急いでパジャマから制服に着替えて既に出来上がっていたお弁当をかばんに詰める。




「行ってきま~す。」



「朝ご飯は!? 食べなかったら倒れちゃうわよ!?」



扉を開けてそのまま出て行こうとすると背中越しに母の声が聞こえた。




「お母さんがちゃんといつもの時間に起こしてくれてたら食べてたよ!」




そう言い残して後に続く母の言葉を聞かずに待ち合わせ場所へ走り出す。



途中のお店で時計を見ると長い針が3と4の間を指していた。



この時点で時間までに着くことを諦め言い訳を考えることにした。





予想通りというか、待ち合わせ場所の橋の上には千里が待っていた。




「遅い咲! もう5分以上遅刻だよ。」



言いながら歩き出す千里。



「ごめんちさと! ほんっとにごめん。」



「チョコくれるなら許してあげる。」




笑顔で言った千里の発言にドキッとした。



昨日森君や中原に言われて、結局チョコレートを作ることにした。



もちろん、作ったのは森君達の分だけじゃない。




「あ~、昨日作ったのに家に忘れちゃった。」



「え~! 何してんの。」



「あぁあ、せっかく作ったのに。」




本当、今日はついてない。



遅刻して千里は待たしちゃうし、せっかく作ったチョコレートは忘れちゃうし。




「今日は厄日だよ。」



「まぁまぁ、これあげるから。」




千里はカバンからチョコレートを取り出して肩を落としてため息をつく私の頭の上に乗せた。




「やったぁ! ちさと大好き!」



「知ってるよ。」



千里は私の愛の言葉をサラッと受け流した。




きれいに丸められたチョコレートはおそらくココアパウダーであろう白い粉がまぶされていて



透明な包装紙には水色で『Happy valentine!』と書いてあった。



端の方に小さく『受験お互い頑張ろうね』と書いてある。



危うく見逃してしまいそうになったがいかにも“千里らしい”と思った。






「咲、また遅刻? ずっとじゃん。」




「そんなことないよ。 先週は3回しか遅刻してないもん。」




いつもなら学校の近くでチャイムを聞いて焦って走ったり、諦めてゆっくり歩くかを決める。



でも今日は、いつもより遅れていたようで学校の近くでチャイムを聞くこともなかった。



朝の学活中に教室のドアを開けるとみんなが一斉に注目するのはいつものことだ。



遅刻常習犯の私を見て先生がため息をついて、あと5分起きれば間に合うのにと、言うのもいつものことだ。




「週に3回遅刻してたらもう十分でしょ!? もう良いじゃん!」



遅刻した日はいつも横の席の泉にこうして説教をされる。



遅刻していない珍しい日は朝の学活が始まる前に少し話をする。




「十分とかそういう問題じゃなくて、ただ朝起きれないだけだよ。 



 私だって遅刻したくてしてるわけじゃないもん。」



「あと5分早く起きればいい話じゃん。 5分寝たところで何も変わらないよ。」



「変わらないけどぎりぎりまで寝てしまうもんじゃん!



 大体早く起きてもその分準備に時間をかけちゃうから結局一緒だし~。」



「威張って言うとこじゃないでしょ? 自分はダメな人間です~って言ってるようなもんだよ?」



「私のどこがダメなの!? 全然ダメじゃないし!!」




「お前ら見てたらほんと飽きないわ。」



私たちのやり取りを見て、泉の後ろの席に座っている金森が笑いながら言った。




「金森も私のことダメだって思ってるの!?」



わざと不機嫌な声を出してみる。



しかし、金森には何の効果も無いことは知っている。



思ってない思ってない、と笑いながら流されてしまった。






入試まで今日を合わせてあと一週間。



5教科の授業はもうとっくに教科書の範囲を終えて自習に切り替わっている。



入試直前だというのにクラスの雰囲気はピリピリせずいつも通りだった。



本当に静かに自習している子なんて数えるほどしかいない。



緊張感がないと、怒られることも多々あったけど最後まで騒がしい方がこのクラスらしい。



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