第三話
・・・・・気まずい。
あれから、お互い一言も発さないままだ。
何分歩いただろう。
実際は10分と歩いてないんだろうけど、ものすごく長い間歩いた気がする。
“話”って何だったんだろう。
合格おめでとう、が話な訳がない。
ていうか、さっきから何処に向かってるんだろう。
気まずい・・・・・
尽きない疑問についてあれこれ考えていると、急に細川が一軒の家の前で止まった。
2、3歩先に歩いたところで気付き私も慌てて止まる。
表札には『細川 重』の字。
おそらくというか、ほぼ間違いなく細川の家だ。
何で細川の家に?
自分の家の扉を開けて、無言で手招きする細川。
疑問はまだ尽きないが、とりあえず指示通り家の中に入る。
家の中は清潔感がありすっきりしていて、細川のイメージそのもののようだった。
翔の家以外に男の子の家に入ることなんて初めてで新鮮だった。
翔の家とは違って、服や食べ物が辺りに散乱してるようなことは勿論なく
床や壁も新築のままのようなきれさで、しみ一つなかった。
物珍しくて、家の中を見回している私の背後で扉が閉まる音がした。
「みんな待ってると思うからとりあえず、俺の部屋行ってくれない?
階段上がってすぐのところにあるから。」
みんなが誰なのか気になったが言われた通り階段を上る。
綺麗に磨き上げられたという表現がしっくりくるような手すりには
円形に沿って伸びた自分の顔が妙にはっきり映っている。
天井が高い分段数の多い階段を上がりきると部屋が三つ並んでいた。
左の部屋のドアノブには『佑太』と綺麗な黒字で書かれた札がかかっていて
中からは数人の話し声が聞こえてくる。
真ん中の部屋には『ミオのおへや』とクレヨンでカラフルに書かれた周りに
魚や花の可愛らしい絵が描かれた札がかかっている。
札の小さいスペースでは物足りなかったのか、ドア一面に同じような絵が書かれていた。
字や絵から、細川の妹の部屋であることが予想できる。
その右の部屋には札はかかっておらず、代わりに赤字で『勝手に入るな!』と
書いてある白い紙が貼られてあった。
迷うことなく左の部屋のドアを開ける。
同時に部屋の中から聞こえていた話し声が一旦は止まる。
部屋の中には既に3人、各々参考書を開いたり漫画を読んだりしていた。
「あ、水野さん本当に来てくれたんだ。」
同じクラスの森君が中原の参考書に落書きする手を止めずに言った。
「ゆうたもやる時はやる子だな。」
負けじと森君の参考書に落書きする中原。
西井は少し離れたところに寝転がりながら漫画をパラパラ捲っている。
「えっとぉ・・・」
何で私は呼ばれたの?
「どうしたの、水野さん。」
森君が今度は落書きの手を止めてちゃんとこっちを見ながら言った。
「私って、何でここにいるの?」
「あいつそんなことも教えずに連れてきたのかよ。」
呆れたように目を伏せる中原。
でも、細川を責める材料を見つけて喜んでいるようにも見えた。
「ゆうたらしいじゃん。 断られて責められるのが嫌だったんだろ、きっと。」
西井が漫画を元あった位置に戻しながら言った。
「別にそんなんじゃないけど。」
いつの間に入ってきたのか、細川が言った。
びっくりした様子の中原とは対照的に西井は落ち着き払った様子で、次に読む漫画を探している。
「さすがゆうた、気がきく!」
森君は盆の上に乗ったジュースの入ったコップを見てニコニコしている。
「俺一人で言ったら断られるかもしれないから・・・」
言い訳がましく言って、ジュースの入ったコップを配る細川。
「ゆうたが水野さんをここに呼んだ理由は。」
嬉しそうにコップを受け取って、森君が唐突に話しだした。
「この5人で、一緒に受験勉強しようと思って。」