第1話
ピンポーン
きっと“あれ”だ。
やっと届いたんだ。
急いで玄関へ下りていく。
予想通り、配達の人の手には『速達』と赤字で書かれた封筒。
階段を上がりながら母に知らせる。
「お母さん“合格通知”来たよ!」
届いたのは、滑り止めの私立高校の合格通知。
滑り止めなんだから受かって当然、と啖呵を切っていた母も
いざとなるとやはり緊張している様子。
母に渡されたはさみでおそるおそる封を切る。
結果は
「え~っと、当校の入学者試験選抜において・・・
あ、合格! お母さん、合格だったよ!」
「良かったぁ。」
結果を聞いて、安心したように微笑む母。
「お父さんに電話してあげて。 結果気になってるはずだから。」
はぁい、と返事をして指が覚えた番号を押す。
父は、結果を知らせると優しくおめでとうと言ってくれた。
ありがとう、と返して電話を切るや否や電話の呼び出し音が鳴る。
「もしも~し。 咲、合格通知届いた?」
受話器を取ると聞こえてきた明るい声。
同じ高校を受けていた友達だった。
合格したことを伝えると、自分のことのように喜んでくれた。
「翔は? どうだった?」
滑り止めではなく専願で受けていた翔。
そのため、私より上のクラスを受けていた。
「あ~、俺は咲と同じクラスだった。」
翔のそれは、第一志望のクラスを落ちたことを意味する。
「そっかぁ、そうなんだ。」
こんなとき、なんて言葉をかけてあげればいいんだろう。
おめでとう、とも言えないし・・・
かける言葉を探している私に対して翔は
「まぁ、仕方ないよな。 大体、咲より頭悪い俺が咲より上のクラスってのも
変な感じするしさ。 咲はまだ公立残ってるし、気ぃ抜くなよ!」
と、言った。
どんな時でも相手を思いやることを忘れない。
翔はそんな人だ。
「咲と話したいって奴がいるから、かわっていい?」
聞いておいて、私の了承を得る前に誰かと電話をかわる翔。
ガサガサと、受話器を受け渡す音が聞こえた後受話器からの声が変わった。
「もしもし? 4組の細川佑太だけど、知ってる?」