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第1部 第8話

「理事長」って結構忙しい。


組長は「金勘定だけしてればいい」と言っていたけど、

そうも行かない。

学園内での細々したトラブルは校長以下で処理してくれるが、

予算がどーだ、とか、他の学校との関係がこーだとか、そんないかにも経営的なことは、

全て俺の仕事だ。


組長は今まで、組長やりながらこんなことも片手間にやってたのか。


よく1日24時間で足りたものだ。


そんなバタバタのせいで、俺はあまり学校には顔を出すことなく、

本田有のことも忘れかけていた。



が。



4月も下旬にさしかかったある昼過ぎのこと。

俺の携帯が鳴った。

ちょうど遅い昼飯を食いながら資料を見ていた俺は、

相手を確認することなく通話ボタンを押した。


聞きなれた声がする。


「もしもし?」

「あー。なんだ、コータか。俺、今忙し・・・」

「本城です」


・・・?あ!兄貴の方か!声が似てるからわかんなかった!


「す、すみません。どうしました?」

「ちょっと学校でトラブルが。理事長にご連絡するようなことじゃないんですけど、

本田が当事者なもので一応・・・」

「すぐに行きます!」


俺は最後まで聞き終わらないうちに携帯を切り、

何故か滅茶苦茶慌てて学校へ向かった。




「ほ、本城先生!」

「理事長。どうぞ、全員この中です」


本城先生は気を利かして、関係者を全員理事長室へ集めておいてくれたらしい。

って、なんだ、全員って。

すげー嫌な予感がする。


俺は顔を強張らせながら、本城先生と一緒に理事長室に入った。


中には、ソファに腰掛けた本田有と、その向かいに余りガラのよろしくない若い男が2人。

廣野組の奴ではない。


とてもじゃないが、穏やかな雰囲気とは言えないな。


本城先生が簡単に事情を説明してくれた。


「本田が、そちらの1人をナンパしてホテルに誘ったそうなんです」


耳が痛いゾ。


「で、ホテルでその人がシャワーを浴びてる間に、

本田が財布を盗って逃げようとしたらしいんです」

「・・・」


突然男の1人が立ち上がり、大きな声で言った。


「証拠もあるんだぞ。ほら」


差し出された携帯の画面には、

ラブホテルらしき場所で本田有が胸に何かを抱えている姿が写っていた。

それは、確かに財布のように見える。


「どーだ。間違いねーだろ」

「はあ」

「おたくの生徒が、とんでもねーことやってくれたんだ。どうするよ?」


どうする、って言われてもなー。


もう1人の男も立ち上がり、2人してすごんでくるが、

残念ながら、端くれとはいえヤクザの俺には効果がない。

コータの兄で、組長の友人である本城先生にはもっと効果がない。


この2人の顔には「金をくれりゃあ、黙っててやるよ」と書いてあるが、

果たして金で解決していいものやら。


とりあえず、真偽の程を確かめよう。


俺は本田有に、できるだけ穏やかに訊ねた。


「本田さん。本当のことですか?」

「はい」


やっぱり?

俺も引っ掛けられたもんな。

困ったな。


ところが、俺が本城先生に「どうします?」と目で相談すると、

本城先生は片目を少し細めた。

「まあ、任せとけって」とでも言いたげだ。


・・・ますます嫌な予感がする。


そして、その俺の予感はまたもや的中する。

最悪の形で。



「失礼します」


ドアがノックされ、キリッとした男が1人、部屋に入ってきた。

上等な黒いスーツを着こなし、胸には金のバッジが光っている。


ダレだ、テメー。


「こんにちは」


ソイツが丁寧にお辞儀をすると、男達は怪訝な顔つきになった。


「ダレだ、テメー」


うんうん。同感だ。


「私は、この学園の弁護士です」


んなもん、雇った覚えはねーぞ。


「弁護士」が男達の顔を見比べて、というか、値踏みして、それから本田有に目を移す。

そしてその視線がそこで止まった。



それはちょっと不自然なくらい長い「間」だった。



「弁護士ぃ?」


男達の声で我に返ったソイツは、嫌悪感丸出しの男達の手からひょいっと携帯を取り上げた。


「なるほど。これが証拠の写真って訳ですね?」

「・・・そーだ」

「ふんふん。間違いなくラブホテルのようだ。ところであなた方は何歳ですか?

成人してらっしゃいますよね?」

「・・・」

「こちらの生徒さんは未成年です。関心できませんねー、見ず知らずの未成年とラブホテルなんて」

「・・・」

「それにこの写真。確かに財布らしき物を持っていますが、盗もうとしたかどうかまでは、

断定しかねますね。このホテル、部屋で料金を支払うシステムのホテルですよね?」


何でそんなこと知ってんだ。さては、このホテルを使ったことあるな?


「無理矢理ホテルに連れ込まれた女子高生が、逃げ出すために男の財布から金を出して、

部屋のロックを外そうとしたのかもしれません」

「て、てめえ!何を根拠に!!」

「ま、焦らずにゆっくりお話しましょう」


ソイツは卒のない、しかし有無を言わせぬ笑顔を俺に向けた。


「理事長さん方は、部屋の外でお待ち頂けますか?」





「本田。教室に戻っていいぞ」


理事長室を出ると(追い出されると)、本城先生が本田に言った。


「でも・・・」

「このことは、校長先生も教頭先生も知らない」

「え?」

「なんてったって、理事長先生が知ってるんだから、他の先生に言う必要もないだろ」


なるほど。さすが本城先生。

こういう人がいると、俺的には非常に助かる。

組長は、本城先生がこの学園に移るタイミングを見計らって、

俺に理事長の椅子を譲ったのだろう。


「てな訳で、お前の処分はこの理事長先生が考えてくれる。だからそれまで普通に授業受けとけ」

「・・・はい。ありがとうございます。ご迷惑をおかけして、すみません」


本田有は俺と本城先生にお辞儀をすると、

小走りに教室へ戻っていった。


「・・・本城先生」

「はい」

「ありがとうございます。それと、」

「はい?」


俺は本城先生を睨んだ。


「コータのあの二重人格、何とかしてください」

「あー。あはは」


あはは、じゃ、ねー!






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