第4部 第4話
運命というか、神のお導きというか。
愛さんが教えてくれたユウさんの住まいは、
岡部村への道中にあった。
もっとも、距離的には離れているけど。
俺は新幹線を途中下車し、その近くで一泊した翌日、
ローカル電車を乗り継いで、6年前にユウさんがいた町へとやってきた。
その町は一言で言うなら「田舎」。
岡部村のような山や川のある自然豊かな田舎ではなく、
小さな町工場や商店街が立ち並ぶ、古い町って感じだ。
でも空気は綺麗だし、人も元気で、活気がある。
いい町だ。
ユウさんと子供は、今もここに住んでいるんだろうか。
ユウさんは今、29歳。
子供は、9歳。4月からはもう小学4年生だ。
もし2人がずっと廣野家で暮らしてたら、今頃どうなっていたんだろう。
子供は、跡取りとして大切に育てられていたに違いない。
んで、きっと、組長みたいに、恐いヤクザになるんだ・・・
もしかしたら、出て行って正解かもな、
なんて、今更なことが頭をよぎる。
住所を頼りに歩き回ること小1時間。
ようやく、目当ての団地に辿り着いた。
それはもう・・・
何百世帯入っているのか想像もつかないような、巨大な市営団地だ。
ユウさんがいる5-C棟を探すだけでも一苦労しそうだ、
と思ったら。
日頃の行いが良くない割にはすぐに見つかった。
愛さんは「とにかく団地が何棟もあって、全然見つけられなかった!」と言ってたけど、
そんなことないだろ。
だって、各棟の壁にデカデカと「1-A」とか「3-D」とか書いてあるんだから。
・・・さては愛さん、それに気付かなかったな?
意外と抜けてるんだな。
俺は、ユウさんの部屋である102号室の前に立ち、深呼吸をした。
表札はないが、部屋の中に人のいる気配がする。
ユウさんだろうか?
それとももう引っ越していて、別の誰かが住んでいるんだろうか?
とにかく、会ってみないことにはわからない!
俺は思い切ってインターホンを押した。
「はい!」
インターホン越しに元気な女の人の声がする。
この声・・・ユウさんか?
わからない。
「あの・・・村山と申しますが、」
俺は手元のメモを見た。
住所の横に、「岩城結子」と書いてある。
これがユウさんの本名だ。
「岩城さんのお宅ですか?」
「はい、そうですけど」
!!!
俺は思わず気をつけをした。
その時、玄関の扉が少し開いた。
中から、小柄な女性が顔を覗かせる。
この顔・・・間違いない、ユウさんだ!
「どちら様ですか?」
ユウさんが、怪訝な顔で俺を見る。
こんな朝っぱらから見知らぬ男が尋ねて来たら、そりゃ怪しむだろう。
セールスか何かと思っているのかもしれない。
「あの・・・村山です。村山健次郎です」
「?村山さん?」
「えっと、」
俺が廣野組に入ったのは、ユウさんが出て行った後だ。
「廣野組の村山健次郎です」と言っても分からないだろう。
ならば。
「コータ・・・間宮、いや、本城幸太の同級生の村山健次郎です」
ユウさんは、それでもしばらく分からないようで、考えていたが・・・
急に「あああ!」と叫びながら、家の中に引っ込み、
扉をバタンと閉めてしまった。
「ユウさん!」
予想はしてたことだ。
ユウさんにとって、俺が嬉しい客のはずがない。
でも、ここでめげちゃダメだ!
俺は扉をドンドンと叩いた。
「ユウさん!少しだけ話を・・・うわっ!!」
突然また扉が勢い良く開き、俺はあやうく顔をぶつけそうになった。
そして、それと同時に何か白い粉が俺の全身にぶっかけられる。
「な、なんだ!?」
「塩!・・・が、切れてるから、砂糖!!!えい!」
「うわ!」
「えい!えい!」
ユウさんは砂糖の袋を小脇に抱え、全力で俺に砂糖を投げつけてくる。
「や、やめてください!って、甘!!」
「うるさい!えい、えい!鬼は外!福は内!」
な、なんなんだ、この女ー!?