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第4部 第3話

「あ、愛、さん・・・」

「なに?」

「え、っと・・・」


落ち着け。

落ち着けー。


組長と愛さんが?

まさか!


でも、昔、組長はユウさんという婚約者がいながら、愛人を作ったらしい。


もしかして、それが・・・



いや、そんなこと今更問いただしてどうする。

愛さんはもちろん、コータはバカじゃないから気付いてるはずだ。


俺がどうこう言うことじゃない。



そう、俺がどうこう言うことじゃ・・・



あああ、でも!

すげー、気になる!


「あの!」

「?」


美優って組長の子供なんですか?

とは、さすがに無遠慮な俺でも聞けない!


「ええっと・・・あ。愛さんって、ユウって女の人、知ってますか?」


返事を聞く必要はなかった。

俺が「ユウ」と言った瞬間、愛さんの顔が強張ったからだ。


ってことは・・・うわー・・・


「美優。ケーキ食べてらっしゃい」

「うん!じゃあね、おじちゃん!バッハハ~イ」

「・・・ばっははーい・・・」


元気にスキップしながらリビングに入っていく美優の後姿を、

俺は呆然と見送った。


すると美優がリビングの扉から、ひょこっと頭だけ出した。

そして、ちょっと寂しそうな表情で俺に小さく手を振る。


・・・まあ、美優は美優だ。

誰の子でも関係ない。


俺なんかと会えなくなるのを少しは寂しいと思ってくれるなんて、

嬉しいじゃないか。




「健次郎君。美優は廣野組のことも統矢のことも何も知らないの。黙っておいて」


美優の姿が完全に見えなくなると、愛さんが真剣な表情で俺に言った。

俺は、といえば、コクコクと頷きながらも、

愛さんの口から「統矢」なんて言葉が出てきたことに衝撃を覚えていた。


「コータは・・・知ってるんですよね?」

「ええ」

「・・・組長は?」

「言ってはないけど、気付いてると思う」

「・・・」


じゃあ、何か?

コータは美優が組長の子供だと知っていながら育てていて、

組長も美優が自分の子供だと知っていながら、コータの子供だと認めてるってことか?


・・・ヤクザってこえー。

やっぱ、俺、ヤクザ向きじゃねー。



愛さんが、暗い顔でため息をついた。


「ユウさんとユウさんの子供には、悪いことをしたと思ってるわ」


やっぱり「愛人」は愛さんだったんだ。

ユウさんは、組長が愛さんと浮気したから、子供を連れて出て行ったんだ・・・。


「そう、ですね・・・今頃どこにいるんでしょうか・・・」


俺が引きつりながらそう言うと、愛さんは意外なことを言い出した。


「幸太にも言ってないんだけど、私、ユウさんに会いに行ったことがあるの」

「ええ!?居場所、知ってるんですか!?」

「興信所を使って調べたの。どうしても一言謝りたくって家まで行ったんだけど、

結局会わずに帰ってきた」

「え?どうしてですか?」

「お隣さんに、ユウさんが子供と2人で幸せに暮らしてるって聞いたから。

それなら今更、過去の人間の私がユウさんに昔のことを思い出させる必要はない、と思ったの」

「・・・」


愛さんは「どうしても一言謝りたくって」と言った。

でも、その必要がないと思ったから、会わずに帰った。

俺も、それでよかったと思う。


でも・・・俺はどうだろう?

ユウさんは昔、俺のせいで男たちに襲われた。

組長とコータが俺を拾って廣野組に入れてくれたから、

俺はなんとなく許された気でいたけど・・・


もしかしたらユウさんは、今でもあの事を引き摺っているかもしれない。

いや、間違いなく引き摺ってるだろう。

男に襲われたなんてこと、忘れるはずがない。


ユウさんに謝らなきゃいけないのは、愛さんじゃなくて俺じゃないのか?

それなのに俺、今までそんなこと考えもしなかった。


「愛さん」

「なに?」

「ユウさんの居場所、教えてもらえませんか?」

「え?でも・・・もう何年も前のことよ?引っ越してるかもしれないし」

「それでもいいです!教えてください!」


一度そう思うと、何が何でもユウさんに謝らなきゃいけない気がしてきた。

いや、謝るべきだ。

例え引っ越していても、探し出して謝らなきゃいけない。


「俺、どうしてもユウさんに会って言わなきゃならないことがあるんです!」

「・・・」


愛さんは戸惑っていたけど、俺の勢いに負けて、

リビングから古いメモを一枚持ってきてくれた。


「もう6年くらい前だけど」

「それでもいいです。ありがとうございます」

「もし、ユウさんに会えたら・・・」

「え?」


愛さんは、なんと言うか迷っていた。


「・・・私と幸太が結婚したことは、言わないでおいて」

「愛さんとユウさんの弟分のコータが結婚したって知ったら、

ユウさんはいい気がしないかもしれないからですか?」


愛さんが首を振る。


「ユウさんは、そんな心の狭い人じゃないわ。違うの、いつか私か幸太の口から、直接言いたいの」

「ああ・・・」


そうか。

愛さんも、ユウさんが組長の元へ帰ってくるのを待ってるんだ。


組長も待ってる。

コータも待ってる。

愛さんも待ってる。

廣野組の組員も全員待ってる。


今はもう組を離れたユウさんに、廣野組のことをあれこれ教えるのはよくないかもしれない。

でも、これだけは伝えよう。


みんなユウさんが帰ってくるのを待っているんだ、と。




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