表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/41

第4部 第2話

東京駅へ向かう電車の中、俺は何度も何度も鞄の中の封筒を確認した。


そんなに心配しなくても、なくなる訳じゃないんだし、

仮にこれをなくしたとしても、有の戸籍が消えるわけじゃない。


でも、確認せずにはいられなかった。



4年前、有がいなくなった後、コータには「もう本当に忘れろ」と言われた。

俺も、その方がいいと思ったし、そうしようとした。

ところが、「保護者の代理で」ということで俺が有の寮の部屋に入った時、

戸棚の中で意外な物を見つけた。


札束だ。

それもかなりの額の。


おそらく・・・俺が有に渡していた金だ。


全部でいくら渡したのかなんてわからないけど、

一円たりとも欠けていない気がした。


これは有の意思表示なんだ。

「私は、お金のために理事長先生と寝ていた訳じゃない」という意思表示。


もちろん有の目的は、俺に近づいて組長を殺すことだった。

金じゃない。


だけど、それでも嬉しかった。

有は俺を利用することに後ろめたさを感じて、

せめても、と、金は使わずにおいてあったんだ。


俺はその金を、一晩で全て使いきった。


これは俺の金だ、

有にちょっと預けていただけだ、

だから使ってしまおう、


そう思った。


そして最後の一枚を使った時、いつか有に会いに行こうと決めた。





東京駅まで、あと15分ほどだ。

俺は扉にもたれ、目を閉じた。


あれから4年。

有はどんな女になっているだろう。

もしかしたら、もう子供がいたりして。


それでもいい。早く会いたい。


その時、携帯が震えた。

コータからメールだ。

なんだ?さっき別れたとこなのに・・・。


そのメールを読んでいるうちに、俺はあることを思い出した。


コータ・・・子供・・・そうだ!


俺は、電車が止まると急いでホームに降りた。






「健次郎君?」

「夜分にすみません」

「ううん。よかったわ、会えて!」


コータの奥さんの愛さんは、突然の訪問にも関わらず、

快く俺を迎えてくれた。


それにしても愛さん、いつ見ても本当に美人だな。

初めて会ったのはもう7年半くらい前なのに、ちっとも変わらない。


「どうぞ」

「あ、いえ。新幹線の時間があるから、すぐに行くんで。玄関で結構です」

「そう・・・」


愛さんも俺が今日組をやめて東京を離れるのを知っている。


「寂しくなるわね・・・そうだ、美優ー!」


愛さんが振り返って、家の中に向かって叫ぶ。

するとたちまち、元気な足音が二階から下りてきた。


「なにー?ママ」

「健次郎君が来てるわよ」

「おじちゃん!?」


相変わらず「おじちゃん」だ。

まだ26歳なんだけどなー。

ま、7歳の美優から見れば、じゅうぶんに「おじちゃん」か?


「おじちゃん!ケーキは!?」


これも相変わらずだ。

俺が来ればケーキを貰えると思ってるらしい。


「悪いな。今日は何にも持ってきてないんだ」

「えー!?じゃあ、帰っていいよ」

「こら、美優!」


ママに怒られて口を尖らせる美優。


美優は見るたびに綺麗になる。

まだ小学1年生なんて、とても信じられない。


背が高くて、顔が小さくて、足が長くて・・・

クリッとした瞳は、大人の俺から見ても、じゅうぶん魅力的だ。


さすが愛さんの娘。

って、コータの血も入ってるんだよな。

そう思うと、なんか癪に障るゾ。


でも、美優に会うのもこれが最後だろう。

やっぱ、ケーキ買ってくるべきだったな・・・


そんなことを考えながら、俺は美優を見つめた。


その時、俺の頭の隅で何かがチカチカと光った。

なんだ?

美優を見てると、なんか、変な違和感が・・・


美優、誰かに似てる。

美優は母親似で、まるで愛さんの生き写しだけど、

それだけじゃなくって・・・誰だろう・・・コータじゃない。


「何よ、おじちゃん。そんなジロジロ見て。さては美優に惚れた?」

「おー、10年早いぞ」

「10年たったら、惚れる?」

「かもな」

「10年後って、美優まだ17歳だよ?ロリコーン」

「・・・」


やっぱりこいつはコータの娘だ、くそっ!


でも・・・


「10年後かあ。それくらいたったら、また会えるかもな」

「え?」


美優が目を見開く。


「どういうこと?」

「俺、ちょっくら旅に出てくるわ」

「・・・旅?」

「ああ。しばらくお別れだな」


俺がそう言ったとたん、

見開かれた美優の目に涙が溢れた。


「お、おいおい。何泣いてるんだよ」

「だって!・・・おじちゃんがいなくなったら、誰が美優にケーキ買ってきてくれるのよ!」

「・・・あのな」

「パパはケチだから、甘い物なんて買ってくれないし!」

「・・・」

「バカー!」

「・・・」


美優は愛さんの足にしがみついて、ウウウと泣いた。

愛さんは苦笑いしながら美優の頭をなでる。


「美優。ワガママ言わないの。ちゃんと健次郎君にお別れ言いなさい」

「やだー!」

「もう。冷蔵庫にケーキがあるから食べていいわよ。パパには内緒ね」


美優がパッと顔を上げ、ニヤッと笑った。


・・・もしや、こいつ。

冷蔵庫にケーキがあるのを知ってて、一芝居うったな?

なんてヤローだ。


でも、今はそれどころじゃない。


わかった。

わかってしまった。


今のこの美優のニヤッとした笑い方。

これは・・・!



組長!?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ