第1部 第2話
多分、やりやすいようにとの配慮からなのか、
少し固い大きなベッドの上で俺が目を覚ました時、既に少女の姿はなかった。
って、おい!!!
俺は慌てて、床の上に散らばった自分の服を拾い上げた。
財布は・・・ある。
中身も・・・ある。
よかった・・・。
俺はホッとして、もう一度ベッドの上に寝転がった。
ベッドの脇に置かれてある時計を見ると、短針が「7」を指している。
夜の7時、
じゃないよな。
窓がないからわからないけど、多分もう朝だ。
と言うことは、結局一晩あの少女と過ごしてしまったことになる。
やるだけやったら帰ろうと思ってたのに、
思いのほか夢中になって、気付いたら寝てしまったのだ。
それにしても、あいつ、どこに行ったんだろう?
服もないところを見ると、帰ったんだろうか?
自分から誘ってはみたものの、実際やると罪悪感に耐えられなくなった、か、
無性に恥ずかしくなった、か。
ま、そんなとこだろう。
ありがちだ。
・・・だけど・・・
不思議だ。
予想通り、あいつはガキだった。
ガリガリだし、胸はないし、完全に子供の身体だった。
それに、かろうじて処女じゃない、という程度で、男もロクに知らない。
それでいて、妙な色気がある。
女の色気ではなく、少女独特の色気。
意外なことに、俺はそれに夢中になった。
俺って実はロリコンなのか?
いや、俺は今22歳だ。
あいつが仮に16歳とすれば、ロリコンとは言わないか?
俺だって脱未成年してからまだ2年だもんな。
それにしても、本当に子供だった。
でも・・・よかった。
名前と携帯くらい、聞いとくんだったな。
そんなことを考えながら、俺はベッドから下り、シャワーを浴びた。
で、服を着て、部屋を出て、フロントへ向かう。
週末だからか、ホテルはどこもいっぱいだったので、
仕方なくこの古くて安っぽいホテルにした。
お陰で支払いも、フロントの係りに直接手渡しだ。
・・・おや?
おやおや?
「信じらんねー」
「まあ、そーゆーなって」
「ありえねー」
「まあな」
コータがジロリと俺を睨んだ。
「金ないくせに、ホテルに女連れ込んでんじゃねーよ!」
はい、ごもっともです。
あの少女は、俺の金を盗んだりはしていなかった。
元々、俺の所持金が足りなかったのだ。
「だってさー。まさかホテルに行くことになるなんて思ってなかったんだよ」
「入る前に確認しろよ!」
反論のしようもない。
コータがため息をつく。
「朝早くに、こんなとこ呼び出しやがって・・・
しかも、びみょーに千円足りないとか抜かしやがって。
そんくらいホテルの人間脅してまけさせろ」
おいおい。
まあ、朝の7時に、男から「金が足りない」とラブホテルに呼び出されりゃ、
ため息の一つもつきたくなるだろうけど。
コータ――本名・本城幸太、いや今は間宮幸太か――と俺は、
小・中・高校の同級生だ。
つまり、コータも俺と同じセレブ学校に高校までは通っていたのだが、
その学校の生徒の中じゃ、コータは貧乏な方だった。
とゆーか、最下層だった。
それには理由があったのだが、それは今は置いておこう。
とにかく、
貧乏だけど優等生のコータと、
金持ちだけどバカで問題児な俺。
当然、水と油のように相容れなかった。
しかも、ちょっとしたイザコザがあって、まさに犬猿の仲と呼ぶにふさわしい間柄だった。
だけど大学1年の夏、俺は空腹で倒れているところを偶然通りかかったコータに助けられた。
そして、同級生だった頃は猫を被っていたコータの本性を知り、
逆に俺はコータとつるむようになった。
お陰で今の俺がある。
ちなみに、コータがどういう容姿をしているかと言うと、
俺が、「悪くないけど、初対面の女にホテルに誘われるほどじゃない」なら、
コータは、「逆ナンされて、そっこーでホテルに誘われる」ような顔をしている。
女には不自由したことがないようだ。
「おい、健次郎。誤解されるようなこと言うなよ」
「誤解じゃねーだろ。今まで自他共に認める『彼女』、何人いた?」
「・・・」
「ほらな。答えらんねーだろ」
多すぎて数えられない・・・訳じゃない。
逆だ。
こいつは、まともな「彼女」というのをほとんど作ったことがない。
高校時代に後輩の女1人、
それから・・・
「あ。電話だ」
コータがそう言って、ポケットから携帯を取り出した。
ディスプレイに表示された名前を見て顔がほころぶ。
そして電話に出て、更にほころぶ。
「おい、勝手にママの携帯いじっちゃダメだろ。
・・・悪かったって、変なおじちゃんに呼び出されてさ。
・・・うん、ちゃんと今から家に戻るよ。ああ、約束覚えてるから。帰ったら出掛けような」
おーおー。
しまりのない表情しやがって。
いくら裏の顔を持ってるからって、表の顔がこれじゃぁなぁ。
俺が呆れていると、携帯を切ったコータが時間を気にしつつ、
急いでタクシーを探した。
「子供と出掛ける約束でもあんのか?」
「ああ。プリキュアのショーを見に行くんだ」
なんだそれは。
マニキュアの友達か?