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第3部 第3話

「何しに来たんだ?」


コータが無表情に言った。

言葉こそ疑問系だが、そこには「組長に逆らうな」という意味が込められているのは一目瞭然だ。


そして、ここに立っているということは、

コータは俺が来ることを予想していたってことだろう。


コータのしていることは、組長のためなのか、

それとも俺のためなのか・・・それは分からない。


「組長は?」

「自分の部屋だけど」


それが何か?とでも言いたげだ。


「・・・有は?」

「統矢さんと一緒さ、もちろん」

「・・・」


俺とコータは無言で睨み合った。



その沈黙を先に破ったのはコータだ。


「あの女は、やめとけって」

「・・・コータには関係ないだろ」

「ああ。俺には関係ない。でも統矢さんには関係ある」

「!」


気付いた時には、俺はコータに大股で詰め寄り、

胸倉を掴もうとしていた。


が、その俺の手はなんなく跳ね除けられてしまった。

コータが跳ね除けたんじゃない。

跳ね除けたのは・・・


「大成!」

「健次郎、やめとけ。コータには手を出すな」


俺とコータの間に割り込んだ大成が、静かに言った。


「立場をわきまえろ」

「・・・」


俺もコータも大成も同じ22歳。

しかも、俺とコータは小学校から高校までずっと同級生だった。

温泉好きのコータに無理矢理引っ張られて、3人で旅行に行ったこともある。

一緒に飲むなんてしょっちゅうだ。


だけど、廣野組の中では、俺達3人の立場は全く違う。


コータは組長と同じく「守られる立場」の人間で、

俺と大成は「守る立場」の人間だ。



高校時代にコータと喧嘩した時も、俺のパンチはコータにあっさりと跳ね除けられてしまった。

でもあの時は、コータ自身に跳ね除けられたんだ。


今はもう、俺の手がコータに触れることすら許されない。


ほんの1メートルほど先にいるコータが、凄く遠い存在に感じる。



俺は腕を下ろし、自分を落ち着けるためにわざと大きく息を吐いた。

大成が同情したような視線を俺に向ける。


そしてコータは・・・何か考えている。

いや、迷っている。

俺に何か言いたそうだが、言おうかどうか迷っているようだ。



コータがようやく決心して「健次郎、あの女は」と言いかけた、その時。

急に門が内側から開いた。

3人とも、思わずそっちを向く。


中から出てきたのは組長だった。

そして、そのすぐ横には・・・


「有!」


俺が叫ぶと、有はゆっくりと顔を上げた。

真っ青だ。

俺と目が会うと、有は再び視線を地面に落とした。


俺は、見たくないと思いながらも有の身体に視線を移す。


さっきと同じ、綾瀬学園高等部の制服。

濃い緑のブレザーに、チェックのスカート。


だけど・・・


さっきまで首につけていたリボンがない。

閉じてたはずのブレザーのボタンも外れている。

スカートの長さも変わってる。


どれも些細なことだ。

でもその全てが、有が一度服を脱いだということを、示している。


俺は心臓を掴まれたような胸苦しさを感じた。



「健次郎、俺からこいつを奪い返そうと思って来たのか?いい度胸してんな」


組長は皮肉るようにして言った・・・訳じゃない。

純粋に驚いているようだ。

それに、何故かちょっと嬉しそうだ。


でも。


「悪いが、こいつを返してやるわけにはいかない」

「・・・」


組長が有の方に手を伸ばした。

肩を抱いて、「俺の女にする」とでも言うのかと思ったら・・・


「きゃっ!」


組長がいきなり有の胸倉を掴み、グイッと持ち上げた!

有の足が地面から浮き、有が悲鳴を上げる。


「組長!」


俺は組長と有に駆け寄ろうとしたが、それより早く組長が有を俺とは反対方向に投げた。

それはもう、本当に「投げた」という感じだ。


小さくて軽い有の身体は、軽く2メートルは吹っ飛んだ。


・・・え・・・


なんで?

なんでそんなこと、するんだ?



組長の目からは全ての色が消えていた。

そこにあるのは闇だけだ。

背筋が凍るような冷たい目で、有を睨んでいる。



一体・・・何が起きているんだ?

かろうじて、有が組長を怒らせたらしい、ということは分かるが、

この組長をここまで怒らせるのは、よほどのことだ。



だけど、これで終わりではなかった。

もうじゅうぶん、俺の理解の範囲を超えたこの状況は、

更に思いも寄らない展開を迎えた。


なんと放り投げられた有がいきなり立ち上がり、走り出したのだ。

その向かう先は・・・大成!


不意をつかれた大成は、ぶつかってきた有もろとも地面にひっくり返った。

そして有が素早く大成の腰に手を回し、そこから何かを取り出す。


黒く光る、鉄の塊・・・


銃だ!!



「有!」



銃を見た瞬間、金縛りにあったかのように固まっていた俺は、

ようやく我に返った。



が、遅かった。



俺が有の名前を呼んだ瞬間、2発の銃声が響き渡った。





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