表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/41

第3部 第1話

――― 本田有って女を連れて来い



俺の携帯に電話をかけてきた組長が、そう言った。


いつ、どこに、とは言わなかった。

それはつまり、今すぐ廣野家に、ってことだ。


俺は反射的に「はい」と答えた。


でも、よく考えてみるとおかしい。

組長は、有のことなんて知らないはずだ。

以前、偶然一緒にホテルへ行った女が綾瀬学園の生徒だった、という話はした。

だけど有の名前は出してないし、その後俺と有の関係が続いていることも組長は知らない。


ってことは、コータが組長に話したってことだ。


別に問題はない。

これからもずっと有との関係を続けるなら、いつかは組長にも紹介しなきゃいけなくなる。


でも・・・今の組長の声はいつもと違っていた。


なんだろう。

胸騒ぎがする。




そんな嫌な予感もあって、俺は授業中の有をすぐに連れ出すことはしなかった。

時間稼ぎだ。

そんなことする必要があるのかどうかもわからないけど。



「本城先生」


俺は職員室へ行き、HRへ行く準備をしている本城先生に話しかけた。


「はい。なんですか?」

「HRが終わったら、本田有に理事長室に・・・いや、僕の車のところへ来るように言って下さい」

「・・・個人的な用事ですか?」

「わかりません。前理事長に、連れて来いと言われただけですから」


本城先生にだからこそ、敢えて正直に言った。


本城先生は有の担任だから、

もしもの時にはきっと力を貸してくれる。


・・・なんだよ。「もしもの時」って。


「わかりました。でも、」

「でも?」


本城先生が真剣な目で俺を見た。


「絶対に、本田を危ない目にあわせないでください」

「・・・はい」

「約束ですよ」

「はい」


俺が頷くと、本城先生は職員室を出て行った。






制服姿の有を車に乗せるのは初めてだ。

有も何か感じているのか、黙ったまま前を見ている。


でも、いずれ分かることだ。


俺は重い口を開いた。


「前の理事長が、有に会いたがってるんだ」

「前の理事長・・・山田山夫さんですか?」

「ああ。でもそれは偽名だ。本名は廣野統矢」

「・・・」

「廣野組ってニュースとかで聞いたことあるだろ?あそこの組長だ」


有はゆっくりと俺を見た。


「組長・・・」

「そう。ヤクザの親玉だ」

「・・・」


そうだよな、ビックリするよな。

自分が通ってる学校の前理事長が、ヤクザの親玉だなんて。

でも、前理事長は有とは何の関係もない。

有と関係あるのは・・・


「理事長先生は?」

「・・・」

「理事長先生も、その廣野組の人なんですか?」

「・・・うん」

「・・・そうですか」


有がまた視線をフロントガラスに戻す。

そしてすぐにこう言った。


「でも、そんなの関係ありません。理事長先生は理事長先生です」


俺は戸惑った。

そう言って欲しかったし、有ならそう言ってくれる気がしてた。


でも、なんかちょっとあっさりし過ぎてる。

一瞬言葉を失くすとか、「嘘ですよね?」って言うとか・・・

そんな反応が普通じゃないのか?


もしかして、有は前から何か気付いていたのだろうか。

だから、俺が廣野組の人間だと聞いても、たいして驚かないのだろうか。


でも、今はとにかく有が俺を拒絶しなかったことにホッとした俺は、

「ありがとう」とだけ言って、それ以上追求しなかった。

それに、物理的にできなかった。


目の前に大きな黒い門が現れたから。




「お、健次郎。久しぶりだな」


門番をしてる大成が、車から降りた俺をすぐに見つけ、声をかけてきた。

松尾組の動向がはっきりしないので、門番はいまだに10人体制だ。


「ああ。組長に呼ばれてきたんだ」


俺の後ろにいる制服姿の有を見て、大成は怪訝な顔をした。


「なんだ、その女?高校生か?」

「うん・・・入っていいか?」

「・・・」


廣野家の中には、基本、組員以外入れない。

もちろん、組長の客人は別だが、

有を「客人」と言っていいのかどうか、大成は判断しかねているようだ。


俺も、それはわからない。


「ちょっと待ってろ。組長に聞いてみる」

「わかった」


大成が後ろを向き、インカムに向かって何か話し始める。

中の奴に連絡を取ってるようだ。


有を見ると、さすがに緊張した顔で両手を握りしめている。

当然だろう。

門番達はみんないかにも「ヤクザです」ってナリした奴らばかりだ。

普通の女子高生の有には、恐いに違いない。


「大丈夫だから」


俺が小声でそう言うと、有は無理して作った笑顔で頷いた。


その時、門が中から開き、なんと組長が出てきた。

誰かを迎えに組長自身が門の外まで出てくるなんて、滅多にないことだ。


よほどのVIPな客人か・・・

よほどの危険人物か、


そんな時だけだ。


組長の周りには、この情勢下だからなのか、

数人の組員がついている。

門番みたいな下っ端じゃなく、結構上の奴らだ。

その中に、コータの姿もある。


いや、組長のすぐ横にいる。


つまりコータは、そういう立場の奴なんだ。


コータは俺に目で「悪いな」と言った。

でも、本当に「悪い」と思ってる顔じゃない。


「健次郎。そいつか?」


組長が有を見て言った。


「はい。・・・有、この人が、」


俺が有に目を向け、そう言った瞬間。

組長の周りにいる連中の顔つきが変わった。


なんだ?

なんかみんな、動揺してるって言うか・・・驚いてる。


変わらないのは組長とコータ。

それに、門番達。

でも門番達は、組長とコータとは違い、

俺同様「どうしてみんなが驚いてるか分からない」って顔してる。


だけどそれも一瞬のことで、みんなすぐに元の表情に戻った。

今のはなんだったんだろうか。


気にはなったが、組長がそんなことには構わず、じっと有を見つめている以上、

俺は何も言えない。


水を打ったような沈黙の中、

組長が有から目を離さないまま口を開いた。


「健次郎。この女、借りるぞ」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ