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第2部 第6話

笑えるくらい真剣な表情で、ミッキーマウスとミニーマウスの人形を見比べる有。

そして、1人で小さく頷くと、ミッキーマウスの方を手の中の赤いカゴに入れた。


そして今度は、2種類のクッキーを見比べ始める。

まるで、片方に毒でも入っているんじゃないかと思えるほど真剣だ。


「・・・何、そんなに悩んでるんだよ」

「寮の同じ部屋の子へのお土産です」

「両方買えばいいだろ」

「そんなにはいらないので。お金ももったいないし」

「俺が出すんだかもったいないも何もないだろ」


すると有はブンブンと首を振った。


「友達へのお土産なんですから、私が出します」

「いいって」

「でも・・・理事長先生は何も買わないんですか?誰かへのお土産とか」


ここで土産を買う?

誰に?

組長にか?

面白いな、それ。


でも、さすがにそんなコータみたいなフザケタことはできない。


・・・って、そうか。

そうだな。


俺は適当に人形とチョコレート菓子を選んで、有のカゴに入れ、

ついでに有が持っている2種類のクッキーもカゴに入れた。






「今日はありがとうございました。お土産まで買ってもらっちゃって」

「俺の分も買ったからいいって」


暗くなりかけた道を運転しながら、俺は苦笑した。

入園料と土産代を合わせても、いつものホテル代と有への小遣いの半分くらいだ。


それに・・・思いのほか楽しかった。


もちろん、ディズニーランド自体は昔と変わらないし、人も多くて疲れたけど、

何故か楽しかった。


有も、楽しんでたと思う。


「このぬいぐるみとお菓子、誰へのお土産なんですか?」


有は自分の膝の上の紙袋を見ながら訊ねた。


「前、学校に来た弁護士、覚えてるか?」

「え?ああ、私を助けてくれた、あの若くてかっこいい弁護士さんですね」


若くてかっこいい、ね。

まあいいけど。


「俺の同級生なんだ。もう結婚してて娘がいるから、その子に、と思って」

「へえ・・・理事長先生って優しいんですね」


なんでそんな意外そうなんだ。


「あいつ、最近引っ越したし、新居見がてら行こうと思っただけだよ」

「・・・じゃあ、今から行きませんか?」

「え?」

「私も、あの時のお礼を言いたいんです」


俺はちょっと迷った。

コータは有を気に入ってると思ってたけど、手を出す気はないらしい。

でも俺に、有との関係をやめろ、と言っていた。


俺がコータの家に有を連れて行ったら、どんな顔をするか・・・


いや、待てよ。これはいい機会かもしれない。

俺は有と切れる気がないってのを、コータにはっきりと示すんだ。

そうすれば、もうコータが有に手を出す心配は完全になくなる。

それに、いづれは廣野組の他の連中にも有のことを紹介しなくちゃいけなくなるだろう。

その時、幹部候補のコータが有のことを知っていれば、何かとやりやすいかもしれない。


よし。


「わかった。じゃあ今から行こーぜ」


俺はハンドルを切った。



が。


俺はすぐに自分のズルイ考えを後悔することになった。



以前、組長と一緒に本城先生の家に行った時、中からコータが出てきた。

本城先生とコータは兄弟なんだから、そんなことがあっても不思議じゃない。

ってことは当然、その逆もありうるって訳で・・・


俺と有は、コータの新居の前で呆然と立ち尽くした。


「ほ、本城先生・・・」

「理事長・・・に、本田?」

「はい・・・こんばんは」


ちょうど玄関から出てきた本城先生も、さすがに面食らったようだ。

そりゃまあ、自分の学校の理事長と生徒が一緒にいるところを見たらビックリするよな。

しかも、有の手にはディズニーランドの新しい袋。

デート帰り以外のなにものにも見えないだろう。


それでも、以前から俺達の仲を疑っていたであろう本城先生はすぐに真面目な顔になった。


俺の横で有が背筋を伸ばす。

俺も、なんとなく姿勢を正した。


本城先生の目はいつもの優しい目じゃない。

俺と有を「理事長と生徒」として見ているのではなく、

「男と女」として見ているのだ。

それも、金が介在している「男と女」として。


例えば俺と有が普通に付き合っているのなら、本城先生は何も言わない気がする。

でも逆に、「売り買い」の関係だと知ったら、俺を許さないだろう。


俺から見れば、本城先生は部下だ。

だけど今は、本当に自分の「先生」に睨まれている気分だ。


って、俺、今まで本当の教師に睨まれても、こんなにハラハラしたことはなかったのに。


本城先生には全てを見透かされているようで、嘘をつけない。

悪いことをしちゃいけない気がする。


俺は完全に子供に、いや、「生徒」になってしまい、本城先生に対して言葉が出てこなかった。


「理事長。これは?」

「・・・」

「先生」


有が本城先生の目を真っ直ぐ見て言った。


「私、理事長先生とお付き合いしてるんです」

「お付き合い?ただの?」


相変わらず本城先生の目は厳しい。


「はい」

「好き合って付き合ってるのか?」

「はい」


有は躊躇うことなく頷いたが、

本城先生に演技は通用しないだろう。


が、本城先生は有の目をじっと見つめ返すと、とたんにホッとした表情になった。


「そっか」


へ?


「それじゃ理事長、失礼します」

「は、はあ」

「本田も。明日は月曜だから、早く寮に戻れよ」

「はい」


そう言うと、本城先生はさっさと自分の家の方へ歩いていってしまった。


あれ。

有の嘘を信じたのか?


・・・まあ、いい。

とにかく、なんか誤魔化せたみたいだ。


俺は大きく安堵のため息をついた。





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