表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/41

第2部 第4話

「あっはは!篤志、なんだその絆創膏!?だっせー!」

「・・・コータさん」


廣野組の連中は揃いも揃って「だっせー」が好きらしい。


どこに行っていたのか、大きめの鞄と紙袋を持ったコータがフラッと大広間に入ってきた。

って、もうここに住んでる訳じゃないのに、なんで「ただいま」?


俺はコータの袖を引っ張り、怒気を含んだ小声で言った。


「コータ!どこ行ってたんだよ、この一大事に!」

「え?温泉旅行」


それで「ただいま」か。

ふざけんな。


「一大事って、なんかあったのか?」

「篤志が、松尾の奴に刃物で切られた」

「で、その絆創膏?だっせー」

「・・・」


なんて緊張感のない奴なんだ。

更に緊張感のないことに、コータは紙袋から土産らしい温泉饅頭を取り出して、

大広間に集まっている組員に配り始めた。


あ、ありえねー。


「まあまあ。ピリピリしてもしょーがねーだろ?さ、食えよ」


・・・。


幹部候補生のコータに「食え」と言われると、俺を含めて若い連中は逆らえない。

幹部連中も若いコータに「まあまあ」と言われると、大人げなく騒げない。


大広間に困惑した空気が広がる。


「はい、統矢さんもどーぞ。これうまいですよ?確か統矢さんも好きだったと思います」

「・・・コータ、あのなぁ」

「まあまあ」


コータが組長に何か目配せをした。

すると、組長も諦めたように饅頭を食いだした。


「お。うまいな」

「でしょ?」


こうなると、みんな食わない訳にはいかない。

思い思いに腰を下ろし、食い始める。

俺もそれに従う。


って、本当にうまい。

それになんか食ったことある味だな。

コータも「統矢さんも好きだったと思います」って言ってたってことは、

前にも同じ温泉に行って買ってきたことがあるのかもしれない。

まあ、温泉饅頭なんてどれも似たようなもんか。

それにしてもうまいな、これ。


みんなも、うまいなー、とか、誰かお茶持って来い、とか言って

一気に雰囲気が和む。

すっかりいつもの廣野組だ。


「コータさん、酷い」

「篤志。大丈夫か?」

「大丈夫ですけど!もうちょっと騒いでくださいよ」

「あはは。饅頭食って機嫌直せ。ほら、もう一個やるから。健次郎も」


俺達は饅頭でつられるようなヤクザじゃねー、と思いつつも、

俺も篤志も二つ目の饅頭を頬張る。


ところが、急にコータが真面目な声で言った。


「うわべの挑発に気を取られてると、本当に大事なことを見落とすぞ」

「・・・え?」


俺と篤志は驚いて、コータの顔を見た。

その表情は真剣だ。


「篤志。今日のことはもう忘れろ。いいな」

「・・・はい」


なんだよ。本当に大事なことってなんだよ?

何があるっていうんだ?


聞きたかったが、コータはそれだけ言うとまたいつものコータに戻った。

組長も、コータと同じ事を考えているのか、もう松尾のことは口に出さず、

組員と他の話題で盛り上がってる。


つまり、今日のことは「うわべの挑発だから、忘れろ」ってことなんだろう。

そして組長もコータも「本当に大事なこと」がちゃんと見えているんだ。


なんだ、それは?


なんで俺や他の組員には教えてくれないんだよ?



俺は煮え切らない気持ちで、廣野家を後にした。








「理事長先生?どうかしたんですか?」


ベッドで、俺の下にいる有が訊ねてきた。


「いや・・・ちょっと。ごめん」


昼間のことが気になって集中できず、俺は有の上に身体を落とした。

といっても、やることはもうやった。


「お仕事で何かあったんですか?」

「あー、うん。ある意味そうだな」


俺が廣野組の人間だということは、有にも言ってないから詳しい説明はできない。


有の首に腕を回して頭を抱きしめると、

有が小さく首を傾げた。


「そう言えば、理事長先生って、前の理事長先生に会ったことありますか?」

「前の理事長?」


つまり、組長だな?

会ったことがあるも何も、数時間前まで一緒にいた。


「あるけど。どうしてだ?」

「いえ・・・見たことないし、名前もなんか怪しげだったから、実在の人物なのかなって思って」

「名前?」

「はい。山田山夫やまだやまおさんです」


なんだそれ!

そんな偽名使ってたのか!


ぶぶっ。

おもしれー。


「大丈夫、大丈夫。実在するよ」


それも、かなりの存在感で。


「そうなんですか。どんな人なんですか?」

「面白くて気さくな人だよ。『仕事』のこととなると、容赦ないけど」

「へえ」

「それに・・・優しい、っつーか、心が広い人だ」

「心が広い?」

「ああ」


本当に心が広い。

よく俺なんかを拾って、世話してくれたもんだ。


そう、俺なんかを・・・



「理事長先生?」


思わず昔のことを思い出して黙った俺を、

また有が心配そうに見る。


「なんでもない。明後日はディズニーランドだな」

「あ、はい!」

「いつもみたいに、駅で待ってろよ。車で迎えに行くから」


明後日を含めれば、この1週間で有と3回も会うことになる。

昔付き合ってたどの女とも、こんなに頻繁にデートしたことはない。


こいつ、わかってんのかなあ?


無邪気に「楽しみにしてます」なんて言って笑ってるところを見ると、

とてもじゃないけど、わかってなさそうだけど。



・・・そう言えば、俺、誰かにまともに「好き」とか言ったことがない。



いつか、有に言える日は来るんだろうか。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ